久しぶりに福岡市政にかかわることを少し。
福岡市で高島宗一郎市長が進めているスマートシティ構想(スマートイースト)にかかわって。
「スマートシティ」というと、現時点では「スマートシティ反対」というスローガンを対置してしまいそうです。
この点で、2024年11月27日付「しんぶん赤旗」の連載、「デジタル独占と民主主義」での内田聖子さん(PARC共同代表)のインタビューが注目されます。
バルセロナはスマートシティの先進例として知られています。
スペインのバルセロナは、斎藤幸平さんが気候変動における市民参加の取り組みでも注目していましたが、ここではスマートシティでの「先進例」として紹介されています。
バルセロナのアーダ・コラウ氏が市長についた市政のスマートシティ政策を次のように評価しているのです。
コラウ市政は、スマートシティを民主化することを目標に掲げました。最初に取り組んだのは、市民が市政に参加するプラットフォームの構築でした。市のウェブサイトにつくられた「デシディム」というデジタル参加型プラットフォームです。そこで市民は市政への提案、議論、賛否の表明、それに必要な各種のデータの閲覧ができます。
これは市民提案が予算としてはかられる「参加型予算」も含まれています。
この仕組みを通じて、15年からの4年間で1万件以上の提案がされ、約1500件もの提案が市議会で採択されました。
1500件! およそ福岡市では想像もできない状況です。
もう一つ、同市が主導してEUで進む重要な動きが「データ・コモンズ」です。これは、個人の情報を商品としてとらえるのではなく、個人と社会に大きな利益をもたらす共有財=コモンズとしてとらえ、透明性と説明責任を担保しつつ安全に利用するという価値への転換です。
企業の利益追求を第一にする資本主義のシステムを乗り越える動きだともいえます。
今は企業の手で収集、管理、運営され、利用されている個人情報を、公共の利益に還元させようという理念です。
詳しく書かれていないので、推測するしかありませんが、例えば福岡市では箱崎の九大跡地にスマートシティ的なものを作ろうとしています。
この再開発をJR九州や西日本鉄道、西部ガスなどのグループが受け持つことになっているのですが、その中には企業が個人情報を収集する中身が当然のように入っています。
バルセロナでは、「だから反対」とせずに、「そのデータを民主的に管理させてくれませんか?」とやるわけです。
ビックテックではない地元の企業や、非営利の協同組合などが関わっていく、という発想です。/人の役に立てるものであれば協力してもいいよという思いを持っている住民は多いのです。個人情報をポジティブに活用していく可能性は大きいと思います。
ここになかなか踏み込めない、というのが今の日本の左派の現状ではないでしょうか。ただ、これをやろうとすれば、やはり地元にそうした情報の民主主義的な管理を担えるような勢力・運動体・団体が育っていないとなかなかイメージできないのも事実です。
内閣府でさえ、スマートシティで「地域課題を解決する」という問題の事例集をつくり、その中で「ボトムアップ」型の参加について述べています。
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/pdf/r4_sc_besshi5_4.pdf
もちろん、体裁だけ整えて、実際には住民参加は形骸化されたり、ボトムアップの中に企業体を入れて結局資本主義的な管理になってしまう場合もあるので、無条件にこれらを参照できるわけではないでしょう。
しかし、そういう取り組み・問題意識で取り組みがすでに始まっているということです。
ポイントは、一般的に「住民代表」を議論テーブルの端っこにアリバイのようにおいて終わり、ということではなく、かなりセンシティブなデータを主導的にどうするか、市民主体で決められるかどうかにあると思います。バルセロナで実際にどのレベルが実現しているのかはもっと調べてみないとわかりませんが、かなり高いハードルだといえます。
マルクス主義は、技術の進歩には反対ではありません。
むしろ、積極的にそれを推奨すべき立場です。
しかし、それが資本主義的に使われてしまうとき、技術の進歩が人間に不幸をもたらすものになってしまいます。自動運転車が、ドライバーの失業を促すように、です。そうした時に技術進歩に反対するのではなく、それを時短に使ったり、コミュニティ全体の他の交通の実現の資源として使ったり、そういう社会の視点を持てるというのが、マルキストの優位性だったはずです。
ところが、単純な「反対」に立ってしまうと、技術進歩そのもの、デジタル化そのものに反対し続ける反動派に堕してしまうことになります
気をつけたいところです。
もちろん、こうした積極的・建設的な提案をまったく受けつけないのであれば、そうした構想には「反対」をつきつけるということは十分ありえます。
しかし、「スマートシティだから反対」というのは、かつて共産党の不破哲三が「開発反対」というスローガンを批判したのと同じ思考の落とし穴にハマっていると言わざるをえないでしょう。