結局調査しないのか

 12日に共産党福岡市議団の教育長申し入れが行われました。

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 中身は、新年度の少人数学級実施にあたり教員をふやして対応することなど3項目を緊急に提案したものでした。

 その中の一つが、下着検査などの人権侵害が、県弁護士会の調査でも明らかになったので、教育委員会としてすぐ調査をして是正せよというものでした。

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 教育長はこのようなことがあれば人権侵害だと認めました。そのうえで、学校名や個人など具体的な情報を教えてほしい、対処するとしました。

 「そんな実態はない。対処しない」という回答よりははるかにマシなのですが、他方で議会で議員の独自調査でとりあげられて、これとまったく別に県の弁護士会から複数の告発情報が寄せられたのに、まだ教委としては動こうとしないのだといえます。「そんなあからさまな人権侵害があるわけないだろう」と高をくくっているようにも見えるのです。要するに「調査はしない」という回答じゃありませんか、これは。

 そして、議会答弁と矛盾する実態が横行していたという事実を認めて謝罪することはありませんでした。教育長ははっきり「そんな実態はない」と議会で言ったのに、別のところからゾロゾロと事実が出てきたんですよ? なぜ平気でいられるのか。「そんな実態があるなら具体的な情報をつけて、お前らがもってこい」と開き直っているふうにしか見えませんでした。

 弁護士会の調査を読むと、男性教師が女子生徒の検査をしているというケースが書かれています。たとえば男性教員があからさまなセクハラ・性暴力的な目的で「無垢な」女子生徒の下着を強制的に調べるというシチュエーションだと思ってしまうと、統計的にそれほど多くないと思ってしまうのかもしれません。(それ自体絶対にあってはなりませんし、調査で出てきたということは蔓延している可能性は否定できません。)

 しかし、それ以外のケースは考えなかったのでしょうか。

 教育委員会は、下着の色をたとえば白だと指定することは合理的な校則である旨の答弁をしています。

福岡市立中学校では、カッターシャツやブラウスの下に着用するものについては、華美な色はシャツやブラウスから透けて見えるためや経済的理由から色の指定をしていることはございます。

 いわば教育委員会自身が、下着の色の指定という規範の合理性を積極的に認めているのです。

 そうなると、たとえば薄い水色の下着をしていた女子生徒を、女性教諭が「あなた、それ、色がついてない?」ととがめ、「ついてません」と「反抗的」な態度を示した場合はどうでしょうか。

 いかにも「見せなさい!」という話に発展しそうですよね。

 私の娘の中学(福岡市立の中学)では髪の毛や服装が校則通りかチェックする「実地検査」があります。違反者は体育館にあつめられ「指導」されます。客観的に見てクソにもほどがある規範でも、教育的な必要性があるという建前で規範をつくったわけですから、現場はそれを守らせようとするわけです。

 とにかく決められたルールを順守させるのに必死になることが、ここでは「教育の熱心さ」として現れてしまいます。

 

 教育委員会が下着の色を指定するという校則に「合理性」を与えておいて、各学校でそのチェックや指導が日常的にあるならば、この種の検査が広範に同性の教師によって行われている可能性は容易に想像がつくはずです。同性による検査ならOK、「反抗的」な生徒なら何をしてもかまわない、とでもいうのでしょうか。

 また「下着検査」というのは、脱がせたり、中をのぞく必要は必ずしもありません。ブラジャーの色が透けて見えているかどうかをブラウスの上から「よく見る」のも「下着検査」なのです。教育委員会に聞きたいのですが、校則がまもられているかどうか、服の上から下着の色を「検査」するのは人権侵害なのでしょうか? それともそれは問題ないのでしょうか? そしてそれは男性教員が女子生徒にやってもいいのでしょうか?*1 

 教委みずからくだらないにもほどがある規範に合理性を与えておいて、その規範を守らせることを職務として押し付けられている現場の教師がいたら、「なんで人権侵害まがいのことをするんですかねえ」と言ってみせ、そんなブラック校則に疑問をもって「反抗」する生徒がいたら「どうしてトラブルをおこすような反抗の仕方をするんですかねえ」と不思議がってみせるというのは、ひどすぎるのではないでしょうか。

 

 制服のジェンダーをフリーにするようにデザインさせたものの、現場では「男子用」「女子用」といって販売・着用指導がされていることを、教育長は申し入れの場で嘆いていました。これは私も同感です。

 しかし、娘の中学では「女子は眉にかからない前髪に」「男子は耳にかからない髪に」というジェンダー的な強制が他方で平気で行われています。

 つまり、学校全体で人権侵害の校則を放置しておいて、下着検査だの制服だのといった特殊な一点だけについて人権を守らせるということはできないのです。教育委員会や教育長自身が発想をかえるしかありません。

 教育委員会は、学校側に通り一遍の照会をかけるのではなく、人権侵害であるという重大性を認識して、全生徒に聞きとるなど実態調査をすぐやって、状況を是正すべきなのです。そしてそもそも馬鹿げた校則に合理性を与えている発想をただちに根本から改めるべきなのです。

*1:弁護士会の調査報告記事では「廊下で1列に並ばされ、下着をチェックされる」という記述がありますが、これを女性教師でなく男性教師がしている可能性があります。なぜなら下着の色指定という校則はハラスメントではないか? という議会追及を、わざわざ否定する答弁を用意したほど「教育的意義」がある規範ですから、色がついているブラジャーをつけておるのではないかとの「健全な疑い」をもって廊下に女子生徒を一列にならべ、思春期女子のブラウスの上から胸まわりを、男子教員がじっくり・じろじろと検分することは「問題ない」というわけでしょう。