高島市長が安倍政権と一体で進めているのが国家戦略特区です。「グローバル創業・雇用創出特区」っていいます。
忘れちゃいけない解雇指南特区
忘れちゃいけないのが、この走りが「雇用労働相談センター」ってやつです。
ここで事実上の「解雇指南」が行われていました。
まあ、その解雇指南を実際にセミナーに行って、その場で私も聞いていたので、本当にびっくりしました。
議会で共産党(星野美恵子市議)が追及した時の様子がコレですわ(2015年03月11日、2015年条例予算特別委員会、強調は引用者)。
◯星野委員 スタートアップカフェに併設されている雇用労働相談センター、以下センターと言うが、ここでは、本市で創業しようという起業家を対象に、セミナーが数回行われてきた。…(中略)…セミナーの講演内容について、センターの委員で代表弁護士である岡田和樹弁護士は、スライドを用い、わかりやすく詳細な指導、指南を行っているが、例えば…(中略)…解雇の仕方については、具体的、詳細に何例も指導している。まず、労働契約書において解雇時に支払う金額を明記しておけば、弁護士も対応のしようがないと述べている。これは、市長が国に提案した内容であるが、解雇が合法化されるのか。
△経済観光文化局長 質問の発言についても、正確には確認できていないが、解雇に関して、労働契約法第16条等の内容を説明した上で、雇用条件を労働契約書等に明記するなど、雇用条件を明確化することが先々の個別労働関係紛争を未然に防止することになるという趣旨で講義がなされたと認識している。なお、労働契約法第16条によると、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇については無効であると規定されており、あらかじめ就業規則に定めさえすれば無条件で解雇できるものではないと認識している。
◯星野委員 指摘のような解雇は合法ではないにもかかわらず、労働契約書に書いておけばよいという指導をしていることをどう思うのかと尋ねている。解雇して裁判になったときの備えについて、日ごろから人事考課をきちんとし、5段階評価であれば1と2をつけ、それが3年続いたら首だと言っておくことや、首にしたいから突然1や2をつけるのはだめだとも講義の中で言っている。雇用主として日常的に何をしておけば従業員の解雇がしやすいのかを具体的に教えるもので、これはまさに解雇指南ではないか。
△経済観光文化局長 この発言についても正確には確認できていないが、人事考課について、仮に勤務成績不良で解雇することが妥当な場合であっても、その前提として、日ごろから適切に人事考課を行っておかなければならないという趣旨の説明がなされたと認識している。
◯星野委員 今述べたことを講師は実際に発言したのであるが、これが適正な人事考課か。そのほかにも、退職勧奨や指名解雇という手もあるが、かなり高度なノウハウが必要になるため、センターに相談することや、やめてもらううまい方法を相談して見つけていくということも言っている。まさに、センターは、雇用や労働についての相談の場というより、企業が労働者を解雇したいときに相談する場ではないか。
△経済観光文化局長 この発言についても正確な確認はできていないが、退職勧奨等について、被勧奨者の自由な意思決定を妨げてはならないことの説明があり、その一方、セミナーに時間の限りがあることから、センターの弁護士等による個別相談等を活用してほしいという趣旨の発言があったと認識している。
◯星野委員 今まで述べてきたことは全て、このセミナーでの講師の発言である。市のスタートアップカフェで行われているセミナー全体が解雇の方法や働く人の人権を踏みにじる働かせ方の指南の場であった。講師自身も悪びれることなく、きょうのメーンは人をやめさせる問題だと言ってはばからなかった。このように具体的に解雇指南を国と市が一緒になって行うことは大問題ではないか。
福岡市は、確認していいか悪いか確かめることさえもせず、「問題なし」という答弁を繰り返していました。そして市は担当課がセミナーに行っているにも関わらず、記録も残さず、「問題なし」としてきたのです。
この問題は国会にも持ち込まれました。
さすがに石破大臣は、まずいと思ったのでしょう。
石破茂地方創生担当相は、講演記録を残す必要を認めたうえで、「解雇指南などと批判を浴びないように配慮し、きちんと見ていく」と答えました。
当然だと思います。
「雇用労働相談センター」は、実は国家戦略特区法そのものに書かれている、かなり重要なセンターでした。37条にこうあります。
国は、国家戦略特別区域において、個別労働関係紛争…を未然に防止すること等により、産業の国際競争力の強化又は国際的な経済活動の拠点の形成に資する事業の円滑な展開を図るため、国家戦略特別区域内において新たに事業所を設置して新たに労働者を雇い入れる外国会社その他の事業主に対する情報の提供、相談、助言その他の援助を行うものとする。
赤字で強調してありますが、初めから「事業主」のための相談センターなんです。*1
なぜ労働局(厚労省)の相談ではダメなのか?
私はおかしいなと思ったのは、すでに福岡労働局(そして全国の労働局)に「総合労働相談コーナー」ってあるのに、なぜわざわざ別のものをつくるのかってことでした。
私は、福岡労働局に議員の方々といっしょに確認しに行ったことがあります。
「総合労働相談コーナーは『労働者の立場』なんですか?」。
すると労働局の職員は「いえ、労働者の立場というわけではなく、労使双方にあくまで法律をきちんと守ってもらう、法律通りにやってもらうためのもので、そういう意味では労使に中立なんです」「だから労使双方に使っていただけます」と答えました。
これは明快な回答です。
だとすれば、わざわざこれと別に相談窓口を設けるのは、まさに「事業主」、つまり使用者に使い勝手のいい相談窓口をつくることに他なりません。
◯星野委員 講師の岡田弁護士は講演でも、40年の弁護士生活のうち、25年は労働者側、後の15年は使用者側だとその立場をはっきり表明している。そもそも、起業時の労働法制などの相談窓口は既に労働局関係機関の総合労働相談コーナーがあるのに、なぜ、別に雇用労働相談センターをつくったのか。
△経済観光文化局長 厚生労働省の出先機関である福岡労働局は、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき、助言または指導の権限を有し、主として個別労働関係紛争の発生後に、その解決に向けた対応を行うものであるが、それに対して、雇用労働相談センターは、個別労働関係紛争の未然防止を目的として設置されたものである。
◯星野委員 紛争の未然防止も、労使のどちらを対象にするのかも相談コーナーで対応できることが、パンフレットにも法律にも明記されている。我が市議団が行った福岡労働局の聞き取り調査では、相談員は公務員で、労使で立場の分かれる相談については、あくまで中立の立場で相談に乗っているとのことだが、それでは都合が悪いので、一方的に使用者側に立った新たな雇用労働センターをつくったということではないのか。
もうこれは「解雇指南センターじゃないのか」と私は思いました。
議会で追及されても高島さんは、具体的にこのセミナーに反論することはできませんでした。「解雇特区という指摘は当たらない」「今後とも推進する」と答えるのが精一杯だったんです。
「特区で規制が緩和されてよかった」という声をどうみるか
「でも特区で規制が緩和されてよかったっていう声も聞くぜ?」。
なるほど、そういうタイプの規制もないわけではないでしょう。実際、いくつかの新聞記事でそういう「感動美談」を読んだことがあります。
この声をどう見たらいいでしょうか。
だけど、それなら国で政令を変えて、あるいは、国会で法律を変えてやればいいんです。国会のコントロールを逃れて、勝手に地方で始めてしまうというやり方は、憲法で定める民主主義のしくみを壊してしまうものです。
福岡市で開かれた第1回の国家戦略特区の区域会議で、パソナの竹中平蔵氏があけすけに語っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/fukuokashi/dai1/gijiyoushi.pdf
この特区というのを提案させていただいたときに、やはりこれは岩盤規制を突破しなければいけない、その突破を国、地方、民間が 一体となって、この区域会議というのは、いわばミニ独立政府であって、それぞれが陳情ではなくて、何をやるかということを決めていく。
これは本当にめちゃくちゃです。
そもそも憲法95条で、
一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
と定めていて、もし特区みたいなことをやろうと思えば、住民投票をしなきゃいけないはずなんです。それを無視して「ミニ独立政府」のように好き勝手やっているところがひどい。加計学園のようなケースが出てきてしまうのは、まさに「やりたい放題」だからではないでしょうか。
したがって、私が市長になったら、福岡市の国家戦略特区は返上します。公約にも入れている通りです。
そもそもそうやってやってきた高島市政のもとで市民の可処分所得も、賃金も増えなかったわけですから、経済上も効果がありませんでした。
もし「緩和されるべき規制」があったとしたら、私は堂々と国に緩和するように申し入れます。
*1:付帯決議で「労働者も使っていいよ」とありますが、あくまでそれは「付帯」なんですよね。