松尾匡さん(立命館大学経済学部教授、『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』の著者)からの私の政策へのコメント

 松尾匡さんから私の政策へのコメントをいただきました。

 松尾さんは、立命館大学経済学部教授(理論経済学)です。福岡県にある久留米大学の教授もされたことがあります。ブレイディみかこさん、北田暁大さんとの共著『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』(亜紀書房)で有名な経済学者です(私も熱心に読ませていただきました)。

 松尾さんは、左派の経済政策についてしばしば意見(辛口なものも含む)を述べ、逆にアベノミクスのうち金融緩和について「一定の評価はしなければならない」とはっきりおっしゃっている方で、政策的にオリジナルでユニークなスタンスの方です。

 その方から、私の政策について客観的な視点でのコメントをいただけることは大変光栄なことだと思っています。以下全文を紹介します。(見出しは私がつけました)

 

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 統一地方選挙の半年前のこの時期に福岡市長選挙があり、かみや貴行さんが立候補してくれたことは、全国にとってとてもラッキーなことだったと思います。

反緊縮の世界的・全国的な新しい流れ

 アメリ中間選挙ではサンダースさんやオカシオコルテスさんが圧勝しました。沖縄では玉城デニーさんが圧勝しました。京都府知事選挙では、国政政党としては共産党だけが推薦する候補が予想を裏切る健闘で相乗り候補に迫りました。共通しているのはみんな、庶民の暮らしを豊かにする前向きの経済政策を強く打ち出していることです。


 長年の新自由主義と経済停滞で疲弊して、憤る庶民にとって、それこそが最も望むことだったわけです。なのに、バブル崩壊後これまでのリベラル派や左派の清貧を説くようなイメージでは、安倍さんやトランプさんにお株を奪われるだけでした。それに気づいて、もっと庶民のためにおカネをたくさん使って、草の根から経済を盛り上げる「反緊縮」の政治を目指したい——そう志す人たちが、今、全国各地で現れ始めている。私にはそう感じられます。

 

かみやさんの公約はその格好のお手本だ

 ラッキーと言ったのは、その人たちにとって、かみやさんの公約は、格好のお手本になると思うわけです。地元の庶民の抱える暮らしの問題を具体的に掘り起こし、堅実な政策を積み上げて、働く人々や中小企業の懐を温めて経済を底上げさせることを目指しています。対する現職市長の経済政策が、巨費を費やしながら地元経済を潤すことなく、99%のための支出をケチってごく一部の人だけをもうけさせるものだということを批判して、そんなものにまわすカネがあれば、庶民のための公約は実現できることを、数字をあげて示しています。


 全国の立候補予定者は、ぜひこの公約を検討し、採用できるものはどんどん取り入れたらいいと思います。何より、地元の様々な問題や制度に、具体的な数字をともなって精通する姿勢こそ、学ぶべきことだと思います。

 

防災問題をもっと強調を

 ひとつ、これを強調したらもっといけると思うことは、今、天災が相次いでいて防災関連にはみんな敏感になっているはずなので、そこを突くことです。海岸べりの開発は災害に脆弱でしょうし、なによりロープウェイはその点弱すぎです。どこか実際に営業しているところに問い合わせれば、風速何メートルで止めるのか、去年、今年は何日止まったかがわかると思います。九大跡地の問題も含め、現職市長が防災に消極的との印象を宣伝できればいいと思います。それに対して、かみや公約のブロック塀撤去補助で地元経済を活性化する防災政策アイデアは感心しました。全国に広まれるべきだと思います。

 

架空討論は面白すぎる

 あと、かみやさんのブログで、現職市長側の政策を検討している「架空討論」はおもしろすぎます。市長も逃げてないで、本当に実現すればいいのに。

架空討論(5)市営住宅建設は「いかがなものか」?

 引き続き、高島市長の記者会見をもとにした架空討論会を勝手にやってます。

 今回は、市営住宅や家賃補助のことですね。

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 はいはい。出ましたね。

 私の方が問題を投げかけている分野です。

 市長はどういっているか。

―対立陣営からは公営住宅などセーフティーネットをもう少し強化していいんじゃないか、という指摘もある―

 高齢社会に向かってどのように高齢者の住宅を確保していくのか。入院から在宅へという流れの中で、地域で安心して暮らしていけるのかという課題は、日本全体にとって非常に大きな課題だと認識しています。人口が減っていく街であっても、増えていく街であっても、問題は変わらないと思うんです。

 そのうえで福岡市はどういう事に取り組んでいるかというと、一つは民間の賃貸住宅などを借りていく。福岡は新築志向が非常に強い土地ですので、意外と、築何年の住宅が空きがあったりという事もある訳です。

 こうした空き部屋を活用していくのは非常に大事で。こうしたアセット(資産)があるにもかかわらず、市が別の形で住宅を建築するのは、行政の最適化からしてもいかがなものか。

 民間の皆さんにとって、どういう形であれば、例えば低所得者の方とか、高齢者の方を受け入れやすいのか。やはり保証の仕組みが大事になってくる訳です。ですから、福岡市社協と一緒になって、民間の皆さんと、高齢者が住み替えを促進できるような協定を結んだり。そういうかなり先進的な取り組みをしてきている。

  昔は賃貸→持ち家という「はしご」を登らせるように政策誘導がありました。

 結婚して家族ができ持ち家を持って「一人前」だとするような風潮。

 こういう政策イデオロギーはそのままで、お年寄りになっても、ずっと賃貸に住んでいる人は結構増えてきたんですよね。

 そうなるとパートナーが死んだり離婚したりして、一人暮らしになって、年金が1人分しかなくて非常に苦しくなってきます。

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 しかし、一人暮らしできるようなアパートが今度は見つかりません。

 昔は古い木造賃貸アパート、いわゆる「木賃」があったんですが、どんどんなくなっている。新しいアパートは家賃も高いのです。

 そして、大家が入れたがらない。

 だから、国も住宅セーフティネット法を作って、そういう住宅の確保に「要配慮」をしなきゃいけない高齢者などをなんとかマッチングさせて住宅を確保しようとしています。

 

民間頼みではうまくいかない

 しかし、民間だのみではどうなるのか。

 このセーフティネット住宅に登録してくれる住宅がものすごく少ない。

 2018年11月現在で福岡市ではゼロです。

 市長の宣伝とは裏腹に全く機能していないんですね。そういう現実を市長は見ていないと思います。

 

 福岡市の住宅審議会が開かれていて、第4回(2018年8月23日)の議事録が興味深い。登録が全然進んでいないことについて、当の大家さんたちの利害を代表する団体(宅建協会)はどう考えているかが書かれています。「委員」が宅建協会の人ですね。

http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/30913/1/01giziroku_04.pdf?20181011160140

●副会長:私たちはフォローが必要な人達の観点で議論していますが、セーフティネット住宅として住宅を提供していただくことが前提となっています。宅建協会でこの議論についてどのように考えておられるのでしょうか。もっと考えるべき点を出していただいた方がいいのではないでしょうか。セーフティネット住宅の登録がなかったということになると、根底が崩れてしまうと思います。

●委員:よくわかります。貸す側になって考えた場合、どのような方に貸したいかということが重要です。耐震改修や間取り変更にどれだけお金が必要でしょうか。それだけの金額はなかなか取り返せません。そこまでして貸す必要はないと考える大家さんもかなりいると思います。さらに、居住者が亡くなった場合の心理的瑕疵の問題がありますので、前回申し上げました通り、居住者の死亡に関する報告義務の期間を定めるなど、その辺を明確にしていただきたいと思います。……

●副会長:……宅建協会の中でもセーフティネット住宅の取り組みについて是非とも議論していただいて、意見をまとめていただいてはいかがでしょうか。国も推奨しており、市としても住宅に困窮しておられる方の救済策として、一所懸命取り組もうとしている問題です。

●委員:ご意見はわかりますが、非常に難しい問題であります。入居者に対して経過の報告を(ママ)が必要になりますし、大家の説得が必要になることも考えられます。我々も大家の立場で住宅をお貸ししています。そこに法的な問題を入れてこられると、にっちもさっちも動けなくなってしまう恐れがあり、そこについてはご理解いただけないかと思います。

 

 要するに大家としては、慈善事業ではないのでリスクはとれない。福祉的な事業を大家の善意でやるのは限界がある、と言っているわけです。

 それで現に登録がゼロなわけですから、民間任せ・民間頼みでマッチングをしていてもダメなわけです。

 じゃあ、市営住宅を新しく作るか、もしくは市が民間アパートを借り上げて市営住宅のようにして安く高齢者を入居させるしかないわけですよ。

 ロープウエーとか作っている場合じゃない。

 

 セーフティネット登録だけに頼っているやり方だと、家賃補助も始まって行きません。

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 高島市長の反論をお待ちしています。(このオチ、書いていてだんだん虚しい)

 

松竹伸幸(ジャーナリスト/「自衛隊を活かす会」事務局長)さんからの推薦の言葉(下)

 前回の記事に続いて松竹伸幸(ジャーナリスト/「自衛隊を活かす会」事務局長)さんから、メッセージとは別に、10月の要請集会で推薦の言葉を紹介します。(すでに松竹さんのブログには掲載されていますが、あらためてご本人の許可を得て転載いたします。)

 

 ちなみにここに書いてある「昭和天皇の顔をした人」は井下弁護士もおっしゃっています……。そんなに似てます?

 

編集長の冒険 » 福岡市長選挙で神谷貴行氏を応援する・下

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 これまで紹介してきた神谷さんの考え方、人となりというのは、政治家にとって欠かせないものだと思います。


 政治家というのは、とりわけ自治体の首長をはじめ行政の代表というのは、特定の政策、イデオロギーを持つ国民(市民)の代表ではありません。すべての市民、国民の代表です。


 安倍首相が秋葉原の演説で、自分に反対する人たちを指して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と悪罵を投げかけたことは記憶に新しいでしょう。この演説が違和感を抱かせるのは、総理大臣というのが、ただ自民党支持者の代表というのではなく、擬制ではあっても、やはり国民の代表だからです。自分個人の政策、イデオロギー自民党のものであっても、他の考え方、イデオロギーの人も含む国民全体の代表として、そういう方々へのリスペクトが必要だからです。


 そういう政治家としての資質は、自民党の総理大臣に必要というだけではなく、左翼や共産党の政治家にも同じように不可欠です。その点で紙屋さんは、護憲という理想で揺るがないのだけれど、侵略にたいする反撃は必要だという現実感覚を持っていて、自衛隊に対するリスペクトもあります。ネット右翼だからとって排撃するのではなく、そこに近づいていって共感できる部分を見つけだす気持ちも持っています。理論的に深いものを持っているけれど、それをマンガで分かりやすく表現する力もあります。


 要するに、神谷さんというのは、安倍さんと対極にあって、福岡市民の代表として不可欠な資質の人だということです。本日出されたみなさん方の要望には真剣に向き合ってくれるでしょうけれど、それだけではなく、ここに参加していない方々、こういう集まりに違和感を持つ方々とも対話し、市民の代表として行動できる人だということです。


 福岡から出た政治家の一人に、自民党幹事長を務めた古賀誠さんがいます。その古賀さんが運輸大臣の時、共産党の国会議員の紹介で、東京の新日本婦人の会の方が陳情のために大臣室に行きました。私はそこに同席していたのですが、古賀さんは、要望を真摯に聞いてくれるだけではなく、同時に、その共産党議員のことをあれこれ事例をあげて褒めあげるのです。それで新婦人の方は、支持政党は変わらなかったでしょうが、いっぺんに古賀さんのファンにもなったと思います。自民党というのはこうやって支持者を増やしているんだと理解できました。先日、古賀さんと別件でお会いしたとき、「あれはおべんちゃらのようなものだったのですよね」と尋ねたら、「いやいや本気でしたよ」と言っておられました。


 政治家というのはそうでなくてはいけないと思います。神谷さんならそういう市長になれます。


 最後に一つ。私が神谷さんに最初にお会いしたのは、『理論劇画 マルクス資本論」』を出したあと、京都に講演会のためにお呼びしたときでした。その頃、私はまだ東京事務所で仕事をしていて、そこに出入りしていた神谷さんのお友だちに対して、「神谷さんにはじめて会うんだよ」と言ったら、こういうんです。「松竹さん、待ち合わせ場所が混雑していても、絶対に間違いませんよ」。「なぜ?」と聞くと、「だって、昭和天皇の顔をした人が歩いていたら、それが神谷さんですから」。


 神谷さんは、考え方が市民の代表というだけではなく、風貌まで国民統合の象徴のような方なのですね。頑張ってください。

架空討論(4)箱崎キャンパス跡地での「自動運転車」実験のこと

 引き続き、高島市長の記者会見をもとにした架空討論会を勝手にやってます。まだやるんかい、と思うかもしれませんが、やります。いやぁ、私くらい高島市長の記者会見をこんなに熱心に読んでいる人は他にいないんじゃないですか? 1位が高島さん、2位が書き起こした記者、そして3位が私。

 

 今回は、箱崎キャンパスでのいろんな実証実験の話ですね。

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 それと、もう一つが九州大学箱崎キャンパスの跡地というフィールドがある事なんです。既存の市街地の中に、新しいサービス、テクノロジーを導入していくのは、住民合意も含めて非常にハードルがあるんです。箱崎キャンパス跡地は、ちょうど移転が完了したばかり。来年の公募前のこの1年間に、たくさんの実証実験を行って、その次の年の公募につなげていきたいと思っているんです。

 そのためには、自動運転、センサー(を使って)の見守り、シェアリング。人の乗る自動運転もあれば、荷物を運ぶ自動運転もある訳です。これは来年実際に行う事が決まっているんです。さまざまな実証実験を行ううえで、福岡が国家戦略特区に選ばれているという事が、非常に大きなインセンティブです。福岡のイニシアティブでもってチャレンジができる。で、うまくいけばその成果を日本全体に還元する事もできる。

技術革新は素晴らしいこと

  私も見守りセンサーや自動運転車のような技術革新は非常にいいなと思ってます。

 っていうか、私がついこの前町内会長さんたちの前で話したことなんですよ。

 町内会長さんたちは見守りをやっているんだけど「それに参加してくれる人がいなくてもう大変」とか。

 あるいは、市から車を借りてボランティアでバスを運転している。お年寄りの移動支援のためにね。事故を起こさないように必死です。

 そんな時、もし見守りセンサーや自動運転車のような技術革新があればこういう町内会のお悩みも一気に解決してしまうんです。

 素晴らしいですよね。

 

イノベーションを無邪気に喜んでいるわけにはいかない

 しかし、政治家はそういうイノベーションをただ無邪気に喜んでいるわけにはいかないという問題もあるんです。

 今後AI(人工知能)やIT(情報技術)が発達し、もうけ本位に使われれば、大量の失業さえ生まれかねません。

 長い目でこの都市問題に対応するのが市政の仕事です。

 もし自動運転者ができれば、さっき述べたような「高齢者ばかりになってバス便がなくなった地域の問題」は「解決」されるでしょうが、同時にそれは運転手の仕事が失われる瞬間です。

 技術はそれを誰がどう握るかこそが問題のカナメです。市長の仕事は、ナイーブにただ大企業の儲け仕事を後押ししてやることではありません。それを政治・社会の側から問題を浮き彫りにして、対応する知恵をだし、政策にしていくことこそ必要です。

 だからこそ、私は「福岡式ベーシックインカム」を提案し、全ての人に「健康で文化的な最低限度の生活保障」をする社会への切り替えを訴えました。その第一歩が家賃補助・市営住宅の増設、そして暮らしへの直接支援です。

 

箱崎キャンパス跡地は防災公園にというのが住民のもとの要望だが

 そして、箱崎キャンパス跡地については、もともと地元の4校区協議会が出した構想は全体を一つの防災公園にするという構想でした。

 

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 ところが、その「全体を一つにした防災公園」という考えは、どっかいっちゃった

 財界などが協議会に入り込んできて、ゆがんできています。今の構想では、部分的に公園が入ったり、中に入る商業施設と「防災協定を結ぶ」みたいな話になったりしてしまっています。

 そもそも自動運転車を走らせるとかスマートイーストという話自体が住民が望んでいたことなのか――そういう疑問が私にはあります。

 もともとの4校区提案は、地元の自治会などがかなり努力して、住民に広く聞いて承認された唯一のものです。その努力のプロセスを私はよく知っています。

 それなのにそれが置き去りにされて市長や財界の思惑で勝手に進んでいないかなと危惧しています。

 現に、今でも住民からは集会で「元の提案通り防災拠点・防災公園にしてほしい」という要望を私は聞いています。だとしたら、やはりもっと徹底した住民の要望を聞き直す形をとるべきではないでしょうか。

 私は、公約のプロジェクト4で住民討論会や住民意向調査、そして住民投票をもっと活用すべきだと呼びかけています。

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 高島市長の反論をお待ちしています。なかなかきませんが。

松竹伸幸(ジャーナリスト/「自衛隊を活かす会」事務局長)さんからの推薦の言葉(上)

 松竹伸幸(ジャーナリスト/「自衛隊を活かす会」事務局長)さんから、メッセージとは別に、10月の要請集会で推薦の言葉をいただいています。それを紹介します。

 すでに松竹さんのブログには掲載されていますが、あらためてご本人の許可を得て転載いたします。

編集長の冒険 » 福岡市長選挙で神谷貴行氏を応援する・上

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 10月5日、福岡市長選挙に神谷貴行さん(共産党福岡市議団事務局長)が立候補することを表明しました。その2日前の3日、神谷さんに立候補を要請する集会があって、共産党福岡市議団などでつくる市民団体「市民が主人公の福岡市をめざす市民の会」が主催だったのですが、そこから何と私に参加依頼があったので、福岡まで行って応援演説のようなものをしてきました。以下、その演説の要旨です(上下2回)。


 神谷さんのことをはじめて知ったのは15年前です。私が『前衛』という共産党の月刊誌に書いた有事法制反対の論文を、自分のブログに全文掲載したいというメールがあった時でした。そのブログを見ると、神谷さんがなぜこれを全文掲載したかという「まえがき」のようなものがあって、「自分の考えと近いからだ」と書いていました。当時、平和勢力のなかでは有事法制全面否定の議論が主流だったのですが、私は、「いくら何でも日本が侵略された時の法制は否定してはならない」という考えを持っていて、「しかし、提出されている法制は、そういうものとはほど遠い」という立場で寄稿したのです。そこに共感してくれたのだと思います。その後の私は、護憲派にも防衛戦略が必要だと感じて『憲法九条の軍事戦略』を書いたり、元防衛官僚の柳澤協二さんを代表にして「自衛隊を活かす会」をつくったりしましたが、その度に、紙屋さんは応援のエールを送ってくれました。


 ブログ以外ではじめて神谷さんの文章に接したのは、若者向けの超左翼マガジン『ロスジェネ』をつくったときです。その創刊号に神谷さんの寄稿があって、それは何と、「ネット右翼に会いに行った」という内容のものでした。普通、左翼というのは、ネット右翼と聞くと、良くてもただ反論する対象だと思う程度で、実際には何を言っているか読みもしないというのが現実でしょう。ところが神谷さんはそういう人に会いに行って、よく話し合って、もちろん右翼的な考え方をしているわけだが、現実の生活は貧困なもので、それをなんとかしたいと考えていることをつかんできた。そして、そういう貧困を生み出している自民党政治を正すため、右も左も手を結ぼうよという趣旨で書いていたのです。


 神谷さんに最初に書いてもらった本は、『理論劇画 マルクス資本論」』です。当時、その貧困が大問題になり初めで、小林多喜二の『蟹工船』がバカ売れして、左右を問わず出版社は、「この次に読者が求めるのは何か」を追い求めていました。一つの共通の結論は、「きっと貧困の原因はどこにあるのか」というところに関心が向かうだろうというもので、「それは『資本論』だ」と多くの人が思ったのです。実際、雨後の竹の子のように関連の本が出されました。私も同じ考えでしたが、ただの解説書ではダメだろうと思い、神谷さんに相談したら、「劇画でやりましょう」ということになったのです。爆発的に売れました(他社の本はあまり売れませんでした。たぶん)。この本、分かりやすいのは当然なのですが、関西在住のある経済学者から、『資本論』第一巻の神髄である剰余価値について、「他のどの本よりも深い」という評価を頂きました。(続)

PoliPoliのアプリでの質問へのご回答

 PoliPoliというITベンチャーがつくったアプリで福岡市長選挙について議論する場ができています。そこで屋台問題についての質問がありましたので、お答えしておきます。「市長候補としての私の意見」、「共産党市議団事務局の一人としての私の意見」がわかりにくいという意見がありましたので、できるだけわかりやすいように書いてみたつもりです。

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架空討論(3)「福岡からユニコーン目指す」?

 引き続き、高島市長の記者会見をもとにした架空討論会を勝手にやってます。今回は高島市長の得意分野、スタートアップについてですね!

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―これまでのスタートアップ(創業)支援の取り組みの評価と、どのように市全体に還元していきたいか。関連して国家戦略特区も使っている。「アベノミクスの実験場」などと言われるが、政権との関わり、特区の活用について今後どう考えているか―

 新しいサービスやビジネスを福岡から生み出していこうという事が、狭い意味でのスタートアップです。その心は、リスクを取ってチャレンジする人が評価される、そんな社会を作っていこう、そんな日本を作っていこう。そのためにそんな福岡をつくっていこうという事なんです。

 これまで、スタートアップカフェをはじめ、さまざまな施策を組み合わせて、ムーブメントをつくっていく取り組みをして、スタートアップのすそ野は相当に広がりました。

 開業率の日本一。福岡市は今は開業率7%台。そういう意味では開業のすそ野が広がって、ビジネスをスタートするなら福岡市、という機運が広がってきたと思います。

 例えば「資金調達に成功するという所が現れた」という事がニュースになっていたのが、段々もう当たり前になってきて。資金調達はみんな、するようになってきた。全体としてステージが上がってきていると思うんですね。

 でも、最終的には福岡からユニコーン(評価額が10億ドル以上と見込まれる非上場のベンチャー企業を出していく事が、目指すところです。一足飛びには難しいかもしれませんが、一つ一つのチャレンジ、ピュンと飛び抜けたロールモデルが出てくる事によって、全体が引き上げられるというような効果があるんですね。まさにその半ばではありますが、確実に着実にムーブメントは出てきていると感じています。

 スタートアップがどのように成長するかという手段の中で、グローバルとスケールアップというのがあるんです。グローバルというのは、福岡市は今、海外10カ国14拠点かな? スタートアップの(連携に関する)MOU(覚書)を結んで、都市のスタートアップのブースを市として出して、そこに福岡のスタートアップ企業の皆さんをどんどん出していく形で、グローバル展開は進めています。

スタートアップ支援自体は大切

 私、記者会見で市長のスタートアップ支援について問われて「スタートアップ支援だけはいいなと思います」とお答えしたんです。

 大きく見て、起業するような人たち、それを支えるような人たちが集まってかたまり(クラスタ)を作るようになることが行政としてスタートアップ支援をする上では大事なのかなと思っています。

 そういう意味では確かに高島市長になって「福岡市がスタートアップをする人たちが集まっている地方都市」というイメージは一定できてきたと思います。

 しかし三戸政和さん(株式会社日本創生投資 代表取締役CEO)は

ベンチャーキャピタル(VC)の業界にも、「千三つ」という言葉は当てはまります。文字通り、1000社のベンチャーに投資検討して、そのうち投資が実行され、さらには上場できるまでになるのは3社程度しかない、といわれます。つまり、新たに起業する会社のうち、大きく成功するのは0.3%しかないということです。*1

と言ってます。「死屍累々」(p.49)だとも。三戸さんはゆえにサラリーマンに対して「『起業はやめなさい』と声を大にして言いたいのです」(同前)とまで言っています。

 ただ、私は市長としてそういうことを言いたいわけではありません

 

それでも、上場する企業があれば投資額は数十倍になって回収できます。1社が上場すればトントン、2社が上場すれば大成功、という世界なのです。確率論だけでいえば、ほとんど博打のようなものです。つまり、1億円を投資しても8割から9割が成功できない。それが起業の現実です。(三戸前掲p.58)

 うまくいけば、投資家から見ればそういうリターンが返ってくるわけですから。

 なるほど高島市長が「ユニコーン」(評価額が10億ドル以上と見込まれる非上場のベンチャー企業)を目指すというのはわかります。

 

それだけに資源を割いていていいのか

 だけど「ユニコーン」という名の通り、「噂には聞くけど誰も見たことがない」というほどの稀少なものです。支援は大切だけど、そこにそんなにリソースを割くのかな、というのが正直なところです。

 率直に言って、政策資源を割きすぎじゃないかと思います。

 

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 福岡市には地元に根付いて、活躍している地場の中小企業がたくさんあります。

 その6割が後継者不足に悩んでいます。

 これは地場中小企業の大きな悩みの一つです。

 このような事業承継をどう支援するのか。

 市も連携している福岡県の福岡県事業引継ぎ支援センターがあるんですが、相談が年200件ほど、成約はその10分の1です。まだまだ支援が足りないんじゃないかと私は思います。

 こういうところに、もっと支援をしてはどうか。

 それこそ、大企業のサラリーマンを退職・転職したような人が、こうした後継者不足に悩む地場の中小企業で数年一緒に働いてみて、事業を引き継ぐようなマッチングだってあるんじゃないでしょうか。

 市政がスタートアップ支援をしてきたことの「良さ」は私は認めましょう。

 だけどそこに力を割きすぎていて、地場で活躍している中小企業への支援が薄いと私は感じています。

 特に、その6割を占める小規模企業への支援。

 例えば、市が地場の小規模企業にどれくらい仕事を発注しているのか、福岡市はデータさえもとっていません。真面目に支援しようという気がないんだろうなと思います。新しく作られた中小企業振興条例では第14条で

市は、中小企業の振興に関する施策を講じるに当たっては、経営資源の確保が特に困難であることが多い小規模企業者(法第2条第5項の小規模企業者であって、市内に事務所又は事業所を有するものをいう。)の事情に配慮するよう努めるものとする。

とまで定めているのにですよ。

 

スタートアップの際に問題になることを正す

 それと、スタートアップ企業にありがちな問題を、公正を旨とする行政としてきちんと正す必要があります。

 それは、「友達感覚」で始まるベンチャーは、ブラック職場になる恐れがあるという問題です。しっかりした労使の雇用関係を築きにくい。

 高島市長が安倍政権と一体になって始めた国家戦略特区メニューの一つ、「雇用労働相談センター」では解雇指南ともいうべきセミナーまでやっています。

 共産党が市議会でこの問題を追及しています。

www.jcp-fukuoka.jp

福岡市が「国家戦略特区」に指定され、厚生労働省の委託事業である「雇用労働相談センター」が開設されていますが、昨年12月に開かれたセミナーでは、代表弁護士による講演で「日頃から人事考課で2と1をつけよ。いきなり2や1をつけるのはダメ」「退職勧奨や指名解雇という手もある。高度なノウハウ。センターに相談を。辞めていただくうまい方法を相談して見つける」「契約に『解雇したらこれくらいのお金を払う』と書いておけば、弁護士も『しょうがないね』ということになる」など経営者向けに「解雇指南」「脱法指南」というべきものがされていたことを追及しました。

 そしてさらに言えば、そういう「起業の街」だからこそブラック企業根絶条例が必要だと私は提起して来たんですが、高島市長は一貫して議会では条例制定の必要性を認めませんでした。

 だから、私は記者会見でも言いました。

「高島さんのスタートアップ支援はいいと思っているけど、他の問題が見えていなさすぎる。だからまあ、私が市長になったら、高島さんにはスタートアップ支援の課長にぜひ就任してもらいたいと思っています」

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 高島市長の反論をお待ちしています。

 

補足(2022年10月)

 最近読んだマンガで大変興味を惹かれたものです。スタートアップの醍醐味とともに、しかし引き受けるべき「つらさ」が簡潔に示されています。

togetter.com

 

*1:三戸『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』p.55