「候補者宣伝について」

 引き続きビラづくりについて書きます。

 今回は「候補者宣伝について」です。

 なんでカギカッコがついているのかといえば、これについてはすでに共産党には、不破哲三書記局長(当時)が1978年の会議で行なった報告があり、それが「候補者宣伝について」というタイトルで『政策活動入門』という不破氏の本の中に収められているからです。この本は2014年に新版が出されましたが、その際にも収録されているので、いわば共産党の一つの候補者宣伝論の到達点と言えます。

 

政策活動入門

政策活動入門

  • 作者:不破 哲三
  • 発売日: 2014/12/04
  • メディア: 単行本
 

 

 今回は、私なりにそれを読んでポイントだと思っていることを抜き書きで紹介して、思うことを付け加えていきます。

 

(一)候補者宣伝はなぜ大切か

 ここは、今日ではあまり争われないところでしょう。

 「あのベテラン議員はみんなもよく知っているから大丈夫」ということで、「候補者の宣伝はしなくてよい」と思うような油断はあまりないからです。

 しかし、よく聞いてみると、その「候補者宣伝」というのは単に「名前を書いたビラをたくさん出すこと」程度だと思っている人がいます。

 不破氏は次の(二)で“それは候補者宣伝じゃないんですよ”とやんわりと注意しています。さっそく(二)をみてみましょう。

 

(二)候補者宣伝の五つの要素

 不破氏はここで、

  1. 政治家としての資質・特徴
  2. 経歴
  3. 実績
  4. 人柄
  5. 政策

をあげています。

 私の知っている共産党員で、「共産党の候補者というのはいわば党から派遣された部隊なんだから、共産党としての政策の優位性が売り物のはずだ。そして個人プレーでなくて、組織が全面的に支えて活動するんだから、人ごとに違ったらおかしい。人柄とかそんなものを売り出すのは邪道だ」と言っている人がいます。そんなに年配の人じゃありません。

 まあここまで極端な人は少ないかもしれませんが、ベテランの地方議員などは、3.実績と5.政策さえあればよくて、今さら1.や2.や4.など面映ゆいし、そんなもんいらんわ、という人はけっこういます。

 また、新人は新人で、「何の特徴もないから、政策くらいしか打ち出せない」という状態で宣伝をしている人は少なくありません。

 これらのベテラン・新人に共通するのは、「政治家としての特徴とか人柄とか経歴とかはあんまり重要じゃない」という考えであって、実は先ほどの「候補者宣伝邪道」論のような考えが根底にあるんですね。

 

 不破氏は、比例代表以外の選挙は国政でも地方でも、「最終的には候補者個人=人に投票するしくみ」だという点を指摘しています。

 共産党の戦略は「比例が軸」、つまり政党というブランドへの固定ファンを増やすことを最重要視しています。

 特定の人のファンになって、その人以外では共産党の候補には投票しないとか、その人が死んだり引退したりしたら、もうファンをやめてしまう、というのでは端的に困るからです。もっといえば、綱領の理念をちゃんと知ってもらい、それを支持してもらうというのが、革命を前進させる上では目指すべきあり方なのであって、「共産党のいっとることは何やようわからんけど、〇〇議員は好きやで」というのは入り口としてはいいけど、そこにとどまってしまうは本当はよろしくない、という思いがあります。

 しかし、そうはいっても有権者は政党の政策や実績だけを見て投票するというロボットではありません。その政策や実績を誰が訴えているのか、で説得力が全然変わってくるのは当たり前のことです。同じ内容でも、志位和夫さんが言っているのか、のび太が言っているのかでは全然違うでしょ? え、同じ…? いや、見た目とかの話じゃなくて。そう、説得力。

 

 「人」という個別のもの、すなわち具体的な存在の中に、「共産党」という普遍が現れている、という宣伝になれば一番いいわけですが、無理につなげようとすると、頭でこしらえることになります。共産党的であるかどうかをとりあえず放念しておいて、政治家としての特徴・人柄・経歴を一体的に考えて、その候補者の「人となり」のどこを押し出すか考えてみましょう。

 不破氏の指摘していることで、重要と思えるものを抜き書きしてみましょう。

ズバリこれが特徴だといえるところまで練ってみないと、本当の候補者宣伝にはなりません。これがはっきりしないと、あとで経歴や実績を整理するときも、ただの事実の羅列になってしまって、本当に役にたつ組みたてができないことになります。…候補者宣伝のキャッチフレーズを考えるときも、宙に浮いたうたい文句ではダメです。

抽象的な言葉ではなく具体的な事実で

…どの事実を、どのように表現すれば、その予定候補の人柄をもっとも効果的にあらわすことができるか、よく研究することが必要です。そのさい、口コミにのるようなエピソード、うわさになるような事実のほりおこしや、表現の仕方を工夫することが必要です。 

 これなんですけどね。

 本人・選対・支持者など、つまり宣伝する側の陣営は、つい抽象的で、しかも広くアピるような、しかしすぐ忘れられてしまうような聞こえの良すぎる打ち出しをしがちです。

 自分が訴えられる側になってみるとわかると思うんですが、何かの企業や商品の広告で、そういう文句が並んでいる会社のチラシなんか、全然信用できないでしょ? あるいは「信用できない」とまでは言わないけど、印象に残らないでしょ?

 住宅会社で「住まいの安心をつくる会社です」とか書いてあっても、「ふーん」で終わりです。

 例えば「地元発注率3年連続ナンバーワン(なんとか協会調べ)」とか書いてあれば、すぐに信用されないにしても、印象には残ります。特に注文先に迷っている人にはとても具体的で、判断材料になるでしょう。

 だいたい起きるジレンマというのは、具体的にすると「狭くなる」と思って、ついつい抽象的で広いターゲットに向けた言葉を選びがちになるということです。広告の古典的セオリーではありますが、「オールターゲットはノンターゲット」と言われるように、誰にでも響くようにと思って使う言葉は、実は誰にも届かないような弱い・抽象的な言葉になりがちです。「子たち・お年寄り・働く人たち・女性のために頑張ってます!」っていう類のスローガンを入れがちなんですが、おそらく誰にも伝わりません。これじゃあ伝わらないよなあと思いつつ、クライアントの指示だから作りますねどね(笑)。

 

 新人では「材料がない」と思われがちですが、例えば「4人の子のパパ」というだけでもこれは、忘れがたい特徴です。育休とったり、家事・育児の大半をやっていたら、統計的には希少な存在と言えます。それを自慢げに書いたらジェンダー的には反発を食らうでしょうけど、4人の子どもを育てて、実感していることを訴えたり、政策にしたら、説得力はあります。家事育児の写真とかあればますますそうです。

 「子育て層だけでは偏る」という組織内の声があるかもしれません。

 しかし、じゃあ、お年寄り向けの打ち出しも、とか、障害者向けの打ち出しも、とか、そんなことやっていったら印象が薄まってしまいます。実体もないわけですし。

 さっき不破氏が言ってたことを思い出してください。

ズバリこれが特徴だといえるところまで練ってみないと、本当の候補者宣伝にはなりません。

 まずは訪問先で「あー、4人のお子さんがいるんでしょ?」と話題にしてもらえればそれで御の字なんです。こんなに情報が溢れているご時世に、そんなふうに覚えてもらうだけでも大変な苦労です。

 組織内は支持が固いんです。投票してくれます。そこの声に過剰に応える必要はありません。勝負はその外の有権者です。広い有権者の中で候補者の本質にふさわしい具体的なターゲットを定めて、そこに向けて宣伝をすべきなのです。

 「4人の子のパパ」候補者であれば、高齢者とか障害者とかへの宣伝は、政策や作戦でやればいいのであって、ありもしない「人柄」「政治家の特徴」をそこへ向けて押し出すことはできません。

 

 ベテラン議員などの場合は、「実績の羅列」になりがちです。

 いろんな議員の実績をいう場合、政治家としての特徴と結びつける工夫が必要です。

 たくさんの実績をあげたというのも一つの特徴ですが、実績を羅列しても、なかなか覚えてくれません。パンフレットを読んで、ある政治家について、なるほどわかったといえる、だからこうなんだというところまで、実績の押しだし方についても工夫する必要があります。

 例えば、「教室に冷房を設置させた」という実績があります。

 これだけだと印象に残りません。だいたい他党、特に与党は「ウチが市長にやらせた」と言うでしょう。

 そこで、物語としてこれを展開し、その中で議員としての特徴を押し出すのが一つのパターンです。

 例えば、粘り強く質問をした、というような場合です。本会議・委員会合わせて36回質問して実現した、というのであれば、「合計36回 しつこく質問」みたいな。とにかく市側が最初ハネつけてもあきらめない、粘り強い、というのは一つの特徴です。

 あるいは、3万筆の署名の紹介議員になって、10回交渉をした、というようなケース。「住民と一緒に動かす」という特徴として押し出せます。

 また、追及が鋭い、という場合もあるでしょう。教室の温度調査をやって、執行部が答弁不能になるところまで追い込んだ、とか、他の市を調査して実態を突きつけたとか、そういう論戦能力の高さです。

 教員出身だった、ということと、絡められる場合もあります。教室の冷暖房実現が教師時代の最後に教え子から託された約束だった、と、そういう候補者宣伝をしたこともあります。

 不破氏は、

人柄や経歴、実績を宣伝するのも、この政治家が国政、あるいは地方政治の場でこういう値うちをもった人なんだ、だからこんど選ばれても、こういうことをやれるんだということをわかってもらうために出すのですから、政治家としての特徴をうちだすのが候補者宣伝の眼目です。

と言ってます。逆に言えば、候補者宣伝をする際に、福祉だ教育だ商工業だ、あれもこれもと分野を網羅する必要はないのです。たとえ教室の冷暖房のケースだけであっても、政治家としての特徴が浮かび上がればいいのですから。一つの実例を通じて、その候補者の政治家としての特徴を知ってもらうのがその意味です。

規格版ではダメ

…候補者のパンフレットやリーフレットに必要なのは、一律にはいえませんが、党の政策をただ一般的に書くのではなく、その地域に結びつく政策、その人に結びつく政策——そのことによって、その選挙区で候補者や共産党が浮きでる政策宣伝で、これは候補者宣伝としても大いに値うちがあると思います。

 これも不破氏の言う通りで、網羅的に政策が羅列してある場合が少なくありません。

 新人の場合、「新しい議会に私を送っていただき、ぜひこの3つをやらせてください!」くらいに絞り込んで、それをいつも訴える、みたいな方が、リアリティがあります。全ての分野を網羅して10も20もあったのでは印象に残らない上に、「新人がそんなにできんの?」と思われてしまうでしょう。

 若い候補者なら、「市独自の返さなくていい奨学金をつくります」というのは、自分の奨学金=借金を背負った経験などと結びついて語ってもいいでしょう。

 「毎議会必ずビラをつくり、報告会をします」「田中花子チャンネルで報告します」という公約もあり得ます。町村議会だとロクに住民に報告もしない議員ばかり、議会で何をしているのかさっぱりわからない、というところもあり、そこに共産党議員が入って全部暴露する、それだけでも実に生々しい公約になる場合があるわけです。

 

(三)仕事をすすめるうえで

 ここには、集団討議しなさい、候補者によく意見を聞きなさい、ということとともに「取材・材料あつめ」という項目があります。

 

 たとえば、実績についても、それで救われた人の側から取材できれば、ずっと生き生きしたものになります。

 「自分で自分をもちあげる」のはむずかしいもので、主観的な評価は押しつけになることもあります。しかし、他の人の言葉や一般紙誌などの報道、評論を使えば、客観的にあらわせます。

 

 地方議会だと一般新聞や雑誌の報道での紹介はなかなか難しいかもしれないのですが、少なくとも一緒に運動を進めた人の証言や救われた人の証言は取れます。顔写真と名前が出れば最高です。ここは忘れがちなんですが、ぜひくふうしてほしいところです。

 

 最後に、候補者の写真について。

 これは不破氏の本には載っていないのですが、ビラやリーフレットの文章は読まないけど、写真を見てなんとなく親近感を抱く人もいるのです。

 ポスターに使ういわゆる「御真影」だけじゃなくて、動きのある写真を撮ってもらえるデザイン会社・カメラマンを頼んで撮影してもらいましょう。服のバージョンを変えたり、撮影場所を屋外にしたりするのがいいと思います。

 前日に美容院とかに行って、普段と全然違う髪型になって撮影日にやってくる候補者が時々いますが、厳禁です。