共産党の財源論はもっと具体的に

 2024年10月18日付の「しんぶん赤旗」の「問われる財源構想 具体的に示すのは共産党だけ」を読んでいて少々モヤりました。

www.jcp.or.jp

 「恒久的財源」*1のほうは、「え、これで『具体的』…?」って思ってしまったのです。

 

 「歳出の改革」ってあんた…。

 「具体的に示すのは共産党だけ」と大見得を切っているのに、大ざっぱすぎやしませんか。

 これなら俺でも言えます。鉛筆なめなめ、「ムダづかいをカットします! う〜ん、じゃあ13兆円くらい削ります! あ、おまけして15兆円でどうだ!」。

 本文にもあまり「具体的」には出てきません。

継続的な施策のためには、大企業や富裕層に応分の負担を求める税制改革や大軍拡の中止などで、持続的な財源を確保する

くらいなんですよね。

 政策を扱っていると、だいたいそこを聞かれます。

「あのー、『大企業や富裕層に応分の負担を求める税制改革』ってどういうものですか」

「『大軍拡』の中止って、防衛費をゼロにするんですか?」

自衛隊員の給料とかも削るんですか」

などです。

 

財源問題はメディアでもけっこう話題になっている

 共産党幹部に不当解雇された私は、裁判をするかどうか決めるために図書館で調べものをするかたわら、置いてある一般の新聞などをよく見ています。

 そうすると、確かに今回の選挙では「財源が明らかでない」という批判報道がけっこうあるんですね。びっくりしました。さっき紹介した「しんぶん赤旗」の記事にも書いてあります。

この点については「物価高対策に前のめりな一方、その裏付けとなる財源確保の議論は低調だ」(「毎日」16日)、「負担減をアピールするが、財源への言及は乏しい」(「朝日」16日)などと、マスコミも批判しています。

 これは党幹部が論点にするよう大号令をかけている論戦上のポイントです。

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 一方で、自民、公明、維新、国民民主の各党が財源論をいっさい示していないことをあげ、「なぜ財源の話ができないか。それは『5年間で43兆円』などの大軍拡をやろうとしているからです。大軍拡をやろうとすれば大増税がどうしても必要になります。財源論を言えば必ず増税の話になるから言えないのです。卑劣な増税隠しです」と厳しく指摘。「かつて自民党は、『共産党は財源論がない無責任な党だ』という根拠のない悪口を言っていたものでしたが、そっくり自民党にお返ししたい」と痛烈に批判しました。

 また、“あれをやる”“これをやる”と数々の施策を挙げながら、まともな財源論を全く示さない党があることも指摘しました。

 ホントにそうなんですよね。

 私も共産党以外の政党の選挙公約を見て、「へ〜、この党もこういうことを言ってるのか」と思うことが少なくありません。

 

他の党の公約を見ると「けっこういいこと言ってんじゃん」となる

 例えば「消費税の減税を」「最低賃金を時給1500円に」ってどの党が主張しているかわかりますか? 共産党の熱心な支持者は「そんなの共産党に決まってるだろう! あとはまあれいわ新選組くらいかな」程度の認識の方もときどきいらっしゃいます。

 でも、それはあなたが共産党のファンで、共産党の公約しか見ないから。

 他の党の公約を無心に眺めると「ふ〜ん、けっこういいこと言ってんじゃん」と思うわけですよ。素直に。

 例えば消費税の減税は維新の会や国民民主党も主張しているとは思いも寄らないわけです。「バ、バカな…あいつらは財界の犬だからそんなことを言うはずないじゃないか…!?」。

 最低賃金を時給1500円にすることだって、自民党でさえ目指しています。(ただし、2020年代のうちに、ですけどね。)

 もし共産党の候補者が演説で「消費税を減税します」「最低賃金を時給1500円にします」とそれだけしゃべっていたら、違いがわからないわけです。*2

 

 先ほどの「しんぶん赤旗」の18日付の記事でとりあげられていた教育の無償化もその一つです。

 例えば、立憲民主党は、「国公立大学の授業料無償化」が公約(私大や専門学校はそれと同程度の負担軽減)です。日本共産党は、「まずは半額に」ですから、「えっ、共産党よりいいんじゃない?」と思っちゃうわけですね。 

www.fnn.jp

 それで選挙でサービス合戦になる可能性があります。

 それはそれでいいことだとは思います。票欲しさに有権者が求める政策に変えていくというのは、ある意味で健全な民主主義の機能だと思います。

 しかし、他方で「本当にそれができるのか?」は重要な視点です。

 そこで「財源はどうするのか」を問うていくわけです。

 この意味で、志位氏や共産党赤旗の提起は正しいと思います。

財源を問題にするとき2つの仕方がある

 この時、財源を問題にする仕方が二つあります。

 一つは、実際にどこにどれだけ使える財源があるのか、という非常に具体的なお金の額とありかを示す論戦です。

 これは、緊急に実現するべき政策が非常に具体的なときにすべき論戦です。

 議会などで、例えば緊急の給付金などを出すべきであるときに、どこから捻出するのか、ということを提案する必要があります。共産党がよくやるのはなんでも使える自治体の貯金=財政調整基金がこんなにあるんだから、そこを使えばいいじゃないか、というようなやつです。

 共産党の都議団なども具体的な予算組み替え提案をしています。

https://www.jcptogidan.gr.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/2024%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E4%BA%88%E7%AE%97%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%9B%BF%E3%81%88%E8%A1%A8-%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%9F%E7%99%BA%E8%A1%A8%E7%94%A8.pdf

 しかし選挙での論戦は、こういうタイプではありません

 もう一つの財源論は、大きな政治の方向——何を大事にして、何を後回しにするか、あるいは軽んじるか、という価値観を示すということです。

 「大企業・大金持ちから税金はたくさんとって、庶民には軽くすべきだ」「企業の成長力が全体の牽引エンジンになるのでまず企業を成長させ、そこから国民にしたたり落ちてくるようにすべきだ」というような大きな方向性を争うということです。

 細かい項目を一つ一つ争うのではなく、ざっくりと「何を大事にするか」を示すことです。

 日本共産党がやっている論戦はまさにこれですね。

志位氏は、そうした中で、▽継続的施策のための財源は大企業と富裕層に応分の負担を求める税制改革などでまかなう▽「5年間で43兆円」の大軍拡はきっぱりやめるなどの歳出改革を行う▽時限的施策のための財源は大企業の内部留保への時限的課税によって確保するが、不足する場合は国債発行も含めて機動的に対処する―などの責任ある財源提案をしている唯一の政党が共産党だと強調。「日本共産党への1票で暮らしに希望を届けましょう」と訴えました。

 いいと思います。

 こういう大きな方向を国民に問うことが、選挙の大事な役割ですから。

 それがちゃんとできていると思います

 

それにしても具体性が乏しいのでは?

 しかしです

 大きな方向を問うのはよろしい。

 それにしたって、あまりにも具体性が乏しいんじゃないでしょうか

 

 「今の政治と別の方向を示すのは共産党だけ」っていう見出しなら、それでもいいんですが、赤旗では「具体的に示すのは共産党だけ」って見出しを立ててるんでしょう?

 それならもっと具体的に書くべきです。

 演説で細かく言うのは大変だし、誰も望んでいないだろうから、それは言わなくていい。

 でも、赤旗の記事にするなら、それを書くべきだし、書けるスペースがないなら、ホームページなどに誘導するQRコードを入れておくべきですね。

 

 共産党は選挙の重点公約とは別に、分野ごとの政策を詳細に出しています。

 その中に「財源提案」っていうのがあるんですよね! 

www.jcp.or.jp

 おっ、これじゃんこれじゃんと思って開きます。

 しかし…

 大企業・富裕層に応分の負担を求める税制改革で、国民の暮らしを支える財源をつくります......大企業・富裕層への優遇税制をただし、中小企業を除く法人税率を安倍政権以前の28%に戻し、大企業・富裕層に応分の負担を求める税制改革を行います。こうした歳入改革によって、年間15兆円の財源を確保します。

 暮らしも平和も破壊する大軍拡ストップ――暮らし優先の歳出改革をすすめます......歳出面では、大軍拡の中止、大型開発や原発推進予算の見直し、政党助成金の廃止などで8兆円の財源を確保します。

 え、詳細政策でもこれだけ…?

 もぞもぞします

 これは重点公約の方に書いておくべき程度の要約です。

 詳細公約に書くなら、都議団の組み替え提案ほど詳細にしろというつもりはありません。しかし、少なくとも例えば税制を改革して捻出する15兆円のうちの10兆円分くらいは項目ごとに計算根拠を書かないと気にしている人には説得力がないんじゃないでしょうか。

 歳出改革の方も「大型開発の見直し」って具体的には…? そんなのに8兆円も恒常的に出てくるの? どの項目の費用のこと? なんて言われてしまいますよ。

 実はさらに詳細なものは、「税制」の分野別公約のところに行くと出てきます。

 こっちはけっこう詳細です。

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 例えば、所得税最高税率のところは、どれくらいのパーセントにしたら、どれくらいの財源ができるかを書いています。

消費税が創設されたばかりの1990年代の所得税などの最高税率は、所得税50%、住民税15%で、あわせて65%でした。自民党政権のもとで99年に37%と13%に引き下げられ、地方への税源移譲後は所得税40%、住民税10%となりました。その後、所得税は2015年に45%に引き上げられましたが、これは、もともと民主党政権で提案されたもので、自公政権が自ら言い出したものではありません。対象も課税所得4,000万円超(5万人程度)に限定され、税収も600億円足らずしか増えませんでした。99年の引下げ前の税率水準に戻せば、1兆円以上の増収が見込めます。

 でも、ここでも項目ごとにいくら捻出できるのかは一部だけで、それぞれの項目について必ずしも書いてありません。(そもそもこの税制政策は財源論ではなく、税制の不公正さをただすにはどうしたらいいかということが政策目的です。)だからトータルの財源の項目はやっぱり具体的にはわからない。

 

 そもそもこの分野別政策にたどり着くのは、至難です。

  ポケモンカードにたとえると、SR(スーパーレア)じゃなくてSSR(スーパースペシャルレア)、いやUR(ウルトラレア)くらいっすね。

 

 だから、根拠がないわけじゃないはずです。

 計算して根拠を全部持っているはずなんです。共産党は。

 それは私が述べた、党員や党支部などとともに共産党保有している厚い人的資産の一つである政策集団の力なんです。すごいことですよ。これは。

 でも、たぶん政策サイドは細かいことを書いてツッコまれるのが嫌なんでしょう。だからあんまり陽の当たるところに置いていない。

 

 

 だけどツッコミを入れてもらうのが選挙です。

 このエントリだって「他の党には言わないくせに! 反共攻撃だ!」と思わずに、共産党へのありがたい忠告だと思ってください(押し付け)。

 「具体的に示すのは共産党だけ」と大見得を切った手前もあるので、もっと具体的に書きましょうかね。がんばってください。

 

余談

 今共産党の公式サイトは選挙用のサイトになっていますが、ちょっとわかりにくい。選挙で共産党のサイトに来る人は、まず「選挙公約が知りたい」「候補者が知りたい」と思ってやってくるんじゃないでしょうか。この二つがどこかパッとわかるように改善すべきだと思います*3。もちろん、「いや、アクセス解析などのデータではその二つはそれほど高くない」という根拠があれば、これでいいと思いますけど。

*1:「大企業の内部留保への課税」は「別途実施する時限的な財源」扱いになっていて「恒久的財源」ではありません。

*2:ただし、だから必ず他党批判を言えとか、財源論をセットにしろとか、そういう意味ではありません。ただ政策を羅列したものを聞いただけでは、違いがわからない可能性があるという事実を述べているだけです。

*3:公約は一応あるけど、「どこかな?」とまごついてしまう。