就学援助切り下げを「嗤う」現市長の耐えられない「軽さ」

 これで選挙運動期間中は最後のブログ更新になるでしょうか。

 就学援助の問題を取り上げておきたいと思います。

 

弱い者がさらに弱い者をたたく

 さいきまこさんのマンガに『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』(秋田書店)というのがあります。私はペンネームで『このマンガがすごい!  2015』アンケートで第2位にこの作品を選ばせてもらったことがあります。

 「ふつうの家族」が生活が崩れていく中で生活保護に頼らざるを得なくなる過程、そして葛藤が描かれ、受給してからもさまざまなバッシングに遭う様子が克明に描かれています。そして作者はそうした攻撃に果敢に反撃しています。

 

 この中で、主人公一家とは別に、生活保護は受けていないけども、ギリギリの生活で努力しているシングルマザーの家庭が出てきます。このシングルマザーの女性は自分たちはこんなにがんばっているのに、主人公一家は生活保護を受けて「楽をしている」と憤っていました。

 ところが、生活保護に連動して、自分たちの就学援助が切り下げられることがわかり愕然とします。

 さいきさんの絵柄は、こういっては失礼かもしれませんが、不安を表情で煽る絵柄が生々しく(下図参照)、私はいつも不穏な気持ちで読みます(あのー、褒め言葉ですよ)。

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さいきまこ『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』秋田書店、p.114

 生活保護など怠け者の受けるものであり生活保護の切り下げはいい気味だと思っていたシングルマザーの女性は、生活保護基準の切り下げが就学援助や保育料、住民税の切り下げとなって連動し、低所得世帯全体を直撃することに衝撃を受けるのです。さいきさんが描く、この不穏な表情に端的に表されるように。

 ここには、生活保護が「貧困ライン=健康で文化的な最低限度の生活のライン」として国民全体の生活のボトムを支えている役割を果たしてることが正確に描かれています。ボトムが下がれば、全体が沈んでいくのです。

 

 そして、介護保険料まで連動すると不安がる年配の女性に、同じ境遇であると「共感」しようとして、手ひどい反発を受けます。

 おまえなど、離婚してシングルになったわけだから「すきこのんで」その立場を選んでいるのではないか、図々しく共感など示すな、と。

 この年配女性の不安と、憎々しげな「選別」の表情を見てください(下図参照)。

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さいき同前p.115

 生活保護を叩く低所得の人がさらに別の低所得の人に叩かれるという地獄がここにあります。「弱い者たちが夕暮れ さらに弱い者をたたく」というフレーズ*1が思い出されます。

 

就学援助切り下げは何を奪ったか

 最近、「しんぶん赤旗」で次のような記事を見ました。

就学援助 2割超で引き下げ/政令市・東京23区 生活保護削減が影響/本紙調べ

 福岡市の高島市政は、安倍政権の生活保護基準カットに連動して、就学援助を切り下げた数少ない自治体の一つです。多くの自治体では、連動させずにふみとどまって切り下げをしなかったのです。

 高島市政は、いわば国(安倍政権)の生活保護カットを唯々諾々と受け入れるだけでなく、その影響をそのまま低所得世帯に押しつける「先進例」の役割を果たしました。

 

◯49番(星野美恵子)…就学援助基準の改悪が強行され、1,700人の子どもたちが適用外にされようとしていることは子どもの貧困に拍車をかけるものであります。生活保護基準に連動させないようとの国の通知の趣旨を踏まえ、基準をもとに戻すべきと思いますが、明確な答弁を求めます

◯教育長(酒井龍彦)…就学援助の認定基準につきましては、従来から国が物価動向や低所得世帯の消費状況などを調査の上決定しております生活保護基準に準じて定めており、適切であると考えております。(2016年3月3日本会議

 

◯42番(熊谷敦子)…公立の小学校、中学校で一体どれくらいの費用がかかるのか。文科省が行った学習調査では、学校教育費、学校給食費、学校外活動費の総額の平均は、公立小学校で年間30万5,807円、公立中学校は45万340円にもなります。そんな中、低所得世帯にとって7万4,000円は大事な支援です。これを打ち切るなど、まさに貧困対策への逆行です。(2016年3月8日本会議

 

 就学援助が連動した切り下げによってどんなに深刻な影響を受けるか、これでわかると思います。

 私は、高島市政下で切り下げられた就学援助は元に戻すことを公約の中で取り上げて、街頭でも積極的に訴えてきました。今や福岡市全体の半数に迫ろうという低所得世帯にとって大事な問題だからです。

 

就学援助は「セカンドハウス」や「海外旅行」か

 ところが高島さんの選挙戦での言い分はこうでした。2018年11月15日の草ヶ江公民館公民館での高島さんの演説です。

選挙とかになるとね、もしかすると、これもタダにします、あれもタダにします、これにも補助金を出しましょう、あれにも補助金を出しましょうという話を聞くかもしれないんだけども、それお金どうするわけ、そんなんできりゃ今でもしてるって。ね。子どもの全部から、高齢者の全部から、もうついでに国民全員タダってすりゃ、できるんならするて(笑)。そりゃできんさ。みなさんの家庭だってね、子どもたちに服はいい服着させる、医療環境もバッチリ、夏休みには海外旅行に行ってなんとかでって、塾もいっぱい習い事させて、で、お父さんお母さんには素晴らしいセカンドハウスかなんか買ってあげる、ってそりゃできんって(笑)。要するに、配る福祉っていうのは配り終わったらなくなっちゃうんです。

 就学援助は「セカンドハウスかなんか買ってあげる」ことなのか、「夏休みには海外旅行に行」くことなのか。「配り終わったらなくなっちゃう」のか。

 吉永純・花園大学教授(公的扶助論)は次のようにコメントしています。

 

今回の(「しんぶん赤旗」の)調査結果では…特に政令市だけで見ると20市のうち(福岡市を含む)7市(35%)が引き下げられており重大です。…就学援助制度は、すべての子どもたちに教育の機会均等を保障する重要な制度です。子どもの貧困対策が国の重要課題となっている今、この機能を弱めることはあってはなりません。(「しんぶん赤旗」2018年11月10日付、強調は引用者)

 現職市長の認識に絶望的なまでの「軽さ」を感じないわけにはいきません。福祉・社会保障は、人間の尊厳を支える制度であるという認識が決定的に欠落し、「金食い虫」だというほどのずさんな認識が見え隠れします。

 自分の市政下でおこなわれた冷酷な切り下げが何をもたらしているのか、少しでも現実を見たらどうなんでしょうか。

 たとえなんの「見返り」がなくとも、基本的人権が保障されていないのであれば、それを保障するために手立てを尽くすのが市長の仕事であり、「セカンドハウス」や「海外旅行」になぞらえた「贅沢品」のように嘲弄することは許されない発言です。

 

 そして、現実には「見返り」があります。

 私が選挙戦で主張してきたように、低額所得世帯への直接の給付はそれが生活の余裕となってあらわれ、消費性向の高さから、個人消費となって戻ってきます。つまり経済の成長を下支えします。

 

「アベガー」と言い続ける必要性

 また、この問題は、安倍政権のやっていることを市長選で私がなぜ問題にするかという非常にクリアな問題になっています。選挙戦の中で、善意からだとは思いますが、「安倍政権批判を絡めるのは良くない」という声を聞きましたが、現実には安倍政権のやっていることとたたかわなければ、市民の暮らしも守れないのです。

 だから私は「アベガー」と言い続けます。

 明日は投票日ですが、ぜひ多くの皆さんにこのことを踏まえて判断してほしいと思っています。高島さんは、とうとう最後まで私の公開討論の求めには応じませんでした。もし私の言い分に反論があるなら、公開討論の場でおっしゃるべきでした。残念です。

 明日は更新をしませんので、市長選挙における更新はこれが最後となります。

 どうもお付き合いいただきありがとうございます。

 次はぜひ市長になって更新をしたいと思っています。

 

*1:THE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」 作詞:真島昌利