日本記者クラブでの党首討論を読む

 10月12日に日本記者クラブで7党の党首による討論が行われました。

www.jcp.or.jp

 共産党の地方議員や予定候補の方が読んでいいただければ、何かしら役に立つという角度で日本共産党の田村智子委員長の論戦を見て思ったことを書いてみます。

 

総選挙で何を訴えるかについて

 まず総選挙で何を訴えるかについての田村委員長の回答。

 冒頭、一番訴えたいことをフリップで掲げ、田村氏は「変える。」と書き、次のように述べました。

 田村 裏金を暴き、これは自民党の組織的犯罪だと徹底追及してきました。企業・団体献金全面禁止を30年間訴え続けて、今、政治改革の焦点へと押し上げています。日本共産党には政治を変える力がある。大いに訴えていきます。

 政治の責任で賃上げと労働時間の短縮を。消費税廃止に向けて直ちに5%へ。軍事費2倍ではなく、社会保障と教育の予算を増やす。暮らし応援こそ経済を元気にする道です。そして憲法9条を生かした平和外交を進め、軍事同盟強化に断固として立ち向かいます。

 気候危機打開、ジェンダー平等を前へ、こうした「政治を変える。日本共産党の躍進で」と、大いに訴えます。

 

 「変える。」…うーん「変える。」ですか。

 インパクトを重視して短くしたのは良かったとは思いますが、変革自体は、野党であれば普通は掲げているので、差異化をはかろうとするなら、「自民党政治の二つのゆがみを大本から変える大改革をすすめる日本共産党の先駆的立場」(3中総決定)を示すために「もとから変える」とか「大もとから変える」みたいなオルタナティブ(代替)感が欲しかったのではないでしょうか。

 この部分の田村さんの説明は、ちょっと聞くと個別政策を並べているようにしか聞こえないのですよね。

 時間が限られているわけですから、1つ例を出して、抜本的なオルタナティブの道を示していることをわかりやすく伝えるほうがいい。

 田村さんはせっかく裏金と企業団体献金の話をしているので、そこと大企業奉仕の政治の大本をからめた話にしぼればよかったんじゃないかなと思います。

 例えば私ならこう言います。

 「おおもとから変える」。共産党のスクープで自民党の裏金問題が暴かれました。裏金の原資となったパーティ券は事実上の企業献金であり、私たちはずっとそれを追っていました。自民党の政治の大もとが大企業や大金持ちのためにゆがんでいる、そこをただす視線があったからこそできたことだったと思います。

 30年前にリクルート事件などの金権腐敗事件が起きたとき、企業・団体献金の全面禁止を掲げたのは共産党しかいませんでした。しかし今や自民党以外の全ての政党の政策になるまで政治を動かしてきました。

 自民党政治の一番大もとを変えようと思ったら、日本共産党の躍進——これが私たちは一番の特効薬だと思っています。

核兵器問題の論戦はすばらしかった

 次は核兵器の問題です。

 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞したタイミングで、党首討論でそれを問うたわけです。

 これを機敏に取り入れたのは、すばらしかったと思います。翌日の朝日新聞はここを焦点にして7党の党首討論を報道していました。

 そして、党首討論において、核兵器禁止条約の批准を求めたのは、日本共産党だけでした。

 核兵器廃絶に取り組んできた被団協がノーベル平和賞を受賞したことと、それが日本の政治にどのようなメッセージとして変換されうるのか、は別の問題です。ノーベル平和賞が日本の被爆者団体に与えられました。では日本の政治はその国際社会のメッセージをどう受け止めますか? という宿題です。

 その変換の仕方こそ、日本の政治家が努力しなければならないものであり、最低限の責任であるとさえ思います。

 折も折、解散・総選挙なのですから、政争の具にしてはいけないどころか、まさにそれを知恵をしぼって争点化すべきなのです。

 核兵器を使わせないようにしてほしい、というのがノーベル賞受賞の理由ですから、例えば「核抑止によって使わせない」という“答え”に変換してしまうこともできます。これがまさに、自民党流の“答え”なわけです。

 これに対して、立憲民主党は「核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加」まで。日本共産党は条約の批准まで進んで自民党に迫りました。

 国連の軍縮部門トップを務める中満泉・国連事務次長も「今回の授賞決定が『核兵器禁止条約の推進に勢いをもたらす』と述べ、同条約の署名・批准をしていない日本政府に対し、締約国会議へのオブザーバー参加を検討するよう求めた」(読売)そうですから、受賞を条約批准という政策に変換することは非常に自然な流れだったと思います(そもそも被団協自体が条約批准を強く求めているわけですから)。

 核抑止か、核兵器禁止条約批准か。

 ここは対比が浮き彫りになったと思います。

 

 田村さんが

その授賞理由が大切だと思うんです。被爆者の皆さんが核兵器の非人道性を身をもって示してきた。このことが、核兵器は二度と使われてはならないという「核タブー」をつくり、そして過去80年近く核兵器を戦争で使わせていないという、大変重要な授賞理由です。

として、「核兵器の非人道性」に焦点を当てたことにより、石破首相が

核抑止力というものから目を背けてはいけない

と反論したことへの切り返しになったと思います。なぜなら、田村さんがすぐその後で再反論したように、

この核抑止とは、いざとなれば、核兵器を使うぞという脅しですから、(核兵器は)二度と使われてはならないという被爆者の願いを踏みにじるものだということは厳しく指摘しなければなりません。

となり、ノーベル賞受賞に石破首相が真っ向から背を向けていることが鮮明になったと思うからです。

 

中小企業の賃上げについて

 次は中小企業の賃上げです。

 田村さんが「自民党最低賃金1500円を目標に掲げるようになった」と述べているように、「最低賃金1500円」という公約だけでは、もはや共産党立憲民主党はもちろん、自民党とさえ差がないようになってしまいました。

 私も市長候補の時にこの要求をハローワーク前で訴えたら「そんなことできるわけねえだろ!」と野次られたことがありますが、そこから6年。隔世の感がありますね。

 そこで、共産党としては、「本気で実現しようとすれば、中小企業への支援をどうするのか。ここが鍵になる」(田村委員長)と問いたいわけです。

 しかし、党首討論では、その迫り方を「直接支援に踏み切るかどうか」でやろうとしました。

 これは、石破首相が「直接支援は全体主義だ」と非常識なことを国会で言ったこと、対して、地方の県知事レベルではどんどん直接支援が始まっていますよ、という対比になって非常によかったと思います。

 ただし、議会論戦であれば。

 相手からの言質を取ったものを積み上げて、実質的な成果を勝ち取るという角度からすれば、とてもいい論戦だとは思うのですが、選挙戦の公約の論戦としてはちょっと狭すぎると思います。「1500円を本当に実現するために、中小企業の直接支援をする共産党vs拒む自民党」というのは、もちろんそれ自体大事な中身ですが、選挙戦全体の中では話が小さい印象を与えるのではないかなと思いました。議会向き論戦なのです。

 やはりここは、大企業の内部留保への課税によって中小企業の賃上げ支援の財源をつくるという対案を再びぶつけて、大企業優先の政治に切り込むところを国民の前に示すべきだったのだろうと思います。

 この経済における「抜本的対決」という点では、むしろれいわ新選組山本太郎代表の消費税をめぐる論戦のほうがそうした抜本的対決感が際立っていたと思います。*1

緊急の要求が抜本的な対決を示しているものを厳選すべき

 ここまで経済、安保・外交それぞれの論戦を見てきましたが、核兵器問題では、国民が関心を寄せているホットな要求と、政治の抜本的な路線の対決、ということがセットになっている題材を扱っていて成功しています。

 他方で、経済の論戦は、目の前の緊急の要求実現(改良)の小路に入ってしまい、大企業奉仕の政治を変えるという抜本的な対決感が薄くなってしまっています。

 多くの国民が関心を持つ緊急要求と、政治の路線を抜本的に転換する問題は、別々の問題ではありません。短い時間の中で演説したり訴えたりするわけですから、その両者が重なって見える題材・テーマを厳選して選ぶべきです。

 候補者や議員の演説なども「政策の羅列」「抜本対決と緊急要求がバラバラ」みたいにならないよう心がけたほうがいいと思います。

 

地方議員の離党は「党の中のルールが守れない、守る意思がない」ことなのか?

 最後に、共産党は「閉鎖的」ではないか、という質問への回答について述べます。

 記者から

最近、共産党の中で委員長の公選制を主張する人を除名したり、党の問題を提起した地方党員が離党しているケースがある。共産党は、極めて閉鎖的な政党ではないかというイメージもどんどんでき上がっているのではないか

との質問が出ました。

 これに対して、田村委員長は、党大会のオープンさを強調した後で、

冒頭でご指摘いただいた問題はルールを守ろうということです。党の中のルールが守れない、守る意思がない党員は、党員でいることができないという当たり前の運営ではないかと思います。

と反論し、すぐに自民党の総裁選の話に移りました。

 「共産党の中で委員長の公選制を主張する人を除名したり、党の問題を提起した地方党員が離党しているケースがある」への反論はここだけなのです。

 しかし、これはおかしくないでしょうか。

 百歩譲って「除名」した人については、この反論でもいいかもしれません。

 しかし、「党の問題を提起した地方党員が離党しているケース」については、この反論は全く当てはまっていません。

 共産党における離党は、党規約第10条に定められた党員の正当な権利です。

第十条 党員は離党できる。党員が離党するときは、支部または党の機関に、その事情をのべ承認をもとめる。支部または党の機関は、その事情を検討し、会議にはかり、離党を認め、一級上の指導機関に報告する。ただし、党規律違反行為をおこなっている場合は、それにたいする処分の決定が先行する。

 離党した党員・地方議員は、正当な権利を行使し、党組織が承認して離党したわけで、「党の中のルールが守れない、守る意思がない党員」では毫もありません

 最近でもこうした人たちが離党し、党組織も承認しています。

 田村委員長は、「党の問題を提起した地方党員が離党」しているという認識がないのでしょうか。問題提起への対処が「閉鎖的」であったためにそれが引き起こされてはいないのでしょうか。そのことにきちんと答えるべきでした。

 ましてや、離党した地方議員を「党の中のルールが守れない、守る意思がない党員」であるかのように扱うとすれば、それは許されないことではないでしょうか。

 

 もちろん、もっと根本的な問題もあります。

 除名でもなく、離党でもなく、私のような除籍をされた党員に対するやり方はあまりに閉鎖的ではないでしょうか。

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 そのことを全く語らず、一言も反論もしないで「共産党の党運営は最もオープンだ」と自慢するのはいただけません。

 私の場合、「党の中のルールが守れない」と規約に基づいて誰がいつ決めたのか。規約を守ると私が言明しているのに、「守る意思がない党員」だと決めつける手続きをしていいのか。

 また、「党内の人権侵害(の疑い)を告発したら追放されるようなことがあっていいのか。

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 メディアの皆さんもぜひ田村委員長がもし今後そう述べたなら、そこを突っ込んでみてください。

*1:といって山本さんを支持するとか全面的に評価するかどうかは別の話です。あくまで論戦の仕方の巧拙について限定的に語っています。