参議院選挙が始まりました。
日本共産党の法定ビラが「しんぶん赤旗」に報じられていましたが、なかなかいいと思います。
https://www.jcp.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/07/202507saninsen_houtei-1.pdf
物価高騰対策としての消費税減税の扱いが非常に大きくていい
まず物価高騰対策の消費税減税が非常に大きく取り上げられていること。後述しますが、参院選で非常に関心が高いテーマです。
「しんぶん赤旗」6月号外では消費税減税がある程度目立ちはしますが、1テーマになってしまっていました。
それとの関連で財源論を大きく打ち出しているのもいいと思いました。
メディアでは、消費税減税が、社会保障財源を壊す、財政負担がたいへんになる、という報道がされているので、財源問題があわせて強調されているのもいいと思います。
財源論は単純な財源論ではなく社会保障をどうするかという大きな話にする
ただ、「財源はあります(財源こうつくる)」ということは、二つ留意すべきことがあります。
一つは、赤字国債以外の財源については、例えば立憲民主党などは税収の上振れ分などを使って赤字国債を避けるように述べています。あるいは赤字国債だって、財源といえば財源です。私の娘も「共産党は消費税減税? 他の党も訴えてるんじゃないの?」と質問していました。
財源を示しているか示していないかだけでは、区別がつきにくいのです。
もう一つは、そのことと関係していますし、前にも述べたことですが、「経済・景気対策としての財源」ではなく恒常的な社会保障の財源として何がいいのか、という大きな「国のかたち」を論じる角度で、「大企業・富裕層への応分の負担」を論じるべきだと思うのです。
つまり、これから社会保障を維持して充実していくためには、このまま一過的に消費税を減税するだけではなくて、そもそもこういう逆進性が強くて低所得者に負担の重い税制でいいのか、そして、大企業はもうけをこの間2.6倍に増やしているのに、法人税は1.6倍にしかなっていない、こんな負担のあり方でいいのか、という根本的な政治のあり方の議論として提起すべきなのです。その中で、社会保障——介護・医療をどう支えて充実していくのかをあわせて提起すべきではないでしょうか。
そうすれば社会保障財源としてむしろふさわしくない消費税は廃止すべきだ、という話も無理なくつながっていきます。
アメリカいいなりで大軍拡をやるとGDPの3.5%(20兆円)も使わされてしまう、その路線を切り替えるべきだという話も、歳出の大きなあり方を考えるというこのテーマの中で入ってきます。(今の法定ビラでも軍拡や対米従属の話は、ここ(財源問題)に位置付けられていて、それはとてもいいと思います。)
今の論戦の仕方では、単なる財源問題——「物価高騰対策として減税をする、その帳尻合わせをどこでするか」という範囲に問題がとどまってしまいます。
参院選公示日のNHKのニュースに中央大学の中北浩爾教授が解説していたように、参議院は直接的な世論や短期的な生活対策や景気対策とは違う、中長期的な視点での国の舵取りを考えるべき「良識の府」でもありますし、まあ、普通の市民の中でも「短期のことだけじゃなくて将来を見据えたビジョンになってるの?」という批判的な目を持っている人は少なくありません。だからこそ将来を見据えて、税金の取り方の重点を変えて、しかも再分配を重視しながら社会保障を持続的なものにする上で、消費税的な税制を見直すべきだと打ち出すことが重要なのだと感じます。
そしてこの話は1面の右半分でするのではなく、ウラ面全体を使ってやるべきだったと惜しまれます。
ウラ面を「外交」にしてしまわないのはよかった
法定ビラの裏面は、共産党の「実績」。
議席の値打ちのようなものですが。
ただ単純な「実績」ではなく、そのような体裁を装って、いろんな問題を論じています。
赤旗6月号外ではウラ面が外交(対米関係や平和外交)に使われてしまっていて、限られたスペースを使ってこれでは噛み合わないだろうなと思っていました。
というのは、外交・安全保障は、選挙の関心が低いのです。
もちろん、共産党綱領で重視する二つの根本問題(大企業支配と対米従属)のうちの一つですから、重視する気持ちになるのはわかりますが、有権者の意識を踏まえて今回の法定ビラではきちんとバランスを取っています。
本当は先ほど述べたように、法定ビラのウラ面全部を使って、消費税を入り口にして社会保障財源(社会保障のあり方や充実方向)を論じるようにしてほしかったのですが、外交が全面にくるよりははるかにマシだと思いました。
外交で投票のポイントにするには、ビラがもう一枚必要です。そのためのリソースが割けないなら、前述のように社会保障との対比で大軍拡を述べるという、一つの要素にとどめるべきでしょう。
「参院でも自公を少数に」も適切な配置になっている
また「自民・公明を参院でも少数に追い込みましょう」が左上にほどよい大きさでさりげなく配置されているのもいいと思いました。大きすぎないのです。
5中総で「参院でも自公を少数に」という政治目標が掲げられたために、候補者演説でも、選挙カーのスポットでも、赤旗見出しでも、党内文書でも、異常なほど強調されていて、論戦全体の中でこの比重が大きくなりすぎているのではないかと危惧していました。
たしかに、たとえば公示日のNHKでは「政権選択選挙」などと報じられている流れの中で、共産党をその中に位置づけ、からませていく、蚊帳の外にされない、ということは必要なことかもしれません。
しかし、「どうせ議席も得票も減らすから、結果が出た時に、目先を変えさせて何か党員を喜ばせる要素を作っておくための予防線でしょ」というシニカルな見方はおいておくとしても、選挙の訴えの中でこれを強調すればするほど、1人区以外の選挙区(場合によっては比例でさえも)では「それなら勝てそうな立憲に入れよう」とか「勢いのあるれいわでもいいかな」とか、そういう作用をもたらしかねないのではないでしょうか。田村委員長の第一声では安保法制や消費税について立憲民主との政策的な確認について事細かに肯定的に紹介しているので、ますますそういう気持ちが加速されるように感じます。
演説などでは、話をしめくくる最後に、「…以上のような共産党を躍進させて、参議院でも自民党・公明党を少数に追い込みましょう」とやる程度にとどめるべきです。
演説の冒頭からそれが参院選の一大テーマだという立て方をすると、演説全体がそのようなテーマになってしまい、そうすればますます「じゃあ、勝てる候補に」「勢いのある政党に」というふうに作用してしまいかねません。
「自公を少数に」を共産党の選挙カーの流しで繰り返し訴えるようなことも避けるべきだと思います。
とはいえできることは限られている
以上述べてきたんですが、これはビラがいいかどうかだけの話です。
事前の議席予想では、共産党はかなり厳しい状況が伝えられています。
どうすれば議席を増やせるか、ということについては、今回の党首討論でも「党の顔が田村委員長に代わっても、なかなか党勢が上向かない。政治と金の問題や与党への追及では非常に素晴らしいものがあるが、異論を許さない党のイメージが払拭できないからだと私は思うが」という質問が出ていたように、党幹部が気に入らない人間を排除するような体質を改めることを含め、党の体質やイメージを抜本的に刷新することが必要だと思います。若い人や現役世代の支持率が低く、近づいてこられないのです。
でもそれを公示後にやれと言ってももう間に合わないでしょう。劇的に、追放された私や松竹伸幸さんの訴訟の請求を認諾(すべて認めること)して、党首が握手して復帰させたら、ずいぶん違うでしょうけど(笑)
あとは運動量を抜本的に引き上げることくらいですが、4日付赤旗にのった参院選本部の訴えを見ても、そもそも5中総で提起したこと(1200万の支持拡大、1300万枚の基本ビラの配布、ポスター100%貼り出しなど)が公示日にどこまでできているのか、公表すらされていません。したがって、今後これが「飛躍」できるのかどうかさっぱりわからないのです。
となれば、今から私が言えることは論戦の仕方の重点を少しこう変えたらどうですか、とお伝えするくらいです。どこからも協力の呼びかけはありませんし。
災害級の危険な暑さの中で、高齢者を中心にした党員たちは猛奮闘を求められていますが、くれぐれもお身体に気をつけてください。