人権侵害に声をあげたことを理由に、党を追放していいのか

 日本共産党の福岡県議候補(2023年、博多区)で、選挙後もパレスチナ問題や社会保障充実などを街頭で訴えて党員としてがんばって活動していた砂川絢音(すなかわあやね)さんに、共産党幹部は除籍決定を通知しました。

 すなかわさんの除籍通知には、「神谷貴行氏にかかわって『不当解雇撤回』などと主張する宣伝行動を、同調者を組織して党県委員会事務所前で行いました」とあります。

 不当解雇は、労働者としての働く権利を奪う人権侵害です。

 私への人権侵害に、本当に勇気をもって声をあげてくれたすなかわさんに、改めてこの場で感謝を申し上げておきたいと思います。

 ところが、党幹部は、こともあろうに、人権侵害に声をあげ、他の人にもおかしいと声をあげようと呼びかけたその行為を、厳しく取り締まりました。

 党内であろうと党外であろうと、誰かが人権侵害を受けていることを、共産党員は幹部の合図があるまで、黙ってみていなくてはならないのでしょうか?

 確かに党規約では「党の内部問題は、党内で解決する」〔規約第5条(八)〕とあります。党幹部が起こしたと思われる問題は、まず党内で提起し、党内で解決する……なるほど一見道理がありそうに見えます。

 しかし、では例えば党内で党幹部がレイプした疑惑があった場合、どうでしょうか。「党内問題」として、党内で解決すべきでしょうか? 外に持ち出すことは許されないでしょうか。

 セクシャル・ハラスメントなど性暴力はどうでしょうか。

 他のハラスメントはどうでしょうか。

 労働者の人権侵害はどうでしょうか。

 組織上の路線対立や規約上の処分ではなく、まさに人権の侵害が起きている時(あるいは起きていると思った時)、それは「党の内部問題」といえるでしょうか。もし幹部の許しがなければ、あるいは党の決定がなければ、外に一切持ち出せないなら、被害者は長い間黙り続け、泣き寝入りを強いられる恐れがあります。この理屈では殺人事件が起きても、持ち出せなくなってしまうのではないでしょうか。

 少なくとも私の人権侵害に声をあげたことを理由にして、すなかわさんを追放することはまったく道理がないと考えます。

 

日本共産党の政策にも反する党幹部のやり方

 日本共産党は、2024年9月20日に発表した政策「賃上げと一体に、労働時間の短縮を 働く人の自由な時間を拡大するために力を合わせましょう」において、

とくに現在、非正規ワーカーが増大し、ギグワーカーなど働き方が多様化するなかで、すべての労働者の権利を擁護し、賃金の引き上げ、労働時間の短縮を同時にすすめることが急務となっています。

仕事の発注者との雇用契約が不明確なことを理由に労働法制の保護の対象外にされ長時間労働、低賃金、無権利の状態に置かれてきました。フリーランスやギグワーカーの時短と賃上げを実現するには、その労働者性を認め、労働法制、労働時間規制、最低賃金適用の対象とすべきです。

と主張しています。

 私の働く権利を不当に奪う解雇をしたこと、そして、不当解雇がどうかの争いがあるものを一切人権問題だとは扱わず、党内問題だとみなし、それを不当だと思って声をあげた人を追放したこと——党幹部のやり方は、「すべての労働者の権利を擁護する」という共産党の政策そのものに反するのではないでしょうか。

 

共産党職員は「労働者」ではないのか:浜野忠夫氏の著作にみる

 ひょっとしたら、党幹部は「共産党職員は労働者ではない」「だから労働者としての権利などない」と言い出すかもしれません。私に対して「解雇通知」を出し「解雇予告手当」を出そうとした以上、よもや私=共産党職員は労働者ではないなどとは言わないとは思いたいのですが、日本共産党副委員長の浜野忠夫氏は2008年の著作で次のように述べているのを見ると、不安になります。

 

四六時中、党機関の活動を自分の中心任務として担っているのは、常任活動家です。この意味で、「全生活を共産党の任務においている活動家」ということが言えるわけです。…だから会社と雇用契約をむすんでいるサラリーマンとはまったく違うわけです。(浜野忠夫『時代を開く党づくり』p.200)

 

 “専従は24時間専従なのだ、生活の全てを党と革命に捧げたはずだ、時間が来たら家に帰っていち個人に戻ってホッとできるサラリーマンと一緒にするな。雇用契約ではない”というわけです。

 刊行当時の2008年でさえ許されない感覚でしたが、2024年の今、こうした見解が存在できる余地があるでしょうか。

 党幹部はそのことに正面から答えるべきです。

 

 日本共産党職員(常任活動家・専従者)は「労働者」かどうか

 「労働法制の保護の対象外」にせず、「その労働者性を認め」、「無権利の状態」を引き起こさないようにするために、今こそはっきりさせる時ではないでしょうか?

 労働者であるなら、残業させたら残業代が必要だし、そのための36協定も必要だし、宿直をさせたら正当な宿直の手当を支払わねばなりませんし、何よりも労働組合を結成する権利が保障されなくてはなりません。

 党職員が労働組合を結成したら、それは分派になり解雇されるのでしょうか?

 党福岡県委員会では宿直が週1回程度強制的に割り振られ、その手当は県党の給与規程*1により1日1000円と決まっています。これは以前から強制反対や改善の声が、私を含め党県勤務員から上がり、回数などが改善されたものの、根本的には変わっていませんでした。しかし北九州市では労基署からの是正勧告を受け、区役所嘱託員に対し、宿直中の仮眠時間を休憩時間とみなして過去2年分の未払い賃金計約5300万円支払いました(2019年3月1日の西日本新聞が報道)。党福岡県委員会の事務所でも、宿直者はただ寝るだけではなく、多くの仕事が課せられていました。夜間における党員・支持者からの問い合わせ・党費納入への応対、運送業者への荷物渡しの立会い、1時間に及ぶ苦情電話の対応*2、館内の施錠・火の元の見回り、早朝の新聞振り分けをはじめ、もし夜中に赤旗の輸送トラブルなどが起きれば、配送車から電話があり、マニュアルに基づいて地区委員会担当者への電話などの対応が義務づけられていたので、状況は北九州市と同じだと言えます(しかも宿直明けにそのまま普通に通常の勤務をさせられます)。

 党福岡県委員会は党職員を労働者だと認めるなら、1回1000円ではなく、やはり北九州市同様に賃金並みの手当を支払うべきではないでしょうか。*3

 

労働条件通知書を交付しない違法行為は中央委員会のお墨付きなのか

 党職員が労働者であるなら、労働条件通知書も交付されなくてはなりません。

 労働条件通知書は労働基準法第15条によって明示が義務付けられ、同法施行規則の第5条によって、就業の場所、賃金、始業・終業の時刻など書面で交付しなければならない事項が定められています。

 これら事項については、書面交付は法律上の義務です

 もし、共産党が職員を労働者として扱うなら、労働条件通知書は当然労働者(職員)に交付しなくてはなりません。求められたらなおさらです。

 私は、党幹部に仕事を全て取り上げられ、職場出勤を禁じられた時、本当にそれでいいのかどうか、後から「お前は職場に来なかったではないか。職場に来るななどと命じた覚えはない。職場放棄をしたので解雇だ」と罠にかけられるのではないかと非常に不安に感じ、労働基準法に義務付けられた労働条件通知書を渡すよう党のA県副委員長に申し入れました。書面で「勤務場所:自宅」とあるのを確認したかったのです。以下はその時のやりとりです(2023年9月24日)。

 私が労働条件通知書を求めたにも関わらず拒否し、追い詰められ答えられなくなったA氏は途中から電話口で怒鳴り始め、こうした違法行為を中央委員会のお墨付きのもとで行なっていると最後には白状しているのがわかると思います。

 

神谷 メールで私の労働条件通知書を送るように書いたんですが、送られましたか?

A氏 (数秒沈黙)送ってません。ないですもんね、そういうのは

神谷 なんで送ってないんですかね。

A氏 いや、ないですよ。そういうのは。

神谷 「ないです」って…送ってほしいんですけど。

A氏 いや、ないから送れませんよ

神谷 作って送ってくれませんか。

A氏 そんなの私ができるわけないやないですか。

神谷 それ(不送付)、あなたの独断でやったらまずいんじゃないですか

A氏 いや、相談した上ですよ

神谷 誰とですか。

A氏 いや、向こうのメンバーと。

神谷 (党の県)常任委員会とですか?

A氏 常任委員会…とじゃないですけど。

神谷 しかも中央は知らないでしょ、こんなこと。

A氏 何ですか。

神谷 中央委員会とか知らないでしょ、こんなこと(不送付)、あなたがやってるってこと。

A氏 (あなたに)権利制限かかっているってことは、知ってますよ。

神谷 いや、担当者じゃなく、中央委員会は知らないでしょ、こんなことやってるのは、全く。あなたの独断でしょ。

A氏 (長く沈黙)

神谷 もしもし?

A氏 何が言いたいんですか!

神谷 いや、だってあなたの独断でやってるんでしょう?

A氏 そんなことないって言ってるじゃないですか!

神谷 中央委員会は知ってるんですか

A氏 知ってますよ!

 そしていつもの通りですが、これは私の一方的なメモではありません。客観的な記録があり、もし裁判となって必要であればいつでも提出できます。

 しかもご覧の通り、中央の担当者ではなく、中央委員会として意思決定していることを認めています。もしA副委員長の言ったことが本当なら、中央委員会として違法行為の責任が問われる可能性があるのではないでしょうか。これは推察になりますが、例えばこの頑なさから見れば、「証拠となって残ってしまう文書を、どのようなものであっても神谷に交付してはならない」などのような縛りがあったのかもしれません。

 さすがに中央委員会が違法を許容していたとは思いたくはありません。A副委員長が追い詰められてその場しのぎのでまかせを言ったのだと思いたいところです。ただ県副委員長というポジションの発言ですから、重いですよね。信憑性があります。中央委員会の関与について、全容をきちんと調査しなければいけないだろうと思います。

 それはともかく、法律がどうとか以前に、困っている職員・仲間の願いを一顧だにしないという態度はあまりに非常識と言えないでしょうか。

日本共産党福岡市議団のビラ

 このやり取りを見てもらえばそうお感じになる方も多いと思いますが、A氏は労働者の権利というものにほとんど関心を持っていないのではないでしょうか。少しでも関心があれば、「労働条件通知書」と聞いたら「あっ…(察し」となるはずだからです。しかもA氏は福岡市議団の担当副委員長*4だったから、なおさらです(上のビラを見てください)。A氏の対応の杜撰さからも、その無関心ぶりは、それを命じた日本共産党の幹部全体に共通しているような気がします(あくまで推測ですが)。違法行為につながるかもしれない重大な問題だという認識があれば、少なくとも弁護士などにあらかじめ相談し、対応の仕方をよく協議し、もっとスマートな受け答えをすると思うからです。

 

共産党に労基署の調査・指導? もしそうなら歴史上初

 これは推察になってしまいますが、X(ツイッター)の「油鳥」さんというアカウントのツイートをいくつか見ると、

  • 油鳥さんは共産党福岡県委員会が実質雇用主になっている民青の専従者で、
  • 残業代の支払いを内容証明郵便で党福岡県委員会に請求し、
  • それについて、「行政」の調査と指導が共産党県委員会に入り、
  • 油鳥さんは、「行政」からその報告を聞いた、

ということがなんとなくわかります。

 

 そして、すなかわさんは、油鳥さんへの残業代支払いをするよう応援しています。

 

  詳細はわからないのですが、もし労働基準監督署が残業代支払いなどについて、日本共産党福岡県委員会に調査に入り、数々の指導をしていったとしたら、それはおそらく日本共産党の100年の歴史上初めての重大な事態ではないでしょうか。

 そして、労基署が調査と指導を行なったということは、そこで働いている職員(専従)がまぎれもなく、使用者の指揮命令のもとで仕事をしているということになり、公的機関が共産党職員の労働者性をはっきりと認めたということになると思われます。これは本当に画期的なことではないでしょうか。

 ぜひ、続報に注目したいと思っています。

 記者会見や報道があれば必見ですね。

 

 しかし、もしそうだとすれば、表面的な理由はどうあれ、共産党県委員会への残業代請求の活動をすなかわさんが応援し、まさに労基署が党県委員会に調査・指導に入るなど事態が動き出したさなかに、「元県議候補」などの肩書きを持っていたすなかわさんは党を追放されたということになります。

 

 いずれにせよ「勇気をもって声をあげた人」を追い出すなどということに、私は本当に強い怒りを覚えます。何かあればNHK連続テレビ小説「虎に翼」を持ち上げる党幹部のみなさんは、一体あのドラマの何を見ていたのですか。

*1:日本共産党福岡県委員会 給与規程 第4条⑥「宿直手当は、1日1,000円を支給する。年末年始の日直者には日直手当は1,000円を支給する。終日勤務に引き続き宿泊した時は、1,000円を支給する。」

*2:午前3時とかに平気でかかってきます。さすがに緊急でない苦情は一通り話を聞いた後に「朝にお願いします」と言いますが、呼び出し音がずっと鳴る上に、呼び出しが苦情電話かどうかはわからず、緊急対応が必要な電話かもしれないので出ざるを得ません。

*3:なお、私自身は共産党事務所の宿直は廃止すべきだと考え、党職員だった時も正式に意見を述べていました。まず賃金が支払えないこと。仮に夜間に暴漢などが襲ってきたときに1〜2人では逆に危険なこと。事務所への侵入対応などはカメラやICTで対応すべきであること。赤旗の配達トラブル対応は電話転送か携帯での対応で済むこと。地区委員会事務所ではすでに宿直を廃止しているところもあること。などの理由です。

*4:厳密に言えば党の福岡市対策委員会の担当副委員長。