田村閉会あいさつを読んで

 国会が閉会し、共産党国会議員団の閉会総会が行われ、田村智子委員長があいさつしました。

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 結論から言えば、あいさつの中身が、従来型あいさつ——共産党のいうところの「新しい政治プロセス」に対応していないあいさつになってしまっています。

 

要求運動での前進や変化をまず評価しようか

 私は国会の田村委員長のあいさつに対して

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 これをもっと短くして、その要点を述べるなら、「要求実現へ政治が動くチャンス」だとそのポイントをまとめることができるでしょう。

 私は一言で言えば、「野党が共通している公約・政策要求を抽出して、その実現には特別の位置付けを与えるべきだ」という戦略が欠けているように思います。

と注文をつけました。この点からみて、政策活動費廃止法案が野党共同で提出され、実際に成立したことをまず、高く評価すべきではないでしょうか*1。それ以外でもスフィア基準での避難所運営方針の改善は大きな前進だと言えます。

 その上で、

  • 学校給食無償化法案の共同提出
  • 企業・団体献金禁止での前向きな論戦と動き
  • 選択的夫婦別姓での石破首相の変化
  • 「103万円の壁」など生計費非課税めぐる前進や変化

などは実際に世論・論戦の前進、機運の醸成という点でダイナミックな変化があった・起こりつつあることを党員にとらえてもらう必要があります(企業・団体献金問題では一定の記述が田村あいさつにはありますが)。

 これ以外にも、学費値上げ反対のための共同を訴え、それはとてもよかったと私は思うのですが、野党や与党への働きかけや取り組みがどうだったかを振り返るべきでした。

熊本県小国町(杖立温泉)

「抜本改革提案をした」が前面なのはいただけない

 ところが、閉会に当たっての田村あいさつでは、こうした要求実現を軸にした情勢の躍動をとらえるダイナミズムが失われ、「共産党は根本的な改革を提案した」という方向だけが前面に出てしまっています。

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 「それこそが他党にない特質だ!」と言いたいのかもしれませんが、要求実現の取り組みを他の野党や国民世論とともにまみれてやってみて初めて、自民党政治のフレームとしての「障害物」性が国民の中に体験的に見えてくるのであって、根本的な方向だけ国会質問で示していれば前に進むというものでもありません。*2要求実現を軸にして、情勢が躍動的に変化し動いていることを、党員にもどう実感してもらうかに、報告の工夫が必要だと思います。

 何はともあれ、まずは新しい国会の構成になって国民の要求実現がどこまで進んだか、その角度から国会の取り組みを評価・計測すべきではないでしょうか。

 

 これは、総選挙後に開かれた共産党の今の全国方針——全国都道府県委員長会議とも大きな方向性としては合致しています。この会議で田村委員長自身が、今後の党活動の基本姿勢を「二重の構え」として次のようにまとめているからです。

 「新しい政治プロセス」を国民とともに前に動かすために、わが党の基本姿勢として「二重の構え」を貫くことをよびかけます。

 一つは、直面する熱い問題で国民とともに要求運動にとりくみ、その実現へ全力をつくすことです。

 「二重の構え」のいま一つは、自民党政治に代わる新しい政治とは何かを、国民の模索と探求にこたえ、綱領を手に国民と語り合う宣伝・対話運動にとりくむことです。

 

国民民主や維新批判のやり方が性急過ぎる

 要求実現に真剣に取り組んで、初めて障害物としての自民党政治の問題が見えてくる——という方針に比してみると、田村あいさつでの国民民主・維新批判というのはいかにも性急です。*3

一方、国民民主党は、いわゆる「103万円の壁」を引き上げるなどの自公との合意をもって、また維新の会は、「教育費無償化の協議会設置」という合意を理由に、「二つの大問題」を不問に付して補正予算に賛成し、自公政権の延命に手を貸しました。(田村委員長の前掲あいさつより)

 私は、除籍後も一般の共産党員らに呼ばれて話す機会がありますが、そこでもよく「国民民主批判をしてほしい」と頼まれたりします。

 しかし、確かに自民党公明党過半数を割り込んだけども、一般市民の多くはまだそこから抜け出そうというほどに明確に決めているわけではありません。「自民・公明政権は完全に見限ったが、代わりの野党がいない」というほどでもありません。「自民・公明は裏金問題のような形でおごり高ぶっているのは問題で、野党や市民の意見もちゃんと汲んで政権を運営してほしい」というくらいがリアルなところではないでしょうか。

 だからこそ、“要求を提示して交渉し与党にも協力する”という国民民主党の今のやり方が若い人を中心にウケているわけで、「自民・公明政権などもう大多数は支持していないのに、そんな腐った政権の延命に手を貸した!」という批判では市民感覚とのズレが生じてしまうことになります。*4

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次の国会へ向けて

 次の国会へ向けて、共産党がすべきことは、一つは企業・団体献金の禁止、もう一つは、学校給食無償化や学費値上げストップをはじめとする教育無償化——この二つを、共産党支部をあげた要求運動として重点的に取り組むべきではないかと思います。

 共産党の本来の強みは、国会やメディアでどういう動きがあろうとも、草の根で運動しているのは自分たちだということを市民の目の前で署名運動なり集会なりを開いて示せる——という「足腰」の存在でした。

 新年早々に開かれる4中総ではこの方向を打ち出すべきでしょう。(ただ、すでにその足腰も、高齢化や相次ぐ除名・除籍・離党・未結集で相当なフレイル状態になっているのかもしれません…。)

*1:田村あいさつの中には出てきますが、非常に扱いが小さいものです。

*2:もちろんそういう論戦をするなという意味ではありません。その種の論戦は必要ですが、「あいさつ」や報告で今国会の特徴的なこととして長々と弁ずるほどのものではないのです。

*3:批判するなという意味ではありません。

*4:前掲の田村あいさつでは、企業・団体献金の禁止という個別問題のくだりでも国民民主党批判が出てくるのですが「事実上ブレーキをかけたのは国民民主党」とだけ言い捨てていて、経過を追っていない人は何のことかわかりません。