「高島・福岡市長のロープウエー構想の問題点」を読む

 福岡県自治体問題研究所の会報「福岡の暮らしと自治」の2018年10月15日号の巻頭論文は、新谷肇一「高島・福岡市長のロープウェイ構想の問題点」です。サブタイトルは「福岡市の交通事情の現状、街の魅力はどこにあるのか」。

 

 いくつか大事だと思った点、参考になった点を書きます。

 

 一つ目は、市が立ち上げた研究会での検討は、ニューヨークやロンドンでの「都市型ロープウエー」を参考にしているんですが、

ロンドンおよびニューヨークのどちらの事例も都市型ロープウェイとは言え、川の上を走るもので、大都市の公道の真上を走るものではなく、安全性の面からも都市景観の面からも参考にならない。

とバッサリ。

 

 二つ目は、そもそもこのような「新交通」が必要な根拠はなんなのかという点に遡っていて、今ウオーターフロント地区での人の移動が1日5.6万TE(トリップエンド)であるのが20年後は16万TEに増えるという予測によるものだということです。

 私は、これが一番大事な問題だと思います。

 そもそもロープウエーを必要とするのは、“この地区が開発され、人の往来が激しくなるから、新しい交通システムが要る”というストーリーがあるからですが、(1)そもそもその地区にそんな開発をしてもお金が市民に回ってこないのが高島市政の2期8年なのだから、開発自体が不要ではないか、(2)仮に開発が必要だとしても、20年後の人の往来の予想がその通りになるというのは薄弱ではないのか、という2つの問題があります。

 (1)は私がこれまで言ってきたことです。

 (2)は実は議会で議論されています。研究会は一応根拠っぽい数字の貼り付けをして試算をしているんですが*1、20年先にその通りになるのか? っていうことなんですよね。

 だって、見てくださいよ。

 仮定に仮定を重ねて出した数字じゃないですか?(下図は「第1回 福岡市ウォーターフロント地区アクセス強化研究会」の資料)

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 新谷論文が指摘しているように、

何とこの数字は資料で示されたロープウェイのピーク時輸送量にぴったりの数字である。結論をここに持っていくために、20年後の賑わい機能等での人の発生集中量を5.6倍に増やしたと思われる。

というのがことの真相じゃないかと思います。

 

 

 三つ目は、新谷論文は建築学の専門家として景観の面からの問題点をいくつかあげているということです。

 “大博通りは太閤町割によってつくられた、海に向かう一直線の美しい景観であり、祇園山笠の舞台となっている道路である。また、その道路は寺町として「歴史の散歩道」になっている。ロープウエーはこれらの景観を壊す”というのが新谷氏の主張です。

 

 

 四つ目は、市の従来計画とも矛盾するという点です。

 まあ、このあたりは、ぜひ論文そのものを読んでほしいので詳しくは書きません。

 しかし、そういう矛盾が生じてしまうのは、

整備計画の策定後、急に市長サイドから出てきた案であることを示している。

という指摘をしています。

 

 いずれにせよ、私は「二つ目」にあげた点が重要だと思っていて、その点からみてロープウエーだけでなくあそこに新しい交通システムを導入する必要はないと考えています。

 私が市長になれば、間違いなく、ロープウエー構想は中止します。

*1:「まず、MICE機能については、既存施設に加え、第2期展示場の整備なども想定し、1日当たり現状約3万2,000人トリップエンドが約4万4,000人トリップエンドに、商業、ホテルなどにぎわい機能については、商業施設や業務施設をそれぞれ床面積約8万平方メートル、ホテルを約1,000室程度と想定し、1日当たり現状約1万9,000人トリップエンドが約10万7,000人トリップエンドになると見込んでいる。また、定期旅客については、利用者数の推移から1日当たり現状約5,000人トリップエンドが約6,000人トリップエンドになると推計している。これらを合わせ、ウォーターフロント地区における1日当たりの人の動きについては、現状約5万6,000人トリップエンドが将来的には約16万人トリップエンドになると推計している。」(2018年3月22日住宅都市局長答弁。