なぜ高齢の生活困窮者が増えるのか

 共産党の理論誌「前衛」2018年10月号に載った稲葉剛さんの論考「広がる高齢者の生活困窮と『住まいの貧困』」は私の市長選政策を作るうえで非常に参考になりました。

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ローンを払い終えた家で二人の年金でどうにか細々と

 一番参考になったのは、「なぜ高齢の生活困窮者が増えるのか」という点です。

 稲葉さんによれば、これまでは持ち家プラス夫婦の年金というのが暗黙の前提としてあり、ローンを払い終えた家で家賃負担なしに、二人の年金でどうにか細々と暮らせていたといいます。

 しかし、この前提が崩れ、老後になっても賃貸で暮らしたり、未婚・死別で単身世帯になってしまったりして、家賃負担+1人の年金で一気に生活が苦しくなるのだ、と。

 

 前は、古い木造賃貸アパートがまだたくさんありました。

 私も東京時代、そういう家に住んで、フロなし・エアコンなし・セキュリティなしの、ものすごいやっすい家賃のアパートに10年住んで、貯金をすることができました。

 しかし、どんどん取り壊しがすすみ、そういう「ひどいけども、安い住まい」がなくなってしまっています。

 こういう「木賃」の選択肢がなくなると、都内だと一気に6〜7万円台になってしまう。福岡市でも急に高くなりますよね。

 

 福岡市では、やはり高齢者の単身世帯が大幅に増えています。

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 つまり稲葉さんの指摘した問題が福岡市でも深刻に引き起こされている可能性が高いのです。

 そこで国や福岡市がやり始めたのは、「セーフティネット住宅」といって、高齢者でも入居を拒まない住宅を民間で登録してもらおうというやり方です。そういう住宅に手を上げてくれた大家には、最大月4万円の家賃補助を出そうという話になっています。福岡市では、まだそれは実現していませんが。

 

対応できていない福岡市の住宅計画

 ところが、このセーフティネット住宅への登録はぜんぜん進んでいません。

 全国でたった1170戸。

 今日(2018年10月9日)の議会でも質問がありましたが、福岡市では10月現在ゼロです

 

 稲葉さんは、そこに大家側の入居差別があることを指摘しています。

 稲葉さんが紹介しているのは、国土交通省「安心居住政策研究会」に出された資料で、日本賃貸住宅管理協会の実施したアンケート結果です。

 

高齢者世帯の入居に拒否感のある大家は、二〇一五年で七〇・二%にのぼっています(二〇一〇年は五九・二%)……拒否をしている理由としては、「家賃の支払いに対する不安」(六一・五%)に次いで、「居室内での死亡事故等に対する不安」(五六・九%)が二位に入っており、とくに単身高齢者に対しては「孤独死をするのではないか」という懸念からオーナーの間に入居への拒否感が高まっていることが推察されます。孤独死が発生して、発見が遅れてしまえば、居室内の清掃や原状回復に多額の費用がかかるだけでなく、次に賃貸に出す際に事故物件として扱われ、家賃を下げざるを得なくなる可能性もある。そうしたリスクを考慮して、「最初から単身高齢者は入れない」という選択をするオーナーが多いのだと思われます。(「前衛」前掲p.56-57)

 

 

 このために、セーフティネット住宅に登録してもらおうという話なのですが、さっきも言った通り、登録はゼロ。福岡市の住宅審議会の審議の様子をみると、民間業者の代表の側の人たちは、“福祉的な政策部分を民間の我々に担わせようと思っても無理だ”という感じなのです。

 

単身高齢者には公営住宅を増やして対応を

 だとすれば、単身高齢者はどうすればいいのでしょうか。

 たとえ今後家賃補助をつけたとしても、「孤独死するのではないか」という大家さんの不安は解消しきれません。市側は必死でNPOなどに有料で見守りや後片付けの支援をしてもらおうとしており、それはそれで大切なのですが、限界があると思います。

 私は、この人たちは、市営住宅に入ってもらうのが一番よい解決策になるだろうと思います。もちろん、民間アパートを市が借り上げてもいい。

 つまり、市が入居を引き受けるのが一番いいです。

 この問題は、民間=市場原理まかせでは解決しません。

 ところが、福岡市の市営住宅はどうなっているかといえば、全然増えていません。むしろ管理戸数は高島市政になって減っています(H21とH28の比較)。*1そしてこれからも増やす計画はありません。

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 今日(2018年10月9日)の市議会でも住宅都市局長は市営住宅の戸数については「現状維持」「量的拡大はしない」という方針を繰り返しました。要するに増やさないのです。

 

若者単身世帯には家賃補助、市営住宅入居を

 さらに、低所得の若者の単身者については、今日の市議会で住宅都市局長は「低所得の若者の単身者というだけでは特に配慮を要するとは言い難いため入居の対象とすることは難しい」としてやはり市営住宅への入居をはっきり・きっぱりと明確に拒みました。

 この層(若い低所得の単身者)には、セーフティネット住宅への登録を増やして入ってもらうのが効果的ですし、セーフティネット住宅でなくても家賃補助をすべきだと私は思います。もちろん市営住宅への入居も認めるようにすべきです。

 こうした意見は福岡市の住宅審議会でも審議委員から出されています。

 若い人は、まずは家賃補助に期限をつけてもいいと思います。

 一定の年限でがんばって節約すれば、貯金ができたり、正社員になって所得が増えるかもしれないからです。むろん期限をつけないほうがより望ましいわけですが、私が市長になった場合、まずはそこからスタートしてもいいと考えます。

 

持ち家だけしか考えない政策は終わりに

 神戸大学平山洋介教授の『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)では、ケメニーという学者の分類モデルを紹介し、日本の住宅政策は「持ち家主義」であり、「デュアリズム」と言って国民に持ち家を持たせることに政策資源を集中させ、社会的賃貸住宅は「残余」つまり余り物としておざなりにしかやってこなかったものだとしています。

 これに対して、ユニタリズムというのは、特定の住宅をひいきせず、持ち家でも賃貸でもどういう家を持っても「中立」的な政策をやっています。

 

  日本は持ち家主義から変わらなければいけません。

 特に、若者と高齢者の単身者が増え、それら単身世帯が市の半分を占め、さらに低所得世帯がやはり市の世帯の半分を占めるようになった現代では、「ローンを組んで持ち家を持つ」という世帯だけが優遇され、社会的に「賃貸から持ち家へ」ハシゴを登るように誘導される政策は、もう限界にきています。

 

 特定の住宅をひいきせず、持ち家でも賃貸でもどういう家を持っても「中立」的な政策となるユニタリズム――こうした新しい住宅政策の流れを、福岡から起こしていこうと私は考えています。 

 

*1:今日H29の数字を住宅都市局長は答弁したが、31,694戸になり、H21の31,710戸よりも減っていることに変わりはなかった。