能登半島地震で段ボールベッドが注目を浴びている。
被災地では時間を追うことに、過去の災害から積み上げてきた取り組みの成果も出始めている。/一つがエコノミークラス症候群やほこりの吸い込みを防ぐ効果が期待される段ボールベッドの活用だ。16年に国がまとめた「避難所運営ガイドライン」にも盛り込まれ、各自治体が備蓄を進めてきた。(日経2024年1月19日付)
根本〔昌宏北海道看護大学・寒冷地防災学〕教授は、18年の北海道胆振東部地震の時などの経験を踏まえ「板張りの床にブルーシートや毛布を敷いての雑魚寝は避けるべきだ」と指摘。短時間に大量生産できる段ボールベッドを活用すれば、低体温症やエコノミークラス症候群、感染症の予防にも役立てられるとして「自治体は備蓄も併せ、避難所開設と同時に設営できることが望ましい」と話している。(西日本2024年1月17日付)
では、福岡市では段ボールベッドの備蓄はあるだろうか?
2023年度の市のデータを見てみよう。
ない。
段ボールベッドの備蓄は全くないのである。
実は2020年9月9日に市議会で共産党(松尾りつ子市議=当時)がこの問題を追及している。
◯38番(松尾りつ子) 次に、段ボールベッドについてです。
段ボールベッドは一定のスペースを確保できるため、体を動かしやすく、床から30センチほどの高さがあり、過去の災害で多く見られた雑魚寝による窮屈な姿勢を続けることで起きるエコノミークラス症候群や寝たきりの予防につながります。また、コロナ禍の下で床付近に多いほこりやウイルスを避けることで、感染症対策にとっても重要だと指摘されています。
そこで、お尋ねしますが、避難者の健康維持や新型コロナの感染症対策をする上で避難所に段ボールベッドは欠かせないものだと思いますが、御所見をお伺いします。◯市民局長(下川祥二) 段ボールベッドにかかわらず、避難所でのベッドの活用につきましては、一定の高さがあるため、避難所の床に直接横たわるよりも体への負担やほこりを吸い込むリスクが少なく、新型コロナウイルスの感染対策にも有効と言われております。以上でございます。
◯38番(松尾りつ子) では、段ボールベッドをどのくらい備蓄しているのか、お尋ねします。
◯市民局長(下川祥二) 避難所のベッドにつきましては、キャンプ用の折り畳みベッドを備蓄しており、災害時に活用することといたしておりまして、段ボールベッドは保管スペースや保管方法等の課題もあり、現在備蓄しておりません。以上でございます。
必要性や重要性を認識しているけども、備蓄はないという。
それでいいのかい? と共産党議員が畳み掛けるのだが、市側はこう言い逃れようとする。
◯市民局長(下川祥二) 市からの物資提供等の支援要請に対しましては、災害時応援協定に基づき、折り畳みベッドや段ボールベッドなど必要な物資を可能な限り速やかに提供していただくこととしております。以上でございます。
要するに、災害になればホームセンターなんかと協定を結んでいるから大丈夫だ、というわけである。
ふうん。
じゃあ段ボールベッドがいくつぐらいホームセンターとやらにはあんの? 足りそうなの? と共産党議員が聞く。
◯38番(松尾りつ子) では、協定を結んでいるホームセンターには段ボールベッドの備蓄が実際どのくらいあるのか、答弁を求めます。
◯市民局長(下川祥二) 災害時応援協定につきましては、市からの支援要請に対しまして、可能な範囲で協力いただくこととなっておりますので、調達可能な数量は定めておりません。以上でございます。
いくつもらえるか決めていない。
「可能な範囲」つまり「できるだけ」もらう。
ホームセンターに1つしかなければ1つしか来ないのある。
したがって、いくつあるかも把握していない。
そんなの「ない」のと一緒じゃん。
◯38番(松尾りつ子) あれこれ言われますが、これも把握しておられません。それでは、いざというときに避難者に届きません。
応援の協定を結んでいる他の自治体や国経由で届くと思います、とさらに言い訳する市に対して、共産党議員はこういう実例を挙げて批判する。
◯38番(松尾りつ子) 本市と同じように備蓄を持っていなかった熊本県では、令和2年7月豪雨の際、政府のプッシュ型支援分を含め、県内10市町村向けに約2,100人分の段ボールベッドの確保ができたのは発災から10日以上たってからでした。また、昨年の九州北部豪雨では、佐賀県は福岡市にある南日本段ボール工業組合と協定を結んでいましたが、冠水の影響で交通規制がしかれ、福岡からの輸送が困難と判断し、被災地の近くで製造、輸送ができる業者を探すことになり、段ボールベッドが搬送されたのは発災から4日後でした。国からの支援、民間との防災協定だけでは、いざというときに間に合いません。
市側はほとんどコテンパである。
◯38番(松尾りつ子) お尋ねしますが、国や協定任せをやめて、市として段ボールベッドについても、十分な備蓄をしておくことが必要だと思いますが、御所見をお伺いします。
しかし、市は同じ答弁を繰り返すばかりだ。
◯市民局長(下川祥二) 避難所のベッドにつきましては、キャンプ用の折り畳みベッドを400基備蓄しており、段ボールベッド等につきましては、企業との災害時応援協定による提供のほか、国からのプッシュ型支援の一つとして提供されることとなっており、必要に応じて設置することといたしております。以上でございます。
折り畳みベッドが400あるというが、総人口15万人程度の能登半島の被災自治体で避難住民は最大でも3万人を超え、発災から20日たった今でも1.6万人が避難している。人口の1割だ。
その10倍以上の人口を擁する160万都市の福岡市では防災計画上の想定避難者数が2.5万人しかない。自宅で支援を必要とする待機者を合わせても3万人だ。「400」という数字は、仮にそれを利用するのが特定の高齢者だけだとしてもいかにも少ない数字ではなかろうか。
そして、能登半島地震でもやはり防災協定があったにもかかわらず、段ボールベッドが届かないというトラブルが起きた。
県は、災害時に「段ボールベッド」を提供してもらう協定を名古屋市の業界団体と結んでいた。だが、輪島市や珠洲市など被害の大きい6市町の指定避難所248か所には、発生から1週間がたっても、この団体からは供給されなかった。団体は「県の依頼で発送する取り決めだが、連絡がなかった」。県は「段ボールベッドの手配は国に依頼した」。協定通りに進まず、最近になって国から団体に要請があり、現地に届き始めた。
福岡市の髙島市政は、民間企業や他自治体との防災協定をたくさんすることで、重層的なフォローアップをするのではなく、公的な備蓄をしない口実にしている。
改めるべきだろう。