私が応援した田中しんすけさんは残念ながら当選できませんでした。当選は現職の高島宗一郎氏です。投票率は34.1%でした。
- 高島宗一郎 無現 329,606(75.6%)
- 田中 慎介 無新 96,408(22.1%)
- 熊丸 英治 無新 9,423( 2.1%)
「市民の会」からみた結果
私の選挙のとき、私の選挙母体(確認団体)になったのは「市民が主人公の福岡市をめざす市民の会」(市民の会)ですが、「市民の会」は、ずっと独自候補の擁立をしてきました(そして政党では共産党単独推薦)。
しかし、今回は市民と野党の共闘を推進する立場から、さらに広い共同を呼びかけ、従来の「市民の会」の枠をこえた、より幅の広い市民・団体・政党が結集する「福岡市から政治をかえる会」(かえる会)に参加して田中さんを応援することを決めました。
「市民の会」が応援する候補としては、社共共闘が壊れてからの1980年代以来(その前身となった団体*1のころをふくめ)、田中さんは過去最高票となりました。
過去の「市民の会」が応援した候補者で得票が高かった選挙の結果は次の通りです。
- 田中しんすけ(2022年) 96,408(22.1%)
- かみや貴行(2018年) 94,437(24.9%)
- 清水とし子(1994年) 74,726(26.1%)*2
- 本庄いさお(1986年) 85,569(26.7%)*3
これは私たちががんばってもこれまではできなかった到達だったわけで、そういう意味では、「市民の会」として従来の枠を破っての新しい共同に踏み出した成果でした。
前にも書いた通り、田中さんは政策協定や説明などを相当ていねいに行ってくれました。集会にも顔を出し、個人演説会の枠も用意し、非常に誠実に共闘に臨んでくれました。
特に、立憲民主党・社会民主党・国民民主党、「連合」などの諸団体ともうまくブリッジを組んで、現状ではベストとも言える共闘体制を構築するのに心を砕いてもらったと思います。その真骨頂が11月15日の個人演説会での野党勢ぞろいだったわけで、ここまでの形が組めたことは、メディアが選挙後に書いたように一つの財産でした。
国政では野党共闘の動きが低調な中で、福岡市において、立憲、国民、社民の推薦を得たほか、共産からも支援を受けるなど、事実上の野党共闘を築いたことは一つの実績を作ったといえる。(朝日新聞2022年11月21日付)
私の周辺では、田中さんが当選できなかったという結果にがっかりするムードが強いのですが、それは田中さんとその選対関係者のみなさんが、ここまで誠実に臨んでくれて、田中さんの陣営との一体感があったからこそだろうと思います。15日の演説会のような*4。もっとドライな関係だったら、逆にいえば、そういう落ち込みはなかったかもしれません。
実際に髙島市政を転換させるためにどうするのか
とはいえ、目標は単なる「前進」ではなく、実際に髙島市政を終わらせ、市政を市民本位に転換することでしたから、そこから見ればまだ相当に距離があることは否定できません。
先ほど紹介した朝日新聞の記事は、続けてこう書いています。
ただ、共闘が十分に機能するだけの選挙態勢を整えるには時間が足りなかった。
これは各紙とも似た論調でした。
「時間が足りなかった」というのはそうだろうと思うのですが、それは果たして「選挙態勢」だけで補えるかというと、私はそうは思えないのです。実際、今度の選挙が終わってから、どこそこの団体は動いていなかったとか、かくかくしかじかの政党は前に出過ぎではないかとか、そういう意見も聞こえてくるのですが、そのあたりを「改善」したとしても、果たして髙島市長との票差がひっくり返るのかどうか。
棄権は今回も7割近くに及んでいるので、「市民の大多数が髙島市長を支持している」とはいえません。今回でも全有権者の4分の1の支持しか得ていないのです*5。しかしながら、髙島市長は就任してから20〜30万ラインの得票を獲得しています。つまり、髙島市長を支持して投票に行く層が、安定的にそれくらいはいるということです。そこは厳然たる事実です。
この20〜30万を崩すとともに、それを追い越すほどの支持を見込める、そういうオルタナティブ(代替)を示せるかどうかが大切なところです。
田中さんは「トップダウン・トリクルダウンでなくボトムアップを」というのを、市長の政治姿勢と経済路線と結びつけて訴えました。開発政策の一定の見直しと「分厚い生活支援を」ということも公約しました。
田中さんもデータで示しましたし、私たちもそれはデータで示しましたが、事実の問題として間違っていません。この方向でいいのです。
大事なことは、これを議会の内外で日常的に市民の共通認識となるように広げていくことでしょう。その上で、市政野党が共同して、政策と実績を魅力あるパッケージで市民に示すことです。さらにその共同を担うキーパーソンがいれば、なお良い。
あわせて、それとの対比で、髙島市政の「看板倒れ」や問題政策を具体的に告発することです。
(前回選挙後に)ロープウェー構想は撤回を余儀なくされた。髙島さんの周辺は「具体的な政策は批判の対象や材料になる。市政継続の是非に持ち込むのが一番いい」と解説する。(読売新聞2022年11月21日付)
などとふざけたことをおっしゃっていて、具体的な問題点を告発されることを恐れているわけです。髙島さんはそれを巧妙に隠して、「やってる感」を演出することに長けている、とも言えます*6。
つまり、
- 髙島市政の空虚さ・問題点の具体的告発
- それと表裏一体の建設的な提案とその実行をする運動や勢力の目に見える提示
という2つが日常的に必要なのです。
2.の中には、単なる建設的提案にとどまらず、切実な市民要求を掲げたさまざまな大小の市民運動が各地で無数に起き、それらが共同していくことも含まれています。オルタナティブを「現存する力・勢い」として示すことです。
別の言い方をすれば、国政での大きな政治の流れ(例えば野党が共同すること)を示すことは大事ですが、それだけでは勝てない。基本的にはあくまでそれはプラスアルファです*7。市政を転換するには、市政そのものでの判断をする、という当たり前の原則に立ち返るべきです。
冒頭に述べたように、私は今回、野党共闘が構築されたことによる効果はあったと思うのですが、それはきわめて限定的だったと思います。具体的には「野党のかたまりができて髙島市政を批判する」ということで動いたのは数万票——「数万」というとデカく聞こえますが、全体の率でいうと数ポイントほどではないかと思います。
というのは、前回の私のような共産党単独推薦の首長候補の場合、一騎打ちの場合は全国で1割台の得票が平均です。非常に良くて20%です。私がとった25%、つまりプラス5ポイントは、他の党派の皆さんの応援・期待もありましたが、当時西日本新聞が書いたように*8やはりロープウェー構想への反対で数万票(率で数ポイント分)が保守や無党派層から流れ込んできたことが大きいと考えられます。
その数万票は、ロープウェー構想のような具体的争点が弱まって、髙島市長側に戻っていったのではないでしょうか。髙島さんは今回かなりていねいに自民党に応援を頼み、小さな集会にも顔を出してそれらを「拾い直して」います。髙島さんが前回より増やした4万票はそのあたりの票数でしょう。
そのままでは対抗候補の側に、前回よりも数万票の穴ができることになります。その穴を埋めたのが、野党共闘効果でした。野党が一つのかたまりになったことで「そんなら期待してみるか」と活性化した層があり、出ていった数万が埋まったのです。これが「野党共闘効果は数万票分、率でいうと数ポイント分」だったと私が思う「根拠」です。まあ、あくまで推察なんですが。
いずれにせよ数万票、数ポイントレベルの動きしかなかった、とも言えます。
私の周辺で「せめて今回の批判票が3割ぐらいあればなあ…」みたいな声があるんですが(これは田中支持をした政党の、直近参院選の比例得票の合計が35%ほどになるという「根拠」から生まれてくるものだと思います)、そのレベルではそもそも髙島市政を変えるという点では届きません。
加えて、こうした声は、「野党である〇〇党支持者の半分は髙島市長に投票している」というようなメディアの出口調査を「根拠」にそういっているわけですが、それは選挙期間中に、その政党が組織的に「締め」たら髙島さんから離れて田中さんに来たのかと言えばそんなに単純でもないだろうと思います。
もちろん選挙期間の組織的な対応がしっかりすれば、ある程度は反髙島票(田中票)が伸びたかもしれません。しかし、そういう政党の支持層の方々には、市政そのものの問題点と代替策が日常的に示されていなかったわけで、だからこそ、そういう野党の支持者のかなりの部分は棄権するのではなく、「髙島さんでいいじゃん」と思って髙島さんに投票したのです。根本的にはやはり「普段の現市政への接し方」が問われることになります。そういうレベルで「時間が足りなかった」とも言えます。
別の言い方をすれば「2割台ではダメで3割台なら良かった」みたいなのは、あまり意味のない選挙総括だと思うのです。総括基準がおかしいのです。(こうした「基準」の発想がなぜ生まれてしまうのかは記事の終わりに「補足」を設けましたので、それを読んでください。)
野党共闘が本当に市政転換で力を発揮するには、国政の枠組みの「借り物」ではなく、市政での日常的な共同が求められます。前期に比べると市政野党の議会内外での共同は、国政への意見書での協議などの点で格段に改善されていましたが、市政課題については限定的だったというのが私の感想です。
くりかえしますが、今回の野党共闘は財産です。
「市長の開発路線では市民の家計は豊かになっていない」「トリクルダウンは起きていない」という髙島市政の問題点が党派を超えて共有されたわけで、その暴露と解決提示を日常的に形にしていく、議会論戦そして市民運動ができることは明らかに社会の進歩です。ここで後退せずに、次に進んで行こうじゃないですか。
補足:「3割台くらいはいけるはずだ」論の根っこ
記事本文は上記で終わりです。以下は補足。おまけですので、読みたい人だけどうぞ。
「3割台くらいはいけるはずだ」という観念がなぜ生まれてしまうのかを以下に書いています。
これは簡単に言えば、田中支持をした政党の直近参院選の比例票の合計でしょう。
立憲民主党13.0%、社民党3.4%、日本共産党5.6%、れいわ新選組5.6%で合計27.2%です。
これに国民民主党の7.1%を足すと34.4%です。
だいたい3割台を「基礎票」とみなしてもいい感じがします。
そうなれば野党共闘効果で3割台、うまくいけば4割台…と考えるのは、あまり無理はなさそうです。
21日付の西日本新聞の報道では、立憲民主・共産・社民の支持層のだいたい7割が田中に入れたとされています。このデータに基づけば“主要政党の支持層は組織的に固めたが無党派層に全く広がらなかった”という総括になります。
しかし、これとは全然別のデータ、とりわけ立憲民主党の支持層の行動が西日本新聞とそれ以外とでは全く違うのです。
NHKの出口調査では、立憲民主党支持層の半分が田中さんではなく髙島市長へ投票していますし、読売新聞21日付でも
田中さんは推薦を受けた立民支持層からも約4割の支持にとどまるなど、各党支持層を固められず、伸び悩んだ。共産支持層では約7割に浸透したが、無党派層への広がりを欠いた。
とされています。国民民主党支持層ではNHKの出口調査や西日本新聞の調査では9割以上が髙島市長に投票しています。
こちらのデータに基づけば、全然別の筋書きになるように思われます。*9
私はこちらを主要な問題だと考えます。
先ほど、参院選比例票を基準に、今回の市長選についてもだいたい3割台を「基礎票」とみなし、そうなれば野党共闘効果で3割台、うまくいけば4割台…とする発想について記しました。
しかし、これはあくまで日常的に対決が報じられ、実際に政権の予算などに反対している国政の話です。
福岡市政ではどうかといえば、髙島市政の当初予算や一般会計決算に反対している政党・会派は、共産党と緑・ネットしかありません。また、政策についても髙島市政の基本路線である開発政策と対決しているのはこの2つの会派だけです。
田中さんは「もともと『天神ビッグバン』など市の開発路線にも反対はしていない」と10月14日付の西日本新聞が報じたように、市民クラブに所属していた頃は天神ビッグバンも「賛成派」でした。
また、田中さんは「福岡は本当に元気なまちですか?」と髙島市政を批判し、トリクルダウンが起きていないことをつきつけました。ただし、これは田中さんが出馬をする直前の9月議会、田中さんの市議会での最後の質問においてでした。
「だからけしからん」という話ではなく、事実の問題です。市民クラブ…というかそこに所属してる立憲民主党と社会民主党は今回かなりはっきりと髙島市政との対決にカジを切ったはずですから、それは大切な転換だったし、今後もそれを貫いていってもらうのがいいと思うのです。
ただ、そのように日常的に髙島市政を批判し、対決するスタンスにあったのは、日本共産党と緑・ネットの2会派であり、そのスタンスでこの2会派の市政報告会が開かれ、議会報告も発行されてきました。したがって、この2会派の支持者は髙島市政反対の「既得陣地」とみなすことはそれほど無理がありません。
しかし、立憲民主党の支持層は半分くらい、国民民主党の支持層にいたってはほぼ全てが“髙島市長で問題ない”と思っているのです。
つまり、参院選の比例票合計=全体の3割を基礎票・既得陣地・出発点とするのは無理があり、せいぜい共産・社民の全部と立民の半分+アルファくらいだろうと見なせます。そうすると6%+3%+7%+α=1割台の後半とみていいんじゃないでしょうか。17〜18%からの出発だった、ということです。*10
せっかく立憲民主党や社会民主党、国民民主党、そして福岡市民クラブは今回、田中支持に踏み切り、髙島市政との明確な対決スタンスに立ってくれたわけです。したがって、市政問題での共闘を、今後共産党や緑・ネットなどととも議会内外で日常的に行なっていってほしいと希望しています。
*1:※「市民の市長をつくる福岡市民の会」。
*2:※「市民の市長をつくる福岡市民の会」。
*3:※「市民の市長をつくる福岡市民の会」。
*4:西日本新聞11月22日付の記者座談会では「選挙中に開かれた集会の中では、この団体主催の集まりに一番熱気を感じた」と述べている。
*5:「投票に行かない人でも同じ割合で支持しているよ」という意見もあるかもしれませんが、同じような言い分・反論は対抗陣営・野党側にもあるわけで、選挙は実際に出た結果が全てです。その意味では髙島市長の市民の支持は有権者の4分の1であることは厳然たる事実です。
*6:例えば人工島事業は莫大な税金を食い尽くしている事業ですがそこは隠して、今回の選挙では、一部の売れた土地部分だけを見せて「黒字になった」というキャンペーンを張った。
*7:もちろん時々、すごい風圧で、国政の流れや風だけで勝敗が決まってしまうこともありますが、それはやはり例外というべきでしょう。
*8:「市長周辺も『ロープウエーの争点化で数万票は相手候補に流れた』と見る」(西日本新聞2018年12月25日付)。
*9:22日付の西日本新聞の記者座談会では「中盤の情勢調査で、立民支持層の半分しか固められていなかった」とあり、NHK・読売と西日本の差は、どの時点で集めたデータかという違いもありそうだった。
*10:共産支持層でも7〜8割ですから、これは「よく固めた」と見るか「2〜3割を固めていない」と見るかは難しいところですが、それは組織内で「組織戦がどうだったか」を考える基準になる程度の話だろうと思います。