引き続き、高島市長の記者会見をもとにした架空討論会を勝手にやってます。今回は高島市長の得意分野、スタートアップについてですね!
―これまでのスタートアップ(創業)支援の取り組みの評価と、どのように市全体に還元していきたいか。関連して国家戦略特区も使っている。「アベノミクスの実験場」などと言われるが、政権との関わり、特区の活用について今後どう考えているか―
新しいサービスやビジネスを福岡から生み出していこうという事が、狭い意味でのスタートアップです。その心は、リスクを取ってチャレンジする人が評価される、そんな社会を作っていこう、そんな日本を作っていこう。そのためにそんな福岡をつくっていこうという事なんです。
これまで、スタートアップカフェをはじめ、さまざまな施策を組み合わせて、ムーブメントをつくっていく取り組みをして、スタートアップのすそ野は相当に広がりました。
開業率の日本一。福岡市は今は開業率7%台。そういう意味では開業のすそ野が広がって、ビジネスをスタートするなら福岡市、という機運が広がってきたと思います。
例えば「資金調達に成功するという所が現れた」という事がニュースになっていたのが、段々もう当たり前になってきて。資金調達はみんな、するようになってきた。全体としてステージが上がってきていると思うんですね。
でも、最終的には福岡からユニコーン(評価額が10億ドル以上と見込まれる非上場のベンチャー企業)を出していく事が、目指すところです。一足飛びには難しいかもしれませんが、一つ一つのチャレンジ、ピュンと飛び抜けたロールモデルが出てくる事によって、全体が引き上げられるというような効果があるんですね。まさにその半ばではありますが、確実に着実にムーブメントは出てきていると感じています。
スタートアップがどのように成長するかという手段の中で、グローバルとスケールアップというのがあるんです。グローバルというのは、福岡市は今、海外10カ国14拠点かな? スタートアップの(連携に関する)MOU(覚書)を結んで、都市のスタートアップのブースを市として出して、そこに福岡のスタートアップ企業の皆さんをどんどん出していく形で、グローバル展開は進めています。
スタートアップ支援自体は大切
私、記者会見で市長のスタートアップ支援について問われて「スタートアップ支援だけはいいなと思います」とお答えしたんです。
大きく見て、起業するような人たち、それを支えるような人たちが集まってかたまり(クラスタ)を作るようになることが行政としてスタートアップ支援をする上では大事なのかなと思っています。
そういう意味では確かに高島市長になって「福岡市がスタートアップをする人たちが集まっている地方都市」というイメージは一定できてきたと思います。
しかし三戸政和さん(株式会社日本創生投資 代表取締役CEO)は
ベンチャーキャピタル(VC)の業界にも、「千三つ」という言葉は当てはまります。文字通り、1000社のベンチャーに投資検討して、そのうち投資が実行され、さらには上場できるまでになるのは3社程度しかない、といわれます。つまり、新たに起業する会社のうち、大きく成功するのは0.3%しかないということです。*1
と言ってます。「死屍累々」(p.49)だとも。三戸さんはゆえにサラリーマンに対して「『起業はやめなさい』と声を大にして言いたいのです」(同前)とまで言っています。
ただ、私は市長としてそういうことを言いたいわけではありません。
それでも、上場する企業があれば投資額は数十倍になって回収できます。1社が上場すればトントン、2社が上場すれば大成功、という世界なのです。確率論だけでいえば、ほとんど博打のようなものです。つまり、1億円を投資しても8割から9割が成功できない。それが起業の現実です。(三戸前掲p.58)
うまくいけば、投資家から見ればそういうリターンが返ってくるわけですから。
なるほど高島市長が「ユニコーン」(評価額が10億ドル以上と見込まれる非上場のベンチャー企業)を目指すというのはわかります。
それだけに資源を割いていていいのか
だけど「ユニコーン」という名の通り、「噂には聞くけど誰も見たことがない」というほどの稀少なものです。支援は大切だけど、そこにそんなにリソースを割くのかな、というのが正直なところです。
率直に言って、政策資源を割きすぎじゃないかと思います。
福岡市には地元に根付いて、活躍している地場の中小企業がたくさんあります。
その6割が後継者不足に悩んでいます。
これは地場中小企業の大きな悩みの一つです。
このような事業承継をどう支援するのか。
市も連携している福岡県の福岡県事業引継ぎ支援センターがあるんですが、相談が年200件ほど、成約はその10分の1です。まだまだ支援が足りないんじゃないかと私は思います。
こういうところに、もっと支援をしてはどうか。
それこそ、大企業のサラリーマンを退職・転職したような人が、こうした後継者不足に悩む地場の中小企業で数年一緒に働いてみて、事業を引き継ぐようなマッチングだってあるんじゃないでしょうか。
市政がスタートアップ支援をしてきたことの「良さ」は私は認めましょう。
だけどそこに力を割きすぎていて、地場で活躍している中小企業への支援が薄いと私は感じています。
特に、その6割を占める小規模企業への支援。
例えば、市が地場の小規模企業にどれくらい仕事を発注しているのか、福岡市はデータさえもとっていません。真面目に支援しようという気がないんだろうなと思います。新しく作られた中小企業振興条例では第14条で
市は、中小企業の振興に関する施策を講じるに当たっては、経営資源の確保が特に困難であることが多い小規模企業者(法第2条第5項の小規模企業者であって、市内に事務所又は事業所を有するものをいう。)の事情に配慮するよう努めるものとする。
とまで定めているのにですよ。
スタートアップの際に問題になることを正す
それと、スタートアップ企業にありがちな問題を、公正を旨とする行政としてきちんと正す必要があります。
それは、「友達感覚」で始まるベンチャーは、ブラック職場になる恐れがあるという問題です。しっかりした労使の雇用関係を築きにくい。
高島市長が安倍政権と一体になって始めた国家戦略特区メニューの一つ、「雇用労働相談センター」では解雇指南ともいうべきセミナーまでやっています。
共産党が市議会でこの問題を追及しています。
福岡市が「国家戦略特区」に指定され、厚生労働省の委託事業である「雇用労働相談センター」が開設されていますが、昨年12月に開かれたセミナーでは、代表弁護士による講演で「日頃から人事考課で2と1をつけよ。いきなり2や1をつけるのはダメ」「退職勧奨や指名解雇という手もある。高度なノウハウ。センターに相談を。辞めていただくうまい方法を相談して見つける」「契約に『解雇したらこれくらいのお金を払う』と書いておけば、弁護士も『しょうがないね』ということになる」など経営者向けに「解雇指南」「脱法指南」というべきものがされていたことを追及しました。
そしてさらに言えば、そういう「起業の街」だからこそブラック企業根絶条例が必要だと私は提起して来たんですが、高島市長は一貫して議会では条例制定の必要性を認めませんでした。
だから、私は記者会見でも言いました。
「高島さんのスタートアップ支援はいいと思っているけど、他の問題が見えていなさすぎる。だからまあ、私が市長になったら、高島さんにはスタートアップ支援の課長にぜひ就任してもらいたいと思っています」
高島市長の反論をお待ちしています。
補足(2022年10月)
最近読んだマンガで大変興味を惹かれたものです。スタートアップの醍醐味とともに、しかし引き受けるべき「つらさ」が簡潔に示されています。
*1:三戸『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』p.55