保守勢力との共通の土俵および社会変革のテコとしてのSDGs

 今さらながら…あなたはSDGs(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS:国連の持続可能な開発目標)を実際に詳しくお読みになったことはあるだろうか。

 多くの人は、きれいに彩られたゴールのロゴ(アイコン)くらいではないだろうか。

 もちろんGOALS(目標)そのものは、このロゴに書かれていることを読めばそれで目標を読んだことにはなる。

 しかしこの目標を具体化するために169の数値目標(ターゲット)が掲げられている。

imacocollabo.or.jp

 例えば、SDGsの目標(ゴール)1の「貧困をなくそう(あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ)」には7つのターゲットがある。

 その一つは例えば次のようなものだ。

1-2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。

 あるいはSDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう(国内および国家間の格差を是正する)」のターゲット10-1は次のようなものだ。

10-1 2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。

 お読みになって率直にあなたはどう思われただろうか。

 私は「これって本気でやったら、ものすごいことじゃないか…?」と思った。

 

 SDGsは17の目標があるが、そのトップに貧困の問題がきていることからもわかるように、その一丁目一番地が「貧困の根絶」なのである。

 ターゲット1-2(2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる)は要は相対的貧困率とか、子どもの貧困率、あるいは女性の貧困率などのことだ。

 これを半減させるというのである。

 

 日本の相対的貧困率は15%である。SDGsスタート時点の2015年でもだいたい同じくらいだ。

gooddo.jp

 それを半減するというわけだから7.5%にするということになる。

 現在のデンマークフィンランド程度にするということだ。

wedge.ismedia.jp

 これはなかなかすごいことではないだろうか?

 

 もう一つ紹介した、低所得者の所得の向上。

 例えば福岡市では、世帯全体のうち低所得に当たるのはちょうど年収300万円未満の世帯である。

 これは福岡市でどれくらいいるかといえば、なんと約40%。ピッタリである。

 福岡市はこの年収300万円未満の世帯を「低額所得世帯」として市の計画*1などで位置付けている。

 ちなみに、かつて厚労省は年収192万円未満を「ワーキングプア(働く貧困層)」とざっくり定義したことがあり、「年収200万円未満」を統計上「貧困層」ととりあえず見なしてもよかろう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ja05-att/2r9852000001ja67.pdf

 福岡市ではざっとこうなる。

 低所得世帯が42%。これは同じ政令市でも横浜市の倍いる。

 これはSDGsの10-1「2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる」というターゲットの「所得下位40%」に当たるのではないか?

 …と共産党(中山郁美市議)が福岡市議会で質問したところ(2024年6月15日)、市側もこれを認めた。

中山 (SDGsのゴール10にある)「所得下位40%」を本市の指標に当てはめると「年収300万円以下」が大体これに匹敵すると思いますが、確認させていただきたい。

総務企画局長 世帯の収入については、世帯構成などを勘案する必要があると考えておりますが、令和4年の就業構造基本調査によると、福岡市において世帯1年間の収入を表す世帯所得が300万未満の世帯の割合は39.1%となっており、おおむねお質しの通りでございます。

 SDGsではこの低所得層の所得向上を、平均世帯以上にスピードアップしろ、と要求している。

 こちらも本気でやったらすごいことだと思う。

 

 日本共産党綱領社会主義=「生産手段の社会化」によって「すべての人間の生活を向上させ、社会から貧困をなくす」ことを目標にしている。

生産手段の社会化は、人間による人間の搾取を廃止し、すべての人間の生活を向上させ、社会から貧困をなくす

 つまり健康で文化的な最低限度の生活をすべての人が保障されるようにしようということだ。

 もしもSDGsが実現したら、社会主義がめざすものへとストライドで近づくことになるとさえ言える。

 

 共産党は資本主義の矛盾の表れとして、気候危機と貧困・格差という二つの問題を綱領の中で記述している。

 気候危機を根本的に解決するためにIPCC気候変動に関する政府間パネル)の「1.5℃報告書」では社会のあらゆる側面において急速かつ広範な、前例のないシステム移行を求めている。

 共産党の綱領では

生産手段の社会化は、生産と経済の推進力を資本の利潤追求から社会および社会の構成員の物質的精神的な生活の発展に移し、経済の計画的な運営によって、くりかえしの不況を取り除き、環境破壊や社会的格差の拡大などへの有効な規制を可能にする。

とも書いていて、経済の合理的な規制を社会主義(生産手段の社会化)の目標にしている。

 もしも気候危機を打開し、貧困をなくすことができたら、資本主義がそのときどういう姿をしていようと、それは社会主義の大きな目標が実現したということになる。

 それくらいすごいことである。

 

 いま日本では政府も自治体も、SDGsSDGsだと大騒ぎして、SDGsバッジを胸につけている政治家や企業家は山のようにいる。

www.townnews.co.jp

 

 福岡市の高島宗一郎市長も市の最上位の計画である「総合計画」について、こう言っている。

総合計画の着実な推進によって、SDGsの達成に向けて取り組んでいるところである。(2022年3月23日条例予算特)

 なるほど、では日本政府も福岡市も、SDGsに沿って、貧困削減目標を定めてがんばっていることであろう、と思うかもしれない。

 

 ところがである。

 日本政府も福岡市も貧困の削減目標は掲げていない。*2

 福岡市に至っては、福岡市の相対的貧困率の現況を調べてさえもいないのである。

 

 今福岡市は新しい基本計画(第10次)を策定中である。

 SDGsのゴールが市長の素案には貼り付けてある。

 ところが、素案には、貧困の削減などは全く指標に入っていない。

 それどころか、これまであった客観的な数値目標は全て消えてしまい、主観的な市民意識の数値だけが目標にされてしまっている。

 共産党は「新計画でSDGsの達成をめざすなら、貧困の半減を指標にすべきではないか」と議会で要求したが、市側は取り入れようとしなかった。*3

 

 これでは、市の施策に取り組んだ結果、貧困が減ったのかどうかわからない。逆に増えているかもしれないのだ。

 SDGsの看板だけ掲げ、具体的な成果が問われる数値目標を全部外してしまう——これでは「SDGsウォッシュ」と言われても仕方がないのではないか。

 

 同時に、どの自治体であっても、本気でSDGsを追求するのであれば、それ自体が大きな社会変革のテコとなる。

 しかもSDGsは現在の保守勢力との間でも「共通の土俵」として一致しうる目標なのだ。「あなた方はSDGsを本気でやるつもりなら、貧困削減目標を掲げるべきではないのか?」とどの地方議会でも正面から迫っていくべきだろう。

*1:「福岡市住生活基本計画」2016年、p.11

*2:相対的貧困率は、高齢化が進めば、年金暮らし等で相対的に所得の低い高齢者層が増えることで高まることになります。このため、貧困を表す指標として、我が国の数値目標とすることにはなじまないと考えています」(岸田首相、2021年12月8日)

*3:総務企画局長は「基本計画と実施計画を一体に推進する」と答えた。実施計画の方で客観的な数値目標を扱うというのだ。しかし、そもそも素案は基本計画だけで、実施計画案は何も示されていない。「一体」というなら「一体」に示すべきだろう。しかも現在の実施計画には福岡市の貧困率の現状も削減目標も一切入っていない。それなのに「数値目標議論は実施計画の方でやってくれ」と言われても信用できるわけがないではないか。