暫定政権と長期政権は違う:共産党の政権論の先駆性を活かせ

 今日(25年10月17日)付「しんぶん赤旗」3面には「首相指名めぐる政党間協議 民意そっちのけの多数派工作」という署名記事が出ました。

25年10月17日付「しんぶん赤旗」3面

「政党が違えば、基本理念や政策が違うのは当然」

 そこでこう書いています。

政党が違えば、基本理念や政策が違うのは当然です。問題は、その違いを乗り越えて、国民の暮らしのために一致点で協力するということです。

 これは非常に正しい指摘・原則です。

同前

 この原則を掲げ、記事は、国民民主党立憲民主党に対して、安保法政の違憲部分の廃止、改憲原発ゼロなどで「基本理念の一致を要求」していることを批判しています。政党独自の基本理念の改造を、政権協議に持ち込むな、という実に真っ当な批判です。

 国民民主党は、「政権を組む際には基本理念を一致させる以外にない」という、多党化時代にふさわしくない旧態依然たるドグマに囚われて、そのドグマから他の政党のアイデンティティに手を突っ込んで改造を要求するという根本的な間違いを犯しています。記事はその点を鋭くついています。

 ここには、「政党が独自の基本理念を持っていて、その理念を合わせる・理念が近いところが長期的な安定政権を組む」(長期政権)という問題と、「基本理念を完全に脇に置いたり、部分的・中間的なところの妥協で折り合うという一時的な暫定政権がある」(暫定政権)という問題の、国民民主党による混同があります。

 

「理念がバラバラの野党が多数」で民意を生かすには暫定政権しかない

 今、与党は少数です。

 しかし、野党は多数であっても長期政権を組むためには基本理念がバラバラです。「与党が少数」であることを活かして、同時に、ただの数合わせにしないためには、野党が共通して掲げた公約を「国民の意思」と考えて、それを実行する暫定政権以外に、野党が政権を組む大義はありません

 それが2度の国政選挙で示された国民の意思を生かす唯一の道でしょう。

 「安保法制の違憲部分をどうするか」については野党間に共通公約はありません。むしろ、その廃止を掲げた立憲民主の方が国民民主よりも圧倒的に議席も得票も多いくらいですが、とにかくこれは野党の共通した公約ではないので、暫定政権では取り上げるべき政策にはなり得ません。国民の意思とは言えないのです。

 基本理念を改造して一致を迫る国民民主の側に大義がないのです。赤旗記事が正しく指摘している通りであって、政党というものの否定に他なりません。

 

「安保法制の違憲部分廃止」を他の野党に求めるのか?

 ところが、その赤旗の記事は、こうした指摘をした舌の根も乾かぬうちに、「安保法制の廃止」を全ての野党に求めるかのような記述を始めます。

「安保法制の違憲部分の廃止」は今も熱い焦点であり、野党が自民党政治と対決する重要な足場です。…安保法制の容認では、自民党政治に代わる政治の姿が見えてきません。…自民党政治と対決する足場をしっかりと持ちながら、当面する課題で自民党政治を変えていくことこそ各党に求められています。

 このように共産党として「安保法制の違憲部分の廃止」 という「自民党政治と対決する足場」を「しっかりと持」つように野党「各党に求め」ています。

 つまり、国民民主や維新、あるいは参政党に対して、「安保法制の違憲部分の廃止」に変われ、と主張していることになります

 おかしくありませんか?

 先ほどこの記事はすぐ前で「政党が違えば、基本理念や政策が違うのは当然です。問題は、その違いを乗り越えて、国民の暮らしのために一致点で協力するということです」と、“基本理念の違いを乗り越えての共同の大事さ”について述べていたはずです。政党が違うのだから、他党に基本理念や政策の改造を迫るな、基本理念はそのままで一致できることを考えろ、と。

 この記事は、各党の政権協議についての記事です。

 他党に基本理念の改造を求めることは厳しく批判し、一致点での協力をすべきだ、ルールを踏み間違えるな、ということを、共産党は説かねばならないのではないでしょうか。

 

 ところが、この間の共産党の対応は、野党間の政権協議を論評して、安保法制の廃止や大軍拡ストップなど、野党間で共通していないことを必死で持ち込もうとしています。この日(10月17日付)の2面の「主張」でもわざわざ「安保法制と大軍拡 廃止は今も政治の大きな焦点」として、繰り返し強調しています。

www.jcp.or.jp

 先ほどの「首相指名めぐる政党間協議 民意そっちのけの多数派工作」という署名記事では

企業・団体献金の禁止、消費税減税の実現や医療・介護の危機的状況の打開、大軍拡のストップなど、野党が一致して取り組むべき課題は数多くあります。

とありますが、「企業・団体献金の禁止、消費税減税の実現」は「野党が一致」している課題です。しかし、「介護の危機的状況の打開、大軍拡のストップ」は「野党が一致」していません。性格の違う政策をごちゃごちゃにして「野党が一致」している要求であるかのように見せています。

 私は安保法制廃止を主張していないことを批判するのは現時点においても大事だと思っています。それは赤旗や街頭演説でも、国民民主党や維新の会に向けてバンバンやるべきです。

 問題は、それを暫定政権の政権協議の問題の中で言うのはおかしいと言うことです。政権協議で主張すべきことは「安保法制は国民にとって危険だから廃止すべきだ。お前の廃止反対論こそ撤回すべきだ」と国民民主に言うのではなく、「野党の共通した公約ではないから不一致点であり、政権には持ち込めない」と国民民主に言うべきなのです。

 この両者が混同されているのです。

 

「反動ブロック形成に反対する新しい国民的・民主的共同」という方針にも反するのでは?

 特に共産党は、6中総で「反動ブロック*1形成に反対する新しい国民的・民主的共同」を呼びかけたはずです。

www.jcp.or.jp

 この反動ブロックを阻止する一点で思想・信条の違い、政党支持の違いを超えて喫緊の共同を呼びかけるのであれば、なぜ安保法制というハードルを設けて、その共同を壊してしまうようなやり方をするのでしょうか。

 共産党幹部のやり方は、この6中総決定にも反するんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。*2

 安保法制を棚上げして、消費税減税などを実行する限定的な暫定政権を組み、不一致点や改悪の持ち込みは許さないように提起することは、まさしくこの「反動ブロック」を阻止しながら、国民要求を前進させる唯一の道であるように思われます。

 

日本共産党の政権論の先駆性を活かせ

 野党が今「与党が少数」であることを活かし、同時に単なる数合わせでなく、大義の旗を掲げるなら「野党の共通した公約で暫定政権を作る」以外にはありません(私はそれは「消費税減税」「企業・団体献金の禁止」「日米地位協定の改定」だと思っています)。そして一致しない部分は「凍結する」、つまり従来の政府の政策に手をつけず、それを続けるしかないのです。

 これは「長期政権」しか考えてこなかった日本の政界にとって新しい事態であり、国民がまだほとんど経験していない事態ではないでしょうか。一言で言えば長期政権と暫定政権は違うのです。多党化の時代になって、理念の違う政党が暫定的に政権を組むような新しい事態に対応できていないのです。

mainichi.jp

 この点で、日本共産党先駆的に暫定政権の考え方を提示してきました。

https://www.jcp.or.jp/web_policy/2015/09/20150919-yobikake.html

野党間には、日米安保条約への態度をはじめ、国政の諸問題での政策的な違いが存在します。そうした違いがあっても、それは互いに留保・凍結して、…緊急・重大な任務で大同団結しようというのが、私たちの提案です。この緊急・重大な任務での大同団結がはかられるならば、当面するその他の国政上の問題についても、相違点は横に置き、一致点で合意形成をはかるという原則にたった対応が可能になると考えます。

https://www.jcp.or.jp/jcp/yakuin/3yaku/FUWA/fuwa-iv-0825.html

政権として、留保あるいは「凍結」という基本態度を明確にすれば…意見のちがいを連合政権づくりの障害にしないですみます。現実に起きてくるいろいろな問題も、「凍結」という基本態度の枠内での協議によって、具体的に解決できるでしょう。/そしてこの基本態度が確認できれば、安保問題の解決を留保した政権であっても、この暫定政権の成立によって、日本の政治は、国民生活や民主主義にかかわる一連の問題で、自民党政治の内容を崩し国民の声にこたえる新しい道に踏みだすことができるでしょう。そして、こういうことができれば、この連合政権が、日本の政治の歴史のうえで、未来ある大きな役割をになうことも確実だと思います。

 歴史的にも安保闘争の時の選挙管理内閣、1984年の非核の政府、1989〜90年の3点セット(消費税廃止・企業献金禁止・コメ自由化阻止)の暫定連合政府、そして2015年の安保法制廃止の国民連合政府などとして提案の豊富な実績があります。

 たとえ政権協議そのものから「蚊帳の外」だと言われても、このような考え方を国民の前に提示し、問題を整理すること自体が、共産党が今発揮すべき役割です。

 ところが、今の共産党幹部がやろうとしている・やっているのは、全く逆のことです。

 自ら、政権協議の中に、国民民主も維新も参政も一致するはずがない「安保法制の廃止」という高いハードルを設けて、問題を混同・混乱させているのです。

 

 余談ですが、私は、この署名記事、ひょっとしたら、書きたくない記事を書いたのかもしれないなとは思いました。しかし今の民主集中制の運用のもとで、自分が書きたくなくても幹部の意向で書かされているのかもしれません。そういう可能性もないわけではありませんから、記者個人の責任をあまり責めるつもりはないことを付言しておきます。*3

 本文は以上です。

上京する飛行機の上から



補論1:「暫定政権は不要である」論について

 「与党が少数なんだから、野党が一致して要求し提案すれば実現する。暫定政権を野党が組む必要はない」という意見があります。

 これはこれで一定の道理があるとは思いますが、私は、(1)それだと自民党政権が続くことを許容することになるので「自民党政権の継続を許さない」という自分たちの言明に直ちに矛盾してしまう*4、(2)そのコロラリーですが、自公維の医療費削減3党合意のように、自民党政権が一部の野党を抱き込んでさらなる改悪をすることを止められない、という問題があります。暫定政権を作り「現状の改悪はしない・不一致点を持ち込まない」というワクをはめておけば(2)の問題もクリアできます。

 

補論2:私はもちろん安保法制廃止・大軍拡反対の立場である

 私は日本を戦争に巻き込む安保法制を早期に廃止し、社会保障予算を極限まで圧迫して暮らしを破壊している大軍拡に反対ですし、自公維の医療費削減3党合意にもきっぱり反対であり、その改悪阻止のために力を尽くしています。

 

 いろんな立場がいる野党が国会で多数をとっていることをどう活かすか、という限定された話をしているだけです。「安保法制の問題をそこから外すから、安保法制容認なんだ!」というなら、同じ論法で「共産党は野党連合政権の課題から安保条約廃棄を外したから安保条約容認なんだ」と言われてしまいますよね。

 

 さらに、自民・維新の連立政権についても維新が自民党に提示した「政策協議メモ」のリストにある「通常国会で締結した(医療費年4兆円削減などの)『3党合意』を確実に履行する」「憲法9条改正に関する両党の条文起草協議会設置」「インテリジェンス・スパイ防止関連法制の制定」「議員定数の削減」「政党法の制定」などは許されるものではなく、私も反対する運動に賛同しますし、この点では共産党の役割に大いに期待します。

*1:「反動ブロック」というのは、今の自民党政権に維新・国民民主などが加わってさらにひどい政治を進める連合政権ができてしまうことを指す共産党の言葉です。

*2:私自身はこの方針に疑問を持っていますが、それは一旦保留して、もしこの方針に照らしてみたときにどうなのか、という立場で書いています。

*3:ただし、署名記事ですから一定の責任はあります。本当に嫌であれば、他の人に書いてもらうか、無署名記事にすべきでした。

*4:「暫定政権を作るのはリアリティがないから、当面は石破政権が続いたとしても野党が共同して要求を通すことで少数与党という状況を生かすのだ」ということを方針にするなら「一定の道理」になると思います。その場合、この10月6日の「自民党政権の継続は許さない」とテーゼを立てた小池会見を撤回・謝罪する必要がありますがね。