箱崎キャンパス跡地に巨大アリーナは必要なのか

 福岡市東区箱崎では九州大学が移転し、その跡地利用が大きな問題になっています。

 九大の移転によって約50haの広大な空き地が生まれます。

 跡地の28.5ha分(福岡ペイペイドーム4個分)を、土地を所有している九大・URが、民間企業の開発に委ねようとしています。都心の開発としては相当大きな規模の開発です。

 この部分の開発をめぐり2024年元旦の西日本新聞が「最後の大開発 福岡の岐路」と1面トップで報じました。この地に巨大アリーナ建設するかどうかをめぐって大企業グループが分裂したのです。

 現在この地を巡って事業者の公募が締め切られ少なくとも3つの陣営が応募。九大とURは提案を審査の上、2024年5月に事業者を1つに絞ることになっています。

 

巨大アリーナ計画

 九州電力を中心とするグループはアリーナを目玉とした案を準備しているとされ、「九州電力幹部は米国に渡って、巨大なアリーナを目の当たりにした興奮がやまない」と報道されました。

 ここで九電幹部が興奮したという「米国の巨大アリーナ」とはどのようなものでしょうか。

 「米国の巨大アリーナ」はおそらくラスベガスに去年の9月にオープンした「巨大球形アリーナ MSG Sphere(エム・エスジー・スフィア)」ではないかということが共産党の調査でわかっています。

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 このアリーナは敷地面積7ha、高さ112メートル、幅約157メートルという世界最大の球体構造。規模も1.8万人収容です。九電グループ箱崎に「2万人規模のアリーナ」を提案すると報道されており、ぴったりです。さらに、容積率も114%で、箱崎の公募要件で200%以内という条件に適合しています。

 MSG Sphereは全体がLEDスクリーンに包み込まれており、上空から見たら一目で「ああラスベガスに来たな」というシンボルとなっています。

 西日本新聞の元旦の1面の報道では、企業幹部が「飛行機から箱崎を見下ろしたときアリーナのようなわかりやすいものがない」とこぼしていると報道されています。まさにMSG Sphereのようなものが検討されていると言えるのではないでしょうか。

 福岡市が曲がりなりにも跡地開発の指針としてしている「九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン」にはどのような原則が定められているでしょうか。

 「グランドデザイン」の将来構想には、こうあります。

  • 「ここ箱崎だからこそできるまちづくりに向けまち全体の一体感を創出する」
  • 「周辺地域との一体的な発展を目指し、箱崎千年の歴史に育まれた文化や関係性を大切にし、周辺地域との調和・連携・交流をはかる」
  • 「100年後の未来に誇れるまち」

 箱崎に九大のあった100年の歴史、さらに1000年の歴史を引き継ぎ、次の100年後にも誇れるような街づくりを目指すのが、住民要求を反映したグランドデザインの趣旨だというわけです。利用者も限られ、周辺に混雑を生み出し、街並みの一体感ともそぐわないアリーナ建設は、「グランドデザイン」の趣旨とは全く違うものではないでしょうか。

 

 しかも、巨大アリーナは各地で混雑などを生み、住民との間でトラブルを生んでいます。

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 2023年9月に開業した収容人数2万人のKアリーナ横浜は、収容人数がちょうど2万人で九電グループが計画しているアリーナとほぼ同じだとされています。先述の元旦の西日本新聞でも箱崎の計画報道の中でこのKアリーナが比較として触れられていました。

 このアリーナは横浜駅から10分という立地にもかかわらず、ライブ終わりの凄まじい混雑が問題となり、運営会社が謝罪する事態となっています。

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横浜駅から9分の立地であると紹介されているKアリーナ横浜。しかし、実際はライブ終わりに毎回凄まじい混雑が起きており、SNSでは2時間以上かかったという声もあがっているのだ。横浜駅から9分の立地であると紹介されているKアリーナ横浜。しかし、実際はライブ終わりに毎回凄まじい混雑が起きており、SNSでは2時間以上かかったという声もあがっているのだ。(FRIDAYデジタル2023/12/12)

 現在福岡市にあるペイペイドームやマリンメッセでのスポーツやコンサート後の混雑から見ても、箱崎周辺の住宅地が、イベントごとに混雑に巻き込まれることは容易に想像できます。ここにスフィアのような巨大建造物がくればなおさらこういった状況に陥ると思いますが、グランドデザインにある「ゆとりある空間整備」とはあい容れないものではないでしょうか。

 京都では住民の運動で巨大アリーナ構想は撤回に追い込まれました。

 

 さらに言えば、スフィアのような建造物ができて、「グランドデザイン」がうたう「歴史的資源と緑」を生かしたものになるでしょうか。その「面影や記憶を継承する」ものになるでしょうか。

 私にはそうは思えません。

 しかも「持続的に発展し、100年後の未来に誇れるまち」と「グランドデザイン」の将来構想はうたいあげていますが、派手なアリーナというのは、逆に陳腐化も最も早いのではないでしょうか。スタジアム・アリーナにとって、老朽化や設備の陳腐化は避けられない課題の一つだからです。

 

IT都市構想(スマートシティ )

 次に、報道されているもう一つの方向性、IT都市について。

 こちらはJR九州西鉄などのグループ、そしてトライアルのグループもやはりIT都市づくりを提案したとされます。

 同じく元旦の西日本新聞1面で、「アリーナ対IT都市」として、跡地の公募について報道されています。この記事では、箱崎の跡地が水素エネルギーを基軸にしたまちづくりということでパイプラインなどを配置するデザインにしているが、現状ではコストが3倍もかかって企業もあまり使わないという話が書かれています。続けてその記事はこう言っています。

市のインフラ先行投資に「将来的に技術が陳腐化し、時代遅れになりかねない」という声も聞こえる。

 これは重要な指摘だと思います。

 ITやエネルギー関連は、幾何級数的に技術が進歩していきます。人工設計的に集中投資された街は、あっという間に古くなってしまいます。

 ビルなど都市開発のライフサイクルは50〜70年単位ですが、デジタルは5年後に陳腐化すると言われています。ITはライフサイクルは3年から5年、長くても10年です。

 野村證券コンサルティング事業開発部の大道亮氏は

 日本で最も古い超高層ビルは1968年に竣工した霞ヶ関ビルディングだが、リニューアル工事を経ながら50年以上経過した現在でも問題なく稼働している。都市開発のライフサイクルは50年〜70年単位と見て差し支えない。一方で、デジタルは技術も流行も移り変わりが激しいため、現在使用されているものであっても5年後には陳腐化している可能性が高い。ライフサイクルは3〜5年、長くても10年程度である。

 1度建てたら50年〜70年稼働させることを目指してビジネスモデルや体制を構築している都市開発に、5年後には企画から見直す必要に迫られるデジタルを組み込もうとすると大小様々なハレーションが発生する

と指摘しています(「都市の開発者は今、スマートシティとどう付き合うべきか」2021年10月)。

 IT都市のような発想は、最初は華々しいけど、数年であっという間に陳腐化してしまう(同じことは、アリーナについても言えます)。どんなに目新しいものを作っても、すぐ古くさくなる。どちらにしても、「100年後に誇れるまちをつくる」というグランドデザインのコンセプトに合わないのです。

 

跡地をどう利用すべきか

 先の西日本新聞の記事で、跡地利用の協議に参加していた住民の声が紹介されています。

最先端技術の実験場でなく、千年の歴史がある箱崎らしさを生かして、この地域の文脈を大事にしてほしい。

 これこそ住民の声です。

 昨年の西日本新聞10月24日付に報道された「九大箱崎キャンパス跡地、何がきてほしい?」というアンケート結果600件では、1番多かったものは「大きな公園」で、次が「教育施設」です。

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西日本新聞2023年10月24日付より

 そもそもスマートイースト構想の認知度は「知らない」が4割で最多。「知っているが内容はよくわからない」をあわせると、7割を超えて認知度がないとの結果です。

 さらにその声は、

  • 「住宅と商業で土地を埋めるような安易な開発にはならないでほしい」
  • 「商業施設は国道3号線の混雑につながる。ららぽーとやイオンなどすでに揃っている」

と、安易な開発を戒め、広大な公園を望む声が紹介されています。

 これはまさに、地元の4校区の住民が「広大な防災のための公園を」と要望してきた声と一致しています。

 今のままでは、30haに巨大なアリーナやスマートシティがつくられて、公園はわずか1haしかないという結果になります。

 15万人しか住んでいない能登半島地震でも、仮設住宅の建設用地が深刻な不足に陥っていることが日経新聞の1月16日付で報じられています。その10倍の人口を抱える福岡市で、都心に広大な公園を残し、そこに最先端のICT技術などを組み込むようなあり方こそ求められています。スマートシティやアリーナなどのような構想は一見時代の先取りのように見えて、あっという間に陳腐化する時代遅れの都市開発です。

 こうした枠組みを見直すように市として正式に表明し、4校区協議会が当初から求めた、広大な防災公園や元寇防塁を生かした、真に住民の願いに立ったまちにすべきなのです。

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