「カジュアル除名」=除籍の濫用はいつから?

(この記事は私の不当な除籍・解雇事件の問題の一部についてです。全体像を簡単に知りたい方は24年8月20日付の記事を、また裁判については私の弁護団長である平裕介弁護士の意見陳述を先にお読みください。)

 1月20日の第1回口頭弁論の後の報告集会で私は自分の意見陳述のポイントを話したのですが、その中で、果たして日本共産党において「カジュアル除名」=除籍の濫用はいつから行われているかについて少しだけお話ししました。

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 ここで「カジュアル除名」=除籍の濫用というのは、もしある党員を規約違反によって組織の外に追放する場合は、規約違反を正式に認定して除名処分にするというプロセスが必要なのに、違反認定も処分もせずに、適用できるはずもない「除籍」条項を適用して、党幹部が一方的に「こいつは規約を守る気がないな」とみなして追放するという意味です。

 詳しくはこちらをどうぞ。

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 例えば日本共産党が分裂と混乱に陥った「50年問題」のさいには、除名が乱発されたようですが、除籍という話は寡聞にして知りません。

 私が報告で紹介したのは、1984年の哲学者・古在由重の除籍です。

 86年の伊里一智は除名ですが、1990年前後に有田芳生、学者、川上徹などは除籍ですね。

 このころに、手軽に追放できる道具として「除籍の濫用」=「カジュアル除名」がひんぱんに行われるようになり、94年の第20回大会での規約改定を経てこのやり方が加速したのではないかという仮説を立てました。

 これには統計的な根拠はありません。実際に除籍の事例を調べることができれば確かめられるのでしょうが。

 

 さて、以下は私の「日本共産党規約における除籍の旅」です。

 長いので面倒な人はこのまとめをお読みください。

 

まずは「まとめ」

  1. 日本共産党規約に「除籍」が正式に誕生したのは1958年。それまでは無い。
  2. 1958-1994年:除籍は①党費未納・未活動の人、または②反社会的行為をした人。
  3. 1994-2000年:①党綱領・規約を否定したと党組織が認めた人、または②反社会的行為をした人。
  4. 2000年以降:①規約4条の資格を明白に失った人、または②反社会的行為をした人。
  5. 1994年(20大会)の規約改定で除籍濫用が本格化。2000年(22大会)の抜本改正を受け濫用を改められるべきだったが、濫用されたまま運用。

 まとめは以上です。

 以下は、もうすこし詳しく書いたものです。

 ご用とお急ぎでない方は、お読みください。

会費を納めない、活動しない…「幽霊メンバー」は「除籍」なのか

 「除籍」は前にも説明しましたが、現在の規約11条に規定があります。

 しかし、多くの人、特に一般の方(党員でない人)が、この「除籍」を説明するときは、「ずっと会費を納めていないとか、長いこと活動していないとか、そういう幽霊会員みたいな人をリストから外す…」と説明することが少なくありません。

 そうなんです。

 普通の組織で「除籍」というのはそういうイメージですよね。

 「幽霊メンバー」=「除籍」。

 実際に日本共産党もけっこう長い間、そういう「幽霊党員」をなくすために除籍を使ってきました。(実はマルクスのいた共産主義者同盟では初めは「除名」しかなかったのですが、のちに「除名」とは別に「除籍」の規定が設けられ、やはり同盟費の未納などが対象となりました。)

 でも今はそういう人は「除籍」をしません。「除籍」の対象じゃないんです。そういう人は「離党」扱い(10条)にすることになっています。これは1994年の第20回党大会で規約改正され、扱いが変わったのです。

 日本共産党の「除籍」規定には一体どういう歴史があるのか。

 少し振り返ってみます。

日本共産党の「除籍」規定の歴史1:1957-58年に初めて「除籍」規定

 日本共産党の戦前の規約には「除籍」の規定はありません。

 戦後も初めの頃はやはりありません。

 日本共産党の規約に初めて「除籍」規定が登場するのは、党の分裂と混乱を招いた「50年問題」が終わった1957年に発表された党章草案からです。

第11条 正当の理由がなく、三か月以上党費をおさめない党員は、みずから離党したものとして除籍することができる。また党の組織が、党員としての資格に欠けているとみとめた党員にたいして、本人と協議し、除籍することができる。

 ここでは①党費を納めない幽霊党員、②欠格党員、という二つのタイプが除籍の対象になるとされています。

 この「②欠格党員」は一体どのような党員なのでしょうか。

 このとき「発表にあたって」という中央委員会の解説が付されています。

 党は、自覚した共産主義者の自由意思にもとづく戦闘的統一体である。したがって、わが党にとどまることをのぞまず、離党をもとめるものには、離党を認めるべきである。また党の努力にもかかわらず、正当な理由なしに三か月以上にわたって党費を納めず党生活にも参加しないものは、自ら離党したものとして処置し、党籍をのぞいたほうがよい。

 おなじように、著しく反社会的な言動をおこなうものなども、こんごは党からはのぞいて、党の質的構成をたかめなければならない。それで本改正案では離党にかんする規定と除籍にかんする規定とを設けた。

 この説明からもわかるように、①は党費の3か月未納、②の欠格は「著しく反社会的な言動をおこなうものなど」に限定しています。疑問の余地はありません。

 これは全党の討論を経て、1958年の第7回党大会で一定の変更を受けて党規約として正式に採択されました。

第12条 党組織の努力にもかかわらず、六ヵ月以上党費をおさめない党員はみずから離党したものとして除籍することができる。

 党組織が、党員としての資格に欠けているとみとめた党員にたいしては、本人と協議したうえで、除籍することができる。

 党組織が、党員の除籍をおこなうばあいには、事情をくわしく調査して慎重におこない、一級上の委員会に報告し、その承認をうける。

 これで十分とは思いますが、念には念を入れて、一つだけ。

 当時、新しい綱領・規約をつくるために党公式に、「団結と前進」という討論冊子が発表され、たくさんの党員が活発に投稿をしていました。

 そのうちの一つで、東京都の党文京地区委員会が地区委員会として決議した意見を寄せています。その中に次のように書かれているのです。

 離党、除党、除籍に関する規約がもうけられたことは、昨年末われわれが主導した意見とも一致し、党が自由意志にもとづく統一体であることを明確にする上からも、実際問題としても賛成である。しかし、十、十一条は十二条によって補足しているとはいえ、正しくない適用をうみだすおそれがある。この規約は除名処分とは明白にことなるとはいえ、党員のすべての権利、義務、活動の基礎である党籍を除くことについての規定であるから、念には念をいれて厳密にせねばならない。

 おお! いいこと言いますね! その通りです。

 そしてこう続くのです。

 とくに問題となるのは、第十一条の後半、すなわち、本人が離党を請求せず、しかも党生活に実際に参加し、党費をおさめ、かつ、除名処分にあたいするような規律違反を行っていないにかかわらず、党組織が党員としての資格に欠けているとみとめた党員を除籍する場合の規定である。「発表にあたって」の説明では「著しく反社会的な行動をおこなうものなど」とされている。このような場合はかなり例外的には必要とされるだろう。しかし、規定がばく然としており、判断の基準もあいまいなため、濫用される危険をもっている。悪意のない濫用さえ起りうる。正常な意識のもとにおこなわれる反社会的な行動はそれ自身、党による処分の対象としなければならないし、正常な意識の下でない、病的な欠陥による発作などによる場合のみがここでは対象になるとすれば、規約に明記せずとも、内規的な取扱いにより、(ただし、医師などによる診断にもとづいて)解決することは明確にした方がよい。したがって、十一条から削除することを提案する。

 この削除提案自体は結局実現しないのですが、提案された欠格党員の除籍が「著しく反社会的な行動をおこなうものなど」に限定されていたし、そのように全党に説明されそう理解されていたことがよくわかると思います。

 同時に、50年問題で恣意的な除名を乱発された当時の現場の党員や党組織が何を心配していたか、痛いほど伝わってきます。

 党活動もまじめにやっている、規律にも違反していない、なのに除籍条項を濫用されて追放されてしまうんじゃないか……まるで今日の私や、私への人権侵害を告発して追い出された人たちを予言しているかのようじゃないですか!?

 この場合、「著しく反社会的」という枠をハメているにもかかわらず、かなり精密に濫用を防ぐように提案していますね。頭の下がる思いです。もしこの人たちが、現代の党幹部が「著しく反社会的」などという看板さえ全く関係なしに勝手気ままに除籍を乱発している姿を見たら卒倒するかもしれません。

 いずれにせよ、除籍条項は、①党費を納めない幽霊党員、②著しく反社会的な行動をした党員(党員としての資格を失った党員)として出発したのでした。そして長い間、この運用は続き、②はめったに起こらなかったので、除籍といえば①を意味するものとしてイメージされていくようになります。「12条党員」などと言ったものです。

 

 1982年の第16回党大会決定でも除籍について規約改正を行っていて、その際に、除籍というものは本人の自由意志での離党とは違い、党組織の意志で党の名簿から消してしまう措置だから慎重にすべきだとしてこう述べています。

したがってかならず本人と協議し、本人も納得ずくで行うことを原則とし、…安易な除籍をいましめるようにしたものです。(「前衛」特集号p.148)

 そうです。

 本人も納得せず、協議もしないまま党から追放する——そんなことがないように当時の共産党は慎重に対応していたのです。そして、除籍というものが本人の意志でなく党組織の意志で行われるという事態は変わっていないのですから、この「納得ずく」を原則とするということは今日でも生きているものでしょう。

日本共産党の「除籍」規定の歴史2:幽霊党員要件がはずれ、「綱領・規約の否定」要件が入る

 しかし、大きく規約の条文が変わるのが1994年の第20回党大会です。

 ここで、①党費を納めない幽霊党員は「除籍」とせず、「離党」扱いにします。初めてのことです。これは戦後の除籍のあり方を大きく変えました。

 そして②に加え、「③綱領・規約を否定することで党員資格を失った党員」という場合が入ってきます。これも初めてのことです。

第12条 党の綱領あるいは規約を否定するにいたって第一条に定める党員の資格を明白に喪失したと党組織が認めた党員、いちじるしく反社会的な行為によって第九条の定める党員資格欠格者となったと党組織が認めた党員は、除籍することができる。

 「いちじるしく反社会的な行為」をした場合とは明確に区別されて、「党の綱領あるいは規約を否定」した場合というケースが入ってきたのです。(両者を区別することは、この提案がおこなわれた第19回党大会12中総決定でも述べられています。)

 これが1994年です。

 その規約改定に除籍された古在・有田・川上ら3氏は「いちじるしく反社会的な行為」をしたわけではありません。それなのに除籍されています。まさになんの道理もない、めちゃくちゃな「カジュアル除名」でした。この時期に、他にも除籍になった知識人がいます。

 これは私の推測ですが、党幹部はおそらくこのままではマズいと思ったのでしょう、規約無視の“めちゃくちゃ除籍”をしてきたので。それでそのめちゃくちゃを追認する規約改定に及んだのではないかと思うのです。

 ただし、そう変えたからといって、綱領や規約をはっきりと「認める」と述べているような党員を勝手に追放するわけにはいきません。それがこの改定の限界です。

 なるほど「もう規約は認めない」と公然と述べている党員であれば、(「いちじるしく反社会的な行為」がなくても)明白に党員資格を失ったとみなして除籍することはできるかもしれません。しかし、「規約を守る」と誓い、自分の行為は規約に違反していないと述べている党員に対してまで適用するのは無理があります。ちっとも規約の否定が「明白」ではないからです。その場合は、規約の手続きに従って、違反と処分の認定をするほかありません。党員と組織の間に紛争があるのですから。

 常識的には例えばまず「警告」、次に「権利停止」、そして「除名」と段階的に行うべきでしょう(その間に教育的な指導も行って)。もちろんケースによっては一発除名ということもなくはないでしょうが、いずれにせよ、除籍ではなく処分によって解決すべき問題です。

 そうでなければ、かつて文京地区委員会が懸念したように「濫用される危険」にさらされることでしょう。そして実際にそのようになってしまっていますが。

日本共産党の「除籍」規定の歴史3:現行の規約

 この規定は現行規約ではまた変わりました。2000年の第22回大会で、これは規約の抜本的な改定をおこなったときです。

第11条 党組織は、第四条に定める党員の資格を明白に失った党員、あるいはいちじるしく反社会的な行為によって、党への信頼をそこなった党員は、慎重に調査、審査のうえ、除籍することができる。除籍にあたっては、本人と協議する。党組織の努力にもかかわらず協議が不可能な場合は、おこなわなくてもよい。除籍は、一級上の指導機関の承認をうける。

 党費未納などの幽霊党員規定ははずれたままであり、反社会的行為だけでなく、「第四条に定める党員の資格を明白に失った党員」というケースを入れているのは20大会に似ています。

 しかし、前の規約では「党員の資格を明白に喪失したと党組織が認めた党員」でしたが、現行規約は「党員の資格を明白に失った党員」としています。

 喪失したかどうかを党組織が決められたのが前の規約でしたが、現行の規約では党組織は決められません。客観的に失っているかどうかがポイントになります。

 また、「党の綱領あるいは規約を否定するにいたって」という文言が消え「第四条に定める党員の資格」と変わりました。「否定するにいたっ」たという条件ではなくなり、加えて、国籍や年齢の条件が入ってきました。大がかりな変更と言えます。

 このため「国籍があるかないか」「年齢が18歳以上か未満か」とあわせて「綱領・規約を認めているか否か」というような外形性のある判断基準になります。そうでなければ「明白」であることが保たれないからです。組織側は「規約否定だ」といい、党員側は「規約は否定してない」と争っているような場合はちっとも「明白」ではないからです。

 

 これも私の推測ですが、おそらく起草者であったろう不破哲三氏は、20大会で行きすぎて恣意的に運用されがちなこの除籍条項を、恣意的になりにくい形に改めたのだろうと思います。しかし、残念ながら、現場での実際の運用は、そうした問題点などお構いないしにそのまま除籍の濫用が続いたようですが。

 この時は規約の「『一部改定』ではなく…四十二年ぶりの抜本的な改定」*1とされたように、規約の性格そのものを変えるという“大工事”でした。秘密結社的な「前衛党」から国民に開かれた党になるというもので、党指導部が権力との闘争を理由に軍隊式に一方的に上意下達するシステムや表現をなくしていきました(22大会報告参照)。この部分の改定については大会などでは直接の言及はないのですが、おそらくそうした改革の意図があったのではないでしょうか。いずれにせよ、2000年の規約の抜本改正で、1994年の改定表現はさらに大きく変わったのです。

 まあ、その推測が当たっていようがいまいが、それはどうでもいいことです。

 前述の通り、規約を「認める」と述べている明言している人をそのまま除籍することはできず、規約に違反しているかどうかは現行規約でいえば第11章(48〜55条)の手続きに沿ってきちんと認定・決定しなければならないということです。仮に、ある人を規約違反で追放したいなら、規約違反を正式に認定し除名するという手続きによる以外にはありません。

 そうでなければ、党指導部が好き勝手に「気に入らない党員」を追放できることになってしまうからです。