共産党専従は清貧で当たり前か

 福岡県の若い人たちが、共産党福岡県委員会の職員の残業代支払いを問題にする記者会見をしていました。

kbc.co.jp

日本共産党の党員の男性が28日、労働基準法の基準を超える労働時間が常態化し、残業代も支払われていないとして共産党福岡県委員会に改善を求めて会見を開きました。

福岡市内で会見を行ったのは、4年間共産党福岡県委員会で雇用されていた20代の共産党員の男性とその支援者です。

支援者などによりますと、男性は県委員会に雇用されてスタッフの勧誘活動などに従事していましたが、就業規則を示されず、週に5日は11時間から13時間半の労働で、休憩時間も与えられていなかったということです。

 

 前に市田忠義副委員長の「専従は霞を食って生きるわけじゃない」的な発言をXで紹介しました。

 今日は、宮本顕治(元党首)が中央委員会でどう言っていたかをご紹介します。

 「専従者給与問題の基本点は何か」という一文で、第16回党大会第10回中央委員会総会(1985年)での中間発言です。宮本の『党建設の基本方向 下』に収められています。

共産党の専従者というのは、自己犠牲的に困苦に耐える、これが活動家だという考え方が昔からあり、結局いろいろなしわ寄せがここにくるということです。善意だけれども、党の専従者というのは、ほかより低くて当然というような考え方が長い間あるわけです。(p.253-254)

困難に耐えるというのは当然ですが、共産党の勤務員は世間なみ以下だということが当たり前だという考えは打破しなければならないということです。(p.259)

 「共産党の専従者は貧しくて当たり前」「好きで活動家になったんだから死ぬまで苦労しろ」「専従でもなかった俺のとーちゃんは、めちゃくちゃ苦労したんだゾ! 贅沢言うな!」「俺なんか若い頃もっと苦労した」というリアルでもネットでも散見される党幹部追従派の意見が、この段階で、宮本顕治によって手厳しく批判されているのがわかります。

 この宮本の一文は古参活動家にはとても有名な一文です。知らずにネットなどで好き勝手を言っている人は、まあほとんど新しく党に入った・接近したという人ばかりで、無理もないことだと思います。お察しします。

 もっと言えば、「困難に耐える」という共産党専従の不屈さと、「だから待遇は悪くて当たり前」という考えを区別して、後者を敢然と批判しています。前者にとらわれて後者を肯定してしまうという陥穽を鋭く指摘しているのです。

 「党建設の基本方向」というタイトルの本に所収された、中央委員会総会決定の一つであることからもわかるように、それは瑣末な意見の違いではなく、党活動・党建設の基本点なのです。

考え方の基本は「人は城」ということです。武田信玄は「人は石垣、人は城」といったそうです。「石垣」というのは(笑い)なにかつみ重ねて、下押しするような考え方であまり感心できないのですが、「人は城」、つまり人間を正しく大事にすることが党の発展の大きなカギだということは、昔の人がいおうといまの人がいおうと間違いないことです。そういう考えからスタートして、全国統一給与の実現を理想としながらも、それができないからといって、なにも手をつけないというのではなく、可能な部分からでもこれまでの決定の実現をめざすということです。(p.256)

 宮本の有名な「人は城」論がここで出てきますが、大事なのは、「今待遇をよくするお金や条件がない」という言い訳に対して、「何も手をつけない」という状態を批判し、一歩でも二歩でも改善すべきだという考えを提示しています。

 専従者の給与水準について、日本共産党はもともとどのあたりを目標にしていたかご存知でしょうか。それもこの一文の中で出てきます。

 もともと、党の常任活動家にたいする給与をどういう水準にするかということは、第十二回党大会(七三年十一月)の決議でも「それぞれの地域における労働者の賃金水準をめざして、この基準をさらに高める必要がある」といっております。

 一九七四年の第九回全国活動者会議では、「少なくとも常任活動家の給与については公務員並みの賃金を保障する」と指摘している。これをうけて、七五年の第十二回党大会五中総でも、「昨年、党中央は党機関幹部や勤務員の給与を公務員労働者の賃金に接近させるという観点を提起しました」といって、専従者の最低給与の基準をある程度引き上げるということもいたしました。(p.252-253)

 新しく党に入った人は知らないでしょうが、昔は民間の方がずっと賃金が高かったので、まず「その地域の労働者並み」として、それが実現できなくてもせめて公務員並みに、と提起したわけです。

 この発言では、さらに、

との比較をしています。

 共産党の報酬は全く他の民間企業とは違うんだ、他の政党や労組とも違うんだ、そんなところと比較する方が頭がおかしい、と“したり顔”で講釈を垂れている人がいますけど、ご覧のとおり、フツーに比較して、そこよりも低いことを問題にしているんですよね。(冒頭でXのポスト紹介した羽田野美優さんという若い活動家は、ご自身の調査で他の政党職員と共産党職員との比較をしていましたが*1、全く正しかったわけです。)

 宮本の一文で、総評のところだけ引用してみましょうか。

ボーナスをふくめないで、総評の勤務員は諸手当ふくめて三十万円ほどといわれるのにたいし、わが党の方は二十数万円とはるかに低いようであります。(p.253)

 そして、この発言の中でもこれらの民間や社会党・総評よりも給与が低いことを、宮本は繰り返し嘆くのです。

 くりかえすようですが(共産党)中央の給与水準は社会党や総評よりもうんと低い。あかつき印刷や代々木病院より低い。そのしわよせは、家族が病気になったときとか、あるいは子どもが進学するときなどにでてくるわけですが、そういう苦しさはなかなかいえない。苦労を承知で共産党の専従者になっているわけだから、泣きごとはいえない。しかしこういう訴えがでないからといって、中央がこれに目をつぶっているときではないということです。(p.259)

 下記は、上記記事の男性が働いていた頃に有効だった、共産党福岡県委員会の「給与規定」(2012年)の第3条「別表1」です。30歳を基準してみると月18万円ですね。

福岡県委員会の基本給(当時)

 ちなみに福岡県庁の職員は30歳では基本給が27万3000円です。

fukuokasaiyo.jp

 月9万円近く差があります。

 27万円をこの男性には保障すべきだったのです。

 しかし、今すぐにはできないかもしれません。全員に一律、公務員並みに支払うだけの原資がない可能性が高い。

 ですが、「それができないからといって、なにも手をつけないというのではなく、可能な部分からでもこれまでの決定の実現をめざす」という先ほどの宮本の発言の精神に則るなら、せめて「残業代」を認めて支払えばいいのではないでしょうか

 実際、福岡県委員会は、すでに私の裁判において、職員を労働者だと認め、そして労基署からの是正勧告に基づいて、残業代を払う36協定も締結したのですから。

 

 「共産党専従は清貧で当たり前」というのは、党の決定にも背く、俗流の考え方です。共産党員や専従者、幹部でこのように考えている向きは、この機会にお改めいただきたいですね。

 

 また、私の福岡地裁での「宿直残業代裁判」にもご注目ください。

 

*1:北出茂『使える!労働法の常識 共産党で起きている問題から考える』あけび書房。