田中しんすけさんに一本化——福岡市における市民と野党の共闘の新しい形

 福岡市議会の福岡市民クラブ(立憲民主党社民党・無所蔵の市議の合同会派)の代表だった田中しんすけさんが、市議を辞し、立憲民主党も離党し、無所属として2022年の福岡市長選挙に出馬を表明しました。

 私も参加している「福岡市から政治をかえる会」には政党関係では、日本共産党、ふくおか緑の党、ふくおか市民政治ネットワーク・福岡城南、市民ネットワーク福岡が参加しています。そして、れいわ新選組の有志(市議予定候補ら)も加わり、幅広い立場の市民団体・個人が参加しています。

 2022年10月11日に田中氏と「かえる会」との間で8項目の政策協定が結ばれ、「かえる会」の片山すみこさんは市長選の候補者の内定を取り下げました。これで、市民と野党の新しい共闘における候補者一本化がついに実現しました。

 締結された8項目は次の通りです。

 なんども言ってきましたが、福岡市政治史上、これは本当に画期的なことだと思います。

 

 前回私が市長選挙に出た時、政党としては日本共産党の単独推薦となりました。ただ、その中でも、緑の党の荒木市議、ネットワークの森市議、立憲民主党の宮浦元県議(現市議)が応援してくれました。

 私は、選挙が終わった後、私を推してくれた「市民が主人公の福岡市をめざす市民の会」(市民の会)の総会に出て感想を述べ、「次は市民と野党の共闘でたたかい、それにふさわしい候補者を立てましょう」と呼びかけました。

 それが実際に形になったのです。まことに感無量でした。

 この動きは、たくさんの人がすばらしい役割を果たしてきたのですが、私は立憲民主党の側では宮浦寛市議の役割は特筆すべきだと感じています。

 そもそも、宮浦さんは、立憲民主党の政治家でありながら、私の選挙に応援に駆けつけてくれました。これは本当に驚きました。応援すると言ってくれたけど、実際にはメッセージも出せず、会場にも来られなかったという政治家の方は少なくありませんでした。おそらくいろんなしがらみや制約があったのだろうことは想像にかたくありません。仕方がないことです。

 しかし宮浦さんは、それらを乗り越えて、実際に演説会場に足を運んでくれて、応援の訴えをしてくれたのです。それはなかなかできることではなかっただろうと思いました。

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 今回、「かえる会」と田中さんとの間で一本化の協議をする際に、率直に言って初めはギクシャクがありました。「かえる会」としては立憲民主党にもなんども打診して反応があまりない中で、会として片山すみこさんを内定しましたが、その直後に田中さんが出馬決意・表明をしたからです。田中さんが決意するまでにかなりの迷いがあった、というのが田中さんの説明でしたから、それを信じるとすればこういう経過になってしまったのは無理もないことです。

 しかし、「かえる会」としては、一体どういうことなのだろう、という不信感が先立ってしまいます。また、もともと片山さんは市民連合ふくおかの事務局長をされていたように、その大義は「市民と野党の共闘」ですから、野党系候補が2つに割れるなどということは本意ではありません。一本化をするとしても、田中さんが誠実にその協議に臨んでくれるのかは、不安がありました。

 そこに、「かえる会」の世話人*1、総会の場にやってきて立憲民主党および市民クラブの代表者として説明をしたのが宮浦さんでした。

 「かえる会」のみなさんからは先ほどのような経過もあり、不信感や疑問の声が相次ぎます。それも当然だろうと思いました。宮浦さんからすれば針のむしろだったと思います。しかし、それに臆することなく、宮浦さんは受け止めて説明をし、繰り返し足を運ばれました。

 何らかの説明をしても、内容がゼロ回答とか、それに近いことも世の中にはままあります。実際には何も受け止めない、形だけの一方的な説明の場合がそれです。自民党自公政権が悪用する「丁寧な説明」を思い浮かべる人も多いでしょう。

 しかし、宮浦さんは、説明をきちんとした上に、8項目の政策の内容もほぼ受け入れられることを表明しました。これは私には驚きでした。

 特に開発については、「市民参加での見直し」という形にしてあり、現市長の開発そのものに反対していない立憲民主党であっても賛成できる政策に工夫されていたのですが、おそらくそこまでは踏み込めないのではないかという憶測が私にはありました。誠実な政治家であれば、そこをきちんと読み込んで、一致点を探る努力をするはずなのです。そして、宮浦さんは、その努力をしっかり見せてくれました。

 そういう場に丁寧に足を運び、実際に中身についても誠実に検討し、受け入れてもらったわけで、これは少なくとも福岡市における市民と野党の共闘の歴史の中では特筆すべきことのように思われました。

 

 

 この立場は、どうも宮浦さんだけではなく、田中さんも全く同じであることが、のちに「かえる会」の説明に来た時に、宮浦さんと同じスタンスをしっかり述べてくれたことで、すっと理解できました。

 しかも厳密だと思いました。

 例えば合意された8項目の政策は柱なのですが、「かえる会」が総会で決定した8項目政策には細目があって、その中には「原発に頼らず、省エネルギー再生可能エネルギーを中心に、気候危機対策を進めます」「戦争になったときに攻撃対象となる原発の停止・廃止を求めます」という文言があります。

 総会で田中さんに「原発はどう考えるのですか」と質問が出ました。

 田中さんは「いまの原発のしくみは最終処理をふくめて、このまま続けるのは難しい」としつつも、「それをなくしていくための代替エネルギーについてはいろんな人の意見を聞いていく」と答え、その二つの立場を総括して、「ベクトルは同じだと思う」と最後に述べました。これは即時廃棄論でないことを示しています。しかし、原発は将来的には無くしていくべきだろうという大きな方向性での一致を確認した上で、 「代替エネルギーについてはいろんな人の意見を聞いていく」と述べているように、電力会社系の団体(労組)などの意見も踏まえるということを述べています。過渡的には原発を動かすことを容認するかもしれないというニュアンスを残しています。しかし最後は「ベクトルは同じ」と質問者との親近感を表現しています。大変よくできた、厳密な答えだと思います。

 決して「かえる会」におもねったりせず、厳密に説明していることがわかります。

 

 そのことは、今朝の西日本新聞の記事でも感じました。現市長である高島宗一郎氏が推進する都心開発に「天神ビッグバン」があります。ビルの高さや容積率を緩和して、建て替えを促し、大量のオフィスを供給しようとするものです。「税金を使わない」という触れ込みとは逆に、アクセスする地下道や道路などの関連施設へ莫大な税金が投入され、容積率の緩和により引き起こされる地価高騰やインフラへの負荷は住民にコストとなって押しつけられます。

今回、対抗馬として名乗りを上げたのは元市議の新人田中慎介(44)=立憲民主党推薦。もともと「天神ビッグバン」など市の開発路線にも反対はしていないが、出馬会見で「市民一人一人の活力が豊かさにつながるボトムアップ型に転換すべきだ」と訴えた。

 ここには「市民中心による見直し」路線の正確な反映があります。

 そして「かえる会」の考える「見直し」とも違いがあるように思いますが、政策協定の範囲内で田中さんに与えられた自由度というべきでしょう。それを田中さんはしっかり踏まえていると感じました。

 本当に気持ちの良い形で、新しい共闘のスタートが切れたと思います。

 「立場の違う人と向き合う」「誠実に対応する」ということを田中さんは実践で証明したわけで、“立場の違う人とは会わない”ことを自著で公言している髙島市長とも明白な違いが浮き彫りになったかっこうです。

 

 余談ですが、政治家はやはり足を運んでナンボ、ということも個人的に強く思いました。

 初めは「かえる会」全体として、宮浦さんに対しても(そして田中さんに対しても)不信感があったわけですが、その場にやってきて、言葉を交わす中で、気持ちが移っていくという空気を肌身で実感しました。

 政治において「実際に会う」「肉声で言葉を交わす」は、書かれた文字、映像よりもはるかに強いんだと思いました。

*1:正確にはのちに世話人会になった場。