福岡市の2020年度決算を審査する決算特別委員会が開かれました。
そこで明らかになったことですが、共産党市議団の反対討論から以下、引用します。
コロナのもとで失業や収入減にさらされ住むところが奪われる事例が相次いでいますが、髙島市政は家賃の安い市営住宅は新規建設を行わない姿勢を頑なにとりつづけ、低所得者のための家賃補助事業の決算年度における実績は、なんとゼロであり、行政として住宅施策に取り組む意欲も能力もないものだと言わねばなりません。(強調は引用者、以下同じ)
私は2018年の市長選選挙公約に家賃補助を掲げました。
年金生活の一人暮らしの高齢者が住めるような民間アパート借上の市営住宅を増やします。そして、非正規で独身の若い人たちのために、民間アパートへの家賃補助をはじめます。
高島宗一郎・福岡市長は、これに全く後ろ向きだったのです。2018年11月15日の福岡市中央区の草ヶ江公民館公民館でやった演説の一節です。
選挙とかになるとね、もしかすると、これもタダにします、あれもタダにします、これにも補助金を出しましょう、あれにも補助金を出しましょうという話を聞くかもしれないんだけども、それお金どうするわけ、そんなんできりゃ今でもしてるって。ね。子どもの全部から、高齢者の全部から、もうついでに国民全員タダってすりゃ、できるんならするて(笑)。そりゃできんさ。子どもの全部から、高齢者の全部から、もうついでに国民全員タダってすりゃ、できるんならするて(笑)。そりゃできんさ。みなさんの家庭だってね、子どもたちに服はいい服着させる、医療環境もバッチリ、夏休みには海外旅行に行ってなんとかでって、塾もいっぱい習い事させて、で、お父さんお母さんには素晴らしいセカンドハウスかなんか買ってあげる、ってそりゃできんって(笑)。
彼は私の「家賃補助」政策を意識しているんですが、切実な補助金を「海外旅行」や「セカンドハウス」を購入するのと同じ要求だと言ってバカにし、あざ笑い、実現など不可能だと煽っていることがわかると思います。*1
高島市長は、市営住宅の新増設にかなり批判的で、さらに、上記のように補助を出すことにも慎重でした。「民間の力」で何とかする、という方針だったのです。高島市長は、私と選挙を争った2018年の選挙戦の直前(同年10月30日)にこう語っていました。
―対立陣営からは公営住宅などセーフティーネットをもう少し強化していいんじゃないか、という指摘もある―
高齢社会に向かってどのように高齢者の住宅を確保していくのか。入院から在宅へという流れの中で、地域で安心して暮らしていけるのかという課題は、日本全体にとって非常に大きな課題だと認識しています。人口が減っていく街であっても、増えていく街であっても、問題は変わらないと思うんです。
そのうえで福岡市はどういう事に取り組んでいるかというと、一つは民間の賃貸住宅などを借りていく。福岡は新築志向が非常に強い土地ですので、意外と、築何年の住宅が空きがあったりという事もある訳です。
こうした空き部屋を活用していくのは非常に大事で。こうしたアセット(資産)があるにもかかわらず、市が別の形で住宅を建築するのは、行政の最適化からしてもいかがなものか。
民間の皆さんにとって、どういう形であれば、例えば低所得者の方とか、高齢者の方を受け入れやすいのか。やはり保証の仕組みが大事になってくる訳です。ですから、福岡市社協と一緒になって、民間の皆さんと、高齢者が住み替えを促進できるような協定を結んだり。そういうかなり先進的な取り組みをしてきている。
「保証の仕組み」——これは現在市が躍起になって進めている「セーフティネット住宅を登録する」というやり方です。「貧乏人だから」「年寄りだから」「障害者だから」といって入居を拒まない民間アパートなどを登録によって増やそうとしました。そして、これは一定増えたわけです(2020年1月31日で186戸)。
しかし、高島市政は、このように言いながら結局世論に押されて、家賃補助制度を始めました。このセーフティネット住宅に登録した住宅の中で家賃補助を大家に渡す制度をやろうとしました。
これ自体は、私が掲げてきた公約へ向けての一歩前進です。逆に言えば、高島市長の「敗北」であり、彼の先見性の無さが浮き彫りになったわけです。反対していた私の公約の方向を取り入れざるを得なくなったわけですから。ロープウエー中止や、少人数学級と同じですね。
しかし、実績はゼロです。
家賃が安くなるというのに実績がない。通常では考えられません。政策がうまくマッチしていないかも…、つまり高齢者はみんな裕福になって家賃補助など、制度があっても使わない——とは考えにくいですよね。
明らかに制度がおかしいのです。
まさに「行政として住宅施策に取り組む意欲も能力もないもの」です。
実は、この問題は全国的に起きています。
なぜなら「セーフティネット住宅」という枠組みは国の枠組みであり、その専用住宅に限って家賃補助を行うというのも国の枠組みだからです。
高島市政は、国が金を出すならとしぶしぶ始めたものの、国のダメダメな枠組みに従うだけで、高齢者や若年単身者の実態に寄り添う気も能力もないので、こんな結果になっているのです。
その辺りを詳しく、共産党の理論誌「前衛」11月号の寺下真論文「『住まいの貧困』を打開するために——コロナ禍から見えてきたもの」が書いています。
二〇二一年九月時点で、「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない「セーフティネット住宅」の登録は、約六〇万戸まで増えました。制度自体、表向きは前進があるようにも見えます。ところが、そのうち家賃低廉化(家賃補助)の対象となるのは、そのうち約六〇万戸ではなく、「住宅確保要配慮者」のみが入居する「専用住宅」であり、その登録戸数は全国でわずか四〇〇〇戸程度と国交省は説明しています。現状では、どんなに家賃低廉化を進めたくても、四〇〇〇戸以上には増やしようがないのです。
これでは、もっとも住宅困窮者対策として期待が高かった家賃低廉化(家賃補助)の施策は重大な機能不全に陥っていると評価せざるを得ません。(前掲誌p.214)
家賃低廉化(家賃補助)を受けている世帯は、全国でわずか一七自治体の二〇八戸、使われた国費は三三八三万円にすぎません。(同前)
寺下論文では改善の方向として、
コロナ禍を経てまず求められる住宅困窮者対策は、入居者自身に給付する国の家賃補助制度の創設です。(同前)
と結論づけています。
私は、高齢者、とくに単身高齢者についてはもし入居拒否があるなら、民間住宅の借り上げを進めて準公営住宅にするとともに、公営住宅そのものの増設を進めるべきだと考え、2018年市長選挙でもそう訴えてきました。
そして単身の若年者にはこういう民間アパートへの家賃補助がいいだろうと思って、訴えてきました。
日本政府、というか自民党(・公明党)政権の長年の政策は「持ち家偏重」政策であり、資産としての家を持つようにローンを優遇するなどしてきました。賃貸の人たちには公営住宅は増やさない、家賃補助はやらないなど徹底した冷遇政策をとり続けてきたのです。
私は、2018年の市長選の時の記事でも平山洋介教授の著作を紹介する形でこの「持ち家主義」(持ち家偏重主義)との決別を呼びかけてきました。
神戸大学の平山洋介教授の『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)では、ケメニーという学者の分類モデルを紹介し、日本の住宅政策は「持ち家主義」であり、「デュアリズム」と言って国民に持ち家を持たせることに政策資源を集中させ、社会的賃貸住宅は「残余」つまり余り物としておざなりにしかやってこなかったものだとしています。
これに対して、ユニタリズムというのは、特定の住宅をひいきせず、持ち家でも賃貸でもどういう家を持っても「中立」的な政策をやっています。
日本は持ち家主義から変わらなければいけません。
特に、若者と高齢者の単身者が増え、それら単身世帯が市の半分を占め、さらに低所得世帯がやはり市の世帯の半分を占めるようになった現代では、「ローンを組んで持ち家を持つ」という世帯だけが優遇され、社会的に「賃貸から持ち家へ」ハシゴを登るように誘導される政策は、もう限界にきています。
前述の寺下論文が指摘するように、自公政権にとっては「住まいは人権」なのではなく、あくまで経済対策の一環なのです。
政府の住宅政策の主眼は、ハウスメーカーなど住宅産業の支援にあります。居住者支援は後景に追いやられています。住宅政策は、住宅市場を活性化し、住宅産業を支援する「経済対策」なのです。(寺下前掲p.207)
寺下論文では諸外国と日本の動向を次のように総括しています。
これに対して、賃貸住宅向けの住宅政策としては、多くの国では(1)公的な家賃補助制度と、(2)公営住宅など公共住宅の制度による支援があります。(1)と(2)のいずれかに力を入れるとか、双方やるとか、国ごとに支援の方法には違いがあります。しかし、日本は、(1)国が責任を持つ家賃補助制度はありませんし、(2)公的賃貸住宅は、公営住宅とUR賃貸住宅を合計しても全国で約二九〇万戸、住宅ストック全体の五%程度しかありません。公営住宅もUR賃貸住宅も戸数が減る一方です。(寺下前掲p.208-209)
日本も賃貸住宅については「住まいは人権」の立場から、公営住宅を増やし、家賃補助を進める政策に切り替えるべきでしょう。「持ち家」の皆さんとの公平を保つ上でも、ベーシックな「住宅手当」を全世帯に行うよう政策を発展させていくべきです。
それが私が2018年の市長選挙で訴えた、家賃補助からベーシックインカム(ベーシックサービス)へという考えです。
そして、野党共通政策に次の一文が入りました。
誰もが人間らしい生活を送れるよう、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援を拡充し、子育て世代や若者への社会的投資の充実を図る。
そして、これは野党が政権を取った場合に実行される政策となり、共産党は立憲民主党と政権協力で合意し、この野党共通政策の範囲に限定して閣外から協力することになりました。つまり、共産党はこの政策を政権に実行させる責任を持つポジション、コントロールの権利を協定によって入手したのです。
ふん、こんなものキレイゴトじゃないか、とお嘆きの貴兄に。
それはそうかもしれません。放っておけば、あまり具体化されない恐れがあります。
しかし逆に考えれば、「住宅…について公的支援を拡充」することを定めているわけですから、この条項を入り口にして具体的な支援策の実行を求めることができるのです。
寺下論文では、この野党共通政策に触れてこう述べています。
今後、各地域でこの共通政策をもとに運動を進める際に、この内容が地域の実情に合わせて豊かに発展できればすばらしいことです。特に、家賃補助制度の創設は、各党で一致できないでしょうか。公営住宅の供給増はどうでしょうか。子育て世代や若者への「社会投資」に限定せず、高齢者なども含めて「住まいは人権」という立場から合意できないでしょうか。草の根から「共通政策」がより豊かになれば、野党共闘もますます意義深い取り組みとなるでしょう。(寺下前掲p.215)
ここには、野党共闘、野党連合政権、そして総選挙を考える非常に重要なヒントがあります。
一つは、「野党共通政策」の実行は「立憲民主党おまかせ」ではないこと。
「政権をとって実行するなら立憲民主党だけでいいだろ?」ということではなく、野党がそれぞれの立場からその具体化をすることが必要だということですし、特に、政権協力合意をして閣外からの政策実行へのコントロールを約束したことは、そうした政策に熱心な政党(ここでは共産党)がどれだけ伸びるかが大事になってきます。
もちろん、立憲民主党は立憲民主党で、「うちの方が熱心」というアプローチをして競ってもらえばいいと思います。
二つ目は、抽象的な方向性をうたっている項目は、今後の市民と野党の共闘でこそ具体化されていくものだということ。
これ以外にも、野党共通政策はやや抽象的な政策条項が少なくありません。
- 医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーの待遇改善を急ぐ。
- 最低賃金の引き上げや非正規雇用・フリーランスの処遇改善により、ワーキングプアをなくす。
- 農林水産業への支援を強め、食料安全保障を確保する。
これらを「抽象的にとどまった」とみずに、むしろより具体化して豊かにして実行する、奥行きのある条項が入ったものとして、運動や共闘のテコにしていくことができます。
野党共通政策には、「消費税減税を行い」とか「日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命する」などの相当具体的な文言が入っていますが、逆に考えれば、それはそこで終わりの条項です。
それよりは、大きな方向を戦略的に共有して具体化をしていく方が、むしろ自民・公明政治の柱を大きく変えることができます。
*1:余談ですが、2018年市長選挙終盤で高島氏が唯一の対立候補であった私に対して、急に、異常なまでにアグレッシブになりました。こういう屋内演説だけでなく、最終日は私の打ち上げ演説の横を妨害するかのように絶叫して通り過ぎて行きました(後日、議会で問題にすらなったほどのひどさ)。また、急遽自民党にも推薦を頼んだりしました。突然「横綱相撲」を捨てて、目に見えて焦り始める——私にはたいへん奇妙な光景に映ったものです。私に負けそうだった…というよりも、ロープウエー問題をはじめとする私の「健闘」ぶりが世論調査で伝わり(これは西日本新聞がその年の12月に特集を組んで報じています)、彼自身の「史上最高得票」の更新ができないどころか、逆に得票を後退させる危険があったこと、そして代わりに「共産単独推薦候補として過去最高」の「名誉」を私に与えかねないということを危惧したのでしょう。もしそうなれば「高島氏得票後退 共産推薦候補が過去最高得票」という「イ〜ヤな」見出しが翌日の紙面を飾りかねないと思ったのかもしれません。ま、あくまで邪推ですけど。