学校の経費は公が負担すべき——学校徴収金は段階的になくせ

 引き続き福岡県の(主に県立の、授業料以外の)高校無償化について書いています。

 今日は、学校徴収金についてです。

 学校徴収金。

 聞いたことがない人も多いと思います。

 実は、ここが一番あやしい、伏魔殿のような概念です。

学校徴収金等とは、教育活動上必要となる経費のなかで受益者負担の考えに基づき保護者から徴収している修学旅行費、教材・教具費、実習費、生徒会費等をいうほか、学校が指定する物品の購入に係る経費をいう(「学校徴収金等取扱要綱」第2条)

出典:https://fukuoka-jikyo.jp/wp-content/uploads/2022/03/H23Z-kyoto-1.pdf
  1. 教育活動上必要となる経費の中で
  2. 受益者負担の考えにもとづき
  3. 保護者から徴収している経費

です。

 「教育活動上必要な経費」だから当然県が公費として負担すべきだと思いますよね。だって学校教育法の第5条には

学校の設置者は…その学校の経費を負担する。

と書いてありますから。

 でも「私費」なんです。誰でも「え、修学旅行費や実習費や教材・教具費や生徒会費が『私費』なんですか?」と思うのではないでしょうか。

 しかし、ここで使うお金は、私費=生徒や家庭の個人的な費用だというのです。

 じゃあ、学校や公は関与せず、ほっとけばいいじゃないかと思いますよね。

 各家庭で教育に必要だと思うもの、例えば参考書とか知育おもちゃとかネットとかテレビとかそんなもののお金なんかどうぞご自由に使ってくださいとなるはずです。

 しかし「いやいや、そうじゃないんですわ…」と学校側は言います。

 生徒や家庭の私費だけど、学校長が委任・信託を受けてお金を集めているという建前なんです。

 

 どうでしょう。

 難しいですよね。よくわかりませんよね。

 あるいはわかっても、かなり苦しいな、説明が破綻しているなと思うのではないでしょうか。

 そうです。

 学校の教育活動上必要なものなのに、公費として負担したくないという思惑が先行しているので、これを「私費」だと決めつけたいから、無理やり理屈をつけているだけなのです。

 

 例えば、次のような費用は多くの県立高校で学校徴収金として徴収されているのですが(私たちの団体の会員の、ある生徒の学校徴収金の例)、高校が必要だというからやっているのであって、どうしてこれが私費なのか理解に苦しみます。

1 体育的行事 2,150 体育祭・球技大会
2 体育祭応援スタンド代 2,130 体育祭での応援席のスタンド建設費
3 キャリアパスポート用ファイルなど 3,610 キャリア教育のためのポートフォリオ
4 英単語マスタープログラム「タンゴスタ」 2,640 英単語学習用Webアプリ
5 家庭科等授業での実習費 1,500  
6 生徒氏名ゴム印 132  
7 生徒証明書(IDカード) 53  
8 入学手引き 480  
9 学年共通費 760 進路指導・特別活動のための経費、ロッカー保守料。今後毎月徴収。
10 修学旅行積立金 12,000 今後毎月積み立てる
11 生徒会費 600 今後毎月徴収
12 PTA会費 800 今後毎月徴収
13 新体力テスト 180  
14 模試料金等 10,900  
15 スタディサプリ 10,340 リクルートが運営。オンライン上に配信された宿題や課題の提出などが行えるオンライン教材
16 スタディサポート 3,150 ベネッセの大学受験対策の学力診断テストなど。
17 小論文模試 7,300  

 

 体育祭というイベントは、保護者が頼んで「やってくれ」と言ってやっているわけでもないし、「そのイベントは参加しません」という任意のものでもありません。学校がこれは教育活動に必要だからと提示して、生徒はそこに参加しているのです。

 どうしてこれが受益者負担の私費なのでしょうか?

 公費をケチっているために、どんどん保護者に負担をかぶせていく——そういうお金にしか見えません。

 学校徴収金は県立高校で共通しているものもかなりありますが、他方で、学校ごとに決めているものも少なくありません。

 私は100校近くある県立高校の全ての学校徴収金を見ましたが、正直「こいつも保護者負担にかぶせてやれ」といってどんどん盛っているようにしか見えませんでした。

 

 落語の「付き馬」で、前夜にさんざん酒席で遊び散らかした主人公が泊まって翌朝勘定の金額を見たときに

「勘定が全部で28円50銭…おい! なんかそれ違ってやしないかい!?」

「えーあいすいません、色々と余計なことがかさみましたものでこういうことになっておりまして…」

「いやそんなこと言ってるんじゃ…あの、ほら、芸者衆のご祝儀なんぞは別でしょ? 入っている? え…そればっかりじゃないよ!?   なんか若い人が大勢、入れ替わり立ち代りお辞儀をして『ただいま!』『どうも!』やなんか言ってさ、ね、なんか来たろ。いっぱい。ああいうのみんな入ってんの?」

と驚くシーンがあります。酔って浮かれている客に、どさくさにまぎれて何でもかんでも付けてしまおうという店側の意図が見えるのですが、*1ああいうものを思い出しました。

www.youtube.com

 説明を受ける機会は入学前の説明の時だけです。

 合格して学校にまで行きもしないうちに入学予定者と保護者が集められているときにいきなり上記のようなほぼ項目だけの説明と金額を示した紙を渡されて、「質問はありませんか」と問うだけ。私の娘の時はオンラインでしたが、みんな早く帰りたがっている中、モニター越しの校長・教頭に対して一つ一つ項目ごとにネチネチと質問する勇気のある保護者が一体どれくらいいるでしょうか。

 

 公立小中学校の事務職員である栁澤靖明さんが書いた『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版)は、事務職としての学校徴収金削減の取り組み方法を書いた本ですが、単なるマニュアルではなく、憲法が定めた義務教育の無償化の精神の立場から現状を批判しつつどういう考えで進めるべきかを述べた非常に優れた著作です。この本は義務教育について書かれたものですが、当然条約で漸次的無償化をめざしているはずの高校でも応用できます。

 

 栁澤さんは、公教育における受益者負担について、

将来を含めて社会全体の利益ともなります。そのため、受益者とは特定の個人ではなく、国民のすべてを受益者と捉えるべきであり、税金による学校運営を憲法や法律で保障している意義がそこにもあると考えられます。(p.8)

と批判しています。その上で

このように考えれば、受益者負担の原則により保護者の負担を固定的に捉えるのではなく、あくまでも財源不足を補うものとして保護者の負担は限定的に捉える必要があります。そして、日常的に学校徴収金を減らしていくこと、さらにその到達先には完全な撤廃も据え、無償性の実現をめざしていく必要があります。(同前)

とします。

 受益者負担に対立するのは、教育の無償化という理念に立って、先ほど述べた学校教育法第5条にもとづく学校の経費は設置者(公)が負担するという「設置者負担主義」です。

 栁澤は、受益者負担主義か、設置者負担主義か、どちらをベースにするかで学校徴収金の捉え方が変わってくることを指摘します。設置者負担主義であれば公費負担が原則であり、それ以外は例外となるからです。受益者負担主義に立つと、保護者負担が固定化される恐れが強まります。

現状では、すべて公費で保証できるだけの予算が令達されているわけではありません。しかし、それを学校は容認していくだけではなく、教育委員会を通して財政当局へ公費の充実を要請していくことも必要です。また、教育委員会も令達できる予算が少ないことを理由にして、保護者負担を黙認し、固定的に捉えていくのではなく、公費保障を可能にするための取組が必要です。(p.72-73)

 本書でも紹介されていますが、山梨県早川町では学校徴収金の廃止を自治体として決定しています。

www.town.hayakawa.yamanashi.jp

 

 また、これは小学校の例ですが、教材費の一つである「算数セット」や「ドリル」は無償化する動きは東京でも広がっています。

 

 そうした努力を、学校で行うことも大事ですが、県知事選をきっかけにして、県教育委員会、財政をみる県知事が行なっていく決断をすべきではないでしょうか。

 

 学校徴収金は段階的に廃止すべきです。学校の経費は公が負担すべきものだからです。

 

 次回は、学校徴収金の中でも「さすがにこれは無理だろ…」という項目について述べます。

*1:ちなみに主人公は店側を逆にだまそうとするの「安い!」とうそぶくのですが。