原水爆禁止2021世界大会と「第1回締約国会議への全ての国の参加」問題

 原水爆禁止2021年世界大会のヒロシマデー集会にオンラインで参加しました。

 以前はわりと頻繁に参加していたのですが、子育てをするようになってからはほとんど参加できず、オンラインということで今年は10年以上ぶりの参加でした。

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 この問題についての参加した私の問題意識は、「福岡市として核兵器禁止条約にどう取り組むか」ということです。「福岡市として」という以上、それは一党一派の立場からではなく、たとえ今の市長であってもその立場でどう取り組めるのか、ということです。

 

どこに関心を持って世界大会に参加したか――クメント墺大使の発言

 この点で、私は、原水爆禁止日本協議会原水協)の安井正和事務局長の「しんぶん赤旗」7月17日付インタビューでの次の発言に注目していました。

大会には来年1月の禁止条約第1回締約国会議を担う国連・政府代表、第10回NPT(核不拡散条約)再検討会議の政府代表が参加します。締約国会議議長を務めるオーストリアのアレクサンダー・クメント大使は、核兵器廃絶の期限を「10年」とする見通しを明らかにしており、〔世界大会での〕発言が注目されます。

 これですね。

www.nishinippon.co.jp

 

 実は私は17日付「赤旗」を読んだ時には安井さんのインタビューに気づいておらず、英語の勉強のために読んでいた「Japan Press Weekly」で初めて知りました。英語で情報を取る、という初めての体験になったわけですね(笑) で、「Japan Press Weekly」の方がもう少し気持ちを引きつける書き方をしているので、あえて引用します。

Yasui said that as Kmentt expects that the meeting will set a 10-year deadline for the destruction of nuclear weapons, his remarks at the World Conference will draw much international attention.

 「much international attention」、「相当な国際的注目」ですから、「これは!」と思ったわけですね。日本語記事ではこの重大さのニュアンスがありませんでした。安井さんは「2021年世界大会の特徴と魅力」を語るインタビューで、真っ先にこのクメント大使の発言について言及しており、いわばこの大会の最大の目玉といっても過言ではないだろうなと思いました。

 もしこの安井インタビューの英文記事を読んでいなければ、漫然と発言を聞くだけになっただろうと冷や汗が出ます。

 

締約国会議とは何か

 なお、「第1回締約国会議(the first meeting of States Parties to the TPNW slated for January 2022)」とは何かをと言いますと、核兵器禁止条約第8条2に定められた会議です。

2、第1回締約国会議は、この条約が効力を生じた後、1年以内に国連事務総長によって招集される。

 同条で、この会議の任務は

締約国は、関連条項に従って、次の事項を含む、この条約の適用または履行に関するあらゆる問題、および核軍縮のためのさらなる措置について検討し、および必要な場合には決定を行うために、定期的に会合する。

  • (a)この条約の履行と現状
  • (b)この条約への追加議定書を含め、核兵器計画の検証され、時限を切った、不可逆な廃棄のための措置
  • (c)この条約の条項に準拠および整合する他のあらゆる問題

というものです。

 そしてこの同条5には次のような定めがあります。

5、この条約の締約国ではない国、ならびに国連の関連組織、その他の関連国際組織または機関、地域的組織、赤十字国際委員会国際赤十字・赤新月社連盟および関連の非政府組織は、締約国会議と検討会議にオブザーバーとして参加するよう招請される

 

クメント大使が求めたのは「全ての国の参加による非人道性の議論」

 この会議で、クメント大使は「10年」という廃絶期限を切るのではないか、などの注目が集まっているわけです。その議長予定候補としてのクメント大使が、世界大会でどんな発言をするのか? と思って注目しました。

 すると、彼は「10年期限」などおくびにも出しませんでした。

 代わりに、彼が強調したのは次の点でした。

私たちは第1回締約国会議で、核兵器の人道的結末とリスクへの認識を再び高めるような強力な政治的メッセージを発信したいと思っています。この会議は、各国政府と市民社会が禁止条約の人道的な理論的根拠の重要性を強調する機会となるでしょう。すべての政府と市民社会の参加が必要です。それが条約に対する支持の広がりと危険で間違った核兵器依存からの離脱に対する圧力の大きさを示すことになるからです。

 なんと第1回締約国会議の中心点は「核兵器の人道的結末とリスクへの認識」だというのです。「人道的結末とリスクへの認識」、つまり核兵器の非人道性を合意にし、それを「高める」ような会議にしようということです。

 核兵器の非人道性は、核保有国や核の傘依存国を含め全ての国が共通認識を持ちうる、重要なポイントです。「核兵器を持つかどうか、どんな政策を取るかどうかは、いろいろ意見があるけども、核兵器を使うとが非人道的な結果をまねくことは間違いないよね?」という議論が成り立つからです。

 昔は“核兵器を使ってもそれほど大したことはない”、“だから米国が原爆を落としたこともそれほどの罪ではない”とされてきたのですが、被爆者の訴えを始め被爆の実相が明らかになるにつれて国際的に「核兵器を使うことは非人道的である」という共通認識が作られてきたのです。

 核兵器を使えば非人道的結果をもたらすことは合意するが、使うこと自体や保有自体はそれとは区別されていますから、核保有政策を続けることは理論上は可能です。しかし、使えば非人道的だと認めてしまえば、使用や保有は相当厳しくなります。つまり非人道性の議論は、核の使用・保有を覆す重要な入り口になるのです。

 クメント大使は、この点を第1回締約国会議の焦点にしようとしているのです。彼はこう続けました。

国連事務総長すべての国家の参加を招請しました。禁止条約締約国は、現在この条約を支持していない国の参加を歓迎しています。私たちは、未だに禁止条約に懐疑的で、核抑止力にしがみついている国々の関与を必要としています。もちろん各国は、少なくとも短期的には、禁止条約に加盟したくないと主張することもできます。しかし、禁止条約の基礎である人道性の深い議論に加わらないという理由や言い訳はありえません。

 まさに「人道性」の議論を入り口にして、核保有国をはじめとする非加盟国の参加を広げようとしているのです。ここがクメント大使の戦略の非常に重要な点だと思いました。

 そうです。

 本当は、日本をはじめ現在加盟していない国が加盟して参加するのが一番いいのです。

 しかし、クメント大使は、来年1月に会議が開催されるという時間を考慮して、条約8条5を活用し、オブザーバーであっても全ての国が参加することを最も重視したのです。

私は、禁止条約を支持していない国の多くが、ウィーンの第1回締約国会議にオブザーバーとして参加することを期待しています。中でも日本のオブザーバー参加に期待します。

 

自民党公明党を含めて超党派でできる可能性がある

 私は、8月6日付の「赤旗」で政党討論の報道を読んだ時、共産・社民・れいわが条約加盟を訴えたのに対して、立憲民主党・国民民主党が条約参加に背を向けている*1ことにがっかりしたものです。

 ただ、「オブザーバー参加」という点では、自民党公明党を含めて足並みが揃う可能性が出てきました。

www.jiji.com

 加盟して参加することを引き続き求めるべきですが、オブザーバーであってもいいので、とにかく超党派で第1回締約国会議への参加をして、人道性の議論を深める――ここに今の問題の焦点があると思いました。

 クメント大使は、世界大会でわざわざこう発言しました。

禁止条約のとても重要な要素の一つである、被害者への支援と環境の回復という積極的な義務は、第一回締約国会議の焦点の一つとなります。被爆者はこの問題を禁止条約の重要な要素にするうえで決定的な役割を果たしました。

 「これが日本がオブザーバー参加して発揮してほしい役どころ」というガイドまでしてくれているのです。

 と言いますか、菅首相は、近頃「黒い雨訴訟」で上告を断念し、そのことを「成果」として誇っています。だから8月6日の広島市の原爆死没者慰霊式・平和祈念式あいさつで彼はこのことを誇ったわけでしょう。つまりクメント大使は暗に、“菅首相が締約国会議に来て、大いに黒い雨訴訟での英断を訴えてほしい”と誘い出しているわけです。

 ただし、菅首相は「あいさつ」で肝心の「非人道性」についての言及は1か所すっ飛ばしてしまったわけですが……(リンクしてある官邸ホームページのテキストは菅首相が読み飛ばしてしまった部分が「復元」されていますけど)。

 

 だとすれば、福岡市議会は国に対して、締約国会議への参加を促すようにすべきですし、もちろん髙島宗一郎・福岡市長も、平和首長会議の一員として国に求めるべきでしょう。ここに今自治体で党派を超えて取り組むべき焦点があると思いました。

 

韓国の運動の発言を聞いて

 ところで、安井事務局長が今年の世界大会での注目ポイントとしてあげていた点で、核保有国および核の傘依存国における反核運動でした。

 その中で、韓国の「SPARK」という運動団体のパク・ハヨンさんの発言に注目しました。韓国は日本と同じく核の傘依存国であり、条約に参加していない国です。そこでの運動や世論がどうなっているのか。

 パクさんは次のように表現しました。

日本と韓国はこの地球上で、最も多くの被爆者を出した国です。

 私は原爆について描いたこうの史代さんのマンガ『夕凪の街、桜の国』が韓国で出版されるにあたり「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だったが、これはあのとき、犠牲になった人々の苦痛と悲しみについての物語である」という「まえがき」がつくという話を聞いたことがあります。

原爆で被爆した女性の戦後を描いた漫画「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」が今秋、韓国で翻訳出版される。韓国語版には「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だった」との、日本語版にはない文章が盛り込まれる。……

 同社は初版3500部の出版を決定。韓国国内の読者に配慮し、「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だったが、これはあのとき、犠牲になった人々の苦痛と悲しみについての物語である」との前書きを付けることにした。

 原爆被害に関する書籍が、韓国で翻訳出版された例は少ない。韓国出版研究所(ソウル)の白源根(ペクウォングン)研究部長は「加害者である日本人が原爆被害を言うこと自体に違和感が強く、出版社は日本人の考えを代弁しているように受け止められることを警戒しているからだ」と話し、今回の出版後の反応を注視する。(朝日新聞2005年10月14日付夕刊)

 

 仮に、2005年にこのような世論状況だったとすれば、2021年のいま、「日本と韓国はこの地球上で、最も多くの被爆者を出した国」という認識をもって、そこの国の市民運動

韓国の原爆被害者と私たちSPARKは、2019年にソウルで開かれた非核・平和のための日韓国際フォーラムを契機に、アメリカの原爆投下の責任を問う市民法廷を準備しています。

という運動を展開しているのは、感無量です。

 日本軍「慰安婦」問題も、「反日」という文脈ではなく、「人間の尊厳の蹂躙の告発」としてとらえ、どこの国の軍隊のやったことであろうと戦時の性暴力を告発できる力を市民運動が持つべきだろうと思います。

*1:ウェブ版ではこの部分の報道はなく、紙面では報道されている。