2022年市長選挙で集まり

 2022年11月に福岡市長選挙があります。

 昨日様々な立場の市民・団体のみなさんが福岡市内で集まって、「こんなふうに市政を変えたい」という意見交換をしました。午後6時から始まって午後9時にわたる大変熱心なものでした。50人くらいいらっしゃったかなあ。

 大きな政策の方向、これからの候補者を選ぶプロセスなどを話し合いました。

 私を推してくれた「市民が主人公の福岡市をめざす市民の会」だけでなく、政党も共産党以外にも複数の政党が参加しての、幅広いものでした。

 私も前の市長選挙候補者として参加・発言。

 「今度の選挙は私がたたかった時からさらに枠組みを思い切って広げて、市民と野党の共闘で新しい市政をつくりたい。そういう新しい枠組みにふさわしい候補者をぜひみなさんと選びたい」と申し上げました。

 

質問に答えて

 昨日、「市長選挙はどれくらい費用がかかるの?」という質問がありました。正確な数字がなかったので私は答えられませんでした。

 私の選挙の時の収支報告を載せておきます。

kamiyatakayuki.hatenadiary.jp

 また、供託金の額と没収の基準についてもお問い合わせがあり、これも正確に答えられませんでした。指定都市の市長選挙の供託金は240万円。没収基準は有効投票数÷10、つまり10%以上でした。(私が答えようとしたのは法定得票数つまり選挙で当選が認められるために必要な得票のことででした。これは25%必要です)

ロシアのウクライナ侵略を受けての憲法9条をめぐる世論調査

 ロシアのウクライナ侵略を受けての憲法への意識調査が出揃いました。

 ジャーナリストの松竹伸幸さんがこれについて書いていて、興味深く読みました。

ameblo.jp

 安全保障のこととか、関連して憲法九条のこととか、考えなければならないと思う人は顕著に増えているようです。当然のことですよね。周りでもそんな話はたくさん聞きます。
 
 けれども、じゃあ、その結果として9条を変えなければと結論づけた人は、そんなに増えているようには見えません。減ったという結果が出ている場合もあります(「共同」の場合、昨年と比べて、9条改正が必要だという人が51%から50%へ、不要だという人が45%から48%へ)。

 なぜなのか、という点について、松竹さんは次のように書いています。

 私の推測は、ウクライナ危機が起きたりして、改憲派がここぞとばかりに張り切ってしまったが故に、世論が警戒心を高めたのではないかというものです。せっかく岸田さんで世論の警戒を解いたはずなのに、やれ日本も侵略されるのは必然だとか、やれ敵基地攻撃にまで踏み込むのだとか、改憲派が頑張れば頑張るほど、「これはただ自衛隊憲法に書き込むだけには止まらないぞ」と思ってしまうのではないでしょうか。
 
 ということは、これからも、同じような力学が働くのだと感じます。改憲派が焦れば焦るほど、護憲派を批判すればするほど、改憲が遠のいていくという力学です。

 なるほど、と思いました。

 別の言い方をすると、護憲派が相当な危機感を燃やして事態を告発した成果だと言えなくもないと思います。

 私の周りでも、こういう逆風の中で、いや、だからこそ憲法9条を守ろうという署名を街頭や近隣の人に訴えて、「ちょっとこの署名だけは遠慮させてくれ」という反応に悩みながらも積極的に訴えたという人がかなりいます。

 今私は「逆風」と言ったんですが、そうかと思えば、向こうから声をかけてきて「ぜひ署名させてくれ」という反応も結構あったと聞いています。つまり、あまりアクティブでなかったような人たちの中で9条に親近感を抱いていた層が「これはまずいのではないか」という危惧を高めて、アクティブになっている、という報告です。

 そういう運動の努力と、それに呼応して危機感を抱いた人たちの反応が、こうした世論調査の結果を出したと言えないでしょうか。

 

 

憲法9条をめぐる争点

 私は、いま憲法9条でつくるべき統一戦線は、「9条を守るかどうか」という言い方ではなく、「9条のもとで専守防衛自衛隊を続けるのか、それとも9条を変えて米軍と海外で戦争をできる自衛隊に変えるのか」という、そういう線引きだと思っています。

 岸田政権は、9条改定をあたかも「自衛隊を明記するかどうか」という点での争いであるかのように描いて、その争いに持ち込もうとしています。しかし、それは全くのごまかしです。これは今暴くべき最大のごまかしだろうと思っています。

www.nikkei.com

 政府見解ではすでに自衛隊は「合憲」です。最高裁でもそのことは判決が出ています。だから、政府自民党としては、もはや自衛隊の存在そのものの憲法上の位置付け「ごとき」の問題に力をさく必要など全くないはずです。

 自民党が本当に「国防」を考えるなら、自衛隊を明記するかどうかなんていう「どうでもいいこと」に全精力を傾けている場合ではないはずです。時間の無駄と言いましょうか。

 自民党や安倍元首相が「核共有=核兵器使用」、敵基地攻撃という名の国連憲章違反の先制攻撃、現在の2倍の軍事費となる「GDP2%の防衛費」、そして台湾有事・朝鮮有事での日米軍事同盟を軸にした戦争を本気で訴えたいなら、そのことを9条改憲の理由として堂々と訴えるべきなのです。

 だって、自民党や維新の会はこれらをしないと国が守れないと常々言っているわけでしょう? 

 実際、自民党改憲案は、自衛隊を明記する際に「自衛の措置」を同時に書き込もうとしています。

www.jimin.jp

 これは一見何の問題もないように見えますが、この「自衛」には個別的自衛権だけでなく、集団的自衛権、すなわち自分の国が攻められてもいないのに、同盟国が攻撃されたら一緒に戦争をすることまでが含まれています。

 自民党憲法改正草案の解説で、「自衛の措置」についてこう書いています。

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/pamphlet/kenpou_qa.pdf

この「自衛権」には、国連憲章が認めている個別的自衛権集団的自衛権が含まれていることは、言うまでもありません。

新2項で、改めて「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と規定し、自衛権の行使には、何らの制約もないように規定しました

 

 他方で、護憲派は、専守防衛自衛隊を続けることを訴えるべきだと思います。自衛隊を存続させるかどうか、軍事力を使うかどうか、なんて現時点では1ミリも争うべきことではないからです

 日本共産党自衛隊を当面専守防衛の部隊に改革することを掲げているわけですから、そこを臆さずにいうべきです。

 そして、世論の多数が専守防衛を厳守すべきであり、核共有を議論すべきだと思っている国民は2割しかないのですから、ここを土俵にすえるべきでしょう。

www.hokkaido-np.co.jp

 志位和夫委員長の憲法記念日の訴えでは、「日本が直面している最大の現実の危険は何か――米軍と一体に海外に攻め込むこと」を強調していて、この点は非常に大事だと思いました。

www.jcp.or.jp

 

 いま危機に乗じて、“日本を守るためには力が必要だ”――こう言って、「敵基地攻撃」だ、「核共有」だ、「9条を捨てろ」――こういう大合唱が起こっています。

 しかし、みなさん。いま日本が直面している最大の現実の危険はどこにあるでしょうか。

 ズバリ言いますと、日本が攻撃されていないのに、米国が軍事行動を始めたら、安保法制=集団的自衛権を発動して、自衛隊が米軍と一緒に「敵基地攻撃」で攻め込む。その結果、その戦火が日本に及んでくる。これが、いま日本が直面している最大の現実の危険ではないでしょうか。(「そうだ」の声、拍手)

 共産党の綱領がなぜ「対米従属」を日本の改革すべき最重要焦点にしているのかといえば、こういう危険に巻き込まれるからに他なりません。武力一般を肯定するか全面否定するか、なんていうことは全く当面にとって重要ではないわけです(そもそも日本共産党が世界の平和秩序の中心にすえるべきと衝動している国連憲章第42条は国連軍による武力発動さえもありうることを前提にしています)。

社会経済活動と感染抑止の「両立」という問題

 今日付の「しんぶん赤旗」で、日本共産党小池晃書記局長が、オミクロン株におけるコロナ感染者の自宅待機を7日間に短縮することについて、

7日間待機で5%程度の発症リスクがあるのは無視できない数字だ。

と述べています。

 短縮には反対なのかなと思いましたが、すぐその後に、

潜伏期間が短いので短縮に合理性はあるが、

と述べ、短縮そのものには反対していないことを表明しました。その上で

その場合は検査も併せて行う必要がある。社会経済機能の維持と感染抑止を両立させる最大のツールが検査だ

と述べています。共産党は1月の代表質問でも

感染力の強いオミクロン株に対して、感染抑制と社会経済活動の両立を図るためにカギを握るのがワクチンと検査、そして保健所や地域医療機関への緊急支援です。

と社会経済活動との両立論を打ち出しています。

 この意見に私も賛成です。

 いまだに世の中には「社会経済を回す」という原則を打ち立てること自身が感染抑制・防止をおろそかにしているかのように考えている人がいます。

 確かに「両立」を言いながら、実際には感染抑制をおざなりにして「経済」、それも利潤追求だけを優先させた活動になっている政治があります。その両立論が実際には空洞化・形骸化していることが問題なのであって、両立そのものが問題なわけではありません。

 

 小池氏は、この記事でそのカナメとして検査の重要性を強調しています。

 司会の松原耕二氏も

「『検査によって社会を回す』という体制をつくる発想がこの国はあまりなかったのでは」

自民党議員に問うています。

 現在検査キットの不足が大きな問題になっていて、そのことが如実に表れてしまっているわけですが、私も福岡市議会の質疑応答や市長要望などに立ち会った際に、福岡市政のあり方からもそのことは強く感じました。

 特に感染が一定沈静化していた今年の秋にその機会はあったわけですが、共産党が質問・要望しても反応は鈍く、“ワクチンでもうだいたい収まったではないか。今さら検査なんか…”という態度がありありでした。じじつ、福岡市は共産党の求めに応じた規模での検査の拡充をしてきませんでした。

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 以下は昨年の9月21日の決算特別委員会総会での共産党(中山郁美市議)と高島・福岡市長とのやりとりです。

◯中山委員 …100億円規模で基金を取り崩し、事業者や市民への独自の給付金の実施、検査拡充、必要な人員増等を急ぎ、直ちに実行すべきではないか、市長の答弁を求める。

△市長 新型コロナウイルス感染症対策については、関係者の尽力等によって多額の予算を確保してもらった国の臨時交付金も活用し、医療、介護施設における従事者への給付金や、国に先駆けて実施をした家賃支援など、本市独自の取組を幅広く実施しており、また、必要な人員体制についても柔軟かつ機動的な体制を整備し、全庁挙げて取り組んでいる。さらに、令和3年度においても、当初予算及び補正予算において財政調整基金を約128億円取り崩し、様々な同感染症対策などの事業を充実させており、引き続き市民の命と暮らしを守るため、感染拡大防止と社会経済活動の維持の両立に向けた取組を迅速に実施していく。

 要するに、“これまで十分にやってきたしやろうとしているから、問題ありません”という答弁です。検査を拡充する方向性は示しませんでした。そしてまさに、ここで内容のない空虚な「両立」スローガンを述べて、答弁を締めています。

 

 小池氏が述べている、

「感染が下火になっていた昨年10月〜12月にかけて検査体制・能力をつける一番いい時期だった。にもかかわらず、政府はこの3カ月間何をやってきたのか。検査し、感染者を保護するという感染者を保護するという感染者対策の基本がなっていない」

「これを反省して、今からでも万全の検査体制をつくることに、総力を挙げなければいけない。それが命と暮らし、経済を両立させる道だ」

という点は全くその通りだと考えます。

 ワクチンの接種率が向上し、感染が一旦下火になったあとは、マスメディアや政治の舞台から検査論が消えてしまい、この段になってあわてて対応するということになっています。「いったん忘れかけた」ということ自体が反省されるべきでしょう。

単身高齢女性の貧困

 「女性のひろば」2022年2月号を読みました。

 ここで注目したのは、「一人暮らし高齢女性 2人に1人が貧困の衝撃」です。

 この特集では、貧困率相対的貧困率)の年齢層別・性別のグラフが載っていますが、高齢女性になるとぐんぐん上がっていきます。65歳以上は25%近くになります。

 さらに、これを単身者・夫婦のみ…など世帯タイプ別・性別に見ると女性の単身では相対的貧困に陥っている世帯は46.1%におよびます。

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「女性のひろば」2022年2月号

 私が福岡市長選挙で取り上げた問題で、福岡市では年収300万円以下の世帯を「低所得世帯」としているのですが、それは4割台の多さです。

 おそらく、その中でも、高齢者の単身世帯はここにかなり入っているだろうと思われますが、さらにその中でも女性の貧困が際立っているだろうことは予想できます。

 福岡市でもこれを調査できないだろうかと思いました。

 

 ただし、この特集でコメントしている阿部彩・東京都立大学教授は次のように述べています。

私は研究者として「子どもの貧困」を訴えてきました。しかし「〇〇の貧困」とカテゴリー化してしまうことで、世代間や男女の分断を促進することになったのではないかという忸怩たる思いもあります。「子どもの貧困が大変だ」「高齢女性が大変だ」とカテゴリー化して、一時的な対策を求めるだけでは貧困問題は解決しないのではないでしょうか。(「女性のひろば」2022年2月号、p.30)

 なかなか辛辣です。

 ではどうすればいいのか。

「高齢女性」という限られた世代の問題にしてしまうのではなく、人が生活するうえで最も切実な問題——住宅、医療、介護、交通費、光熱費などの負担を下げ、実態に即して支援するといったきめ細かい対策をとる必要があります。(同前)

 これは、ベーシック・サービスとかベーシック・インカムのようなものだろうと私は解釈しました。もちろん、「ベーシック・インカム」のような単一の制度が一気にできるという意味ではありません。資本主義のもとでつくられていくひとつひとつの社会保障の仕組みがパーツのように積み重なって、そういう制度に到達するというイメージです。

 人が生きていく上で最低限保障しなければならないもの、つまり「健康で文化的な最低限どの生活」を得るために必要なものを社会が保障するという考え方です。

 私は、常々これは、「経済を利潤追求のためではなく社会のために役立たせるようコントロールした社会=共産主義社会」の重要なパーツの一つだと考えています。労働時間の抜本的短縮、および経済に対する合理的規制と合わせて。

 私が、市長選挙で公約した「家賃補助」(公的住宅、公的住宅手当)はその一つです。

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 「女性のひろば」では「暮らせる年金」への引き上げという結論になっていて、それはそれで「老後のベーシックインカム」のようなものだろうと思います。このようにして、資本主義社会のもとで、その次の社会=共産主義社会のためのパーツが一つひとつ準備されているわけです。

 

 

福岡市の家賃補助の実績が「ゼロ」

 福岡市の2020年度決算を審査する決算特別委員会が開かれました。

 そこで明らかになったことですが、共産党市議団の反対討論から以下、引用します。

コロナのもとで失業や収入減にさらされ住むところが奪われる事例が相次いでいますが、髙島市政は家賃の安い市営住宅は新規建設を行わない姿勢を頑なにとりつづけ、低所得者のための家賃補助事業の決算年度における実績は、なんとゼロであり、行政として住宅施策に取り組む意欲も能力もないものだと言わねばなりません。(強調は引用者、以下同じ)

 私は2018年の市長選選挙公約に家賃補助を掲げました。

年金生活の一人暮らしの高齢者が住めるような民間アパート借上の市営住宅を増やします。そして、非正規で独身の若い人たちのために、民間アパートへの家賃補助をはじめます。

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 高島宗一郎・福岡市長は、これに全く後ろ向きだったのです。2018年11月15日の福岡市中央区の草ヶ江公民館公民館でやった演説の一節です。

選挙とかになるとね、もしかすると、これもタダにします、あれもタダにします、これにも補助金を出しましょう、あれにも補助金を出しましょうという話を聞くかもしれないんだけども、それお金どうするわけ、そんなんできりゃ今でもしてるって。ね。子どもの全部から、高齢者の全部から、もうついでに国民全員タダってすりゃ、できるんならするて(笑)。そりゃできんさ。子どもの全部から、高齢者の全部から、もうついでに国民全員タダってすりゃ、できるんならするて(笑)。そりゃできんさ。みなさんの家庭だってね、子どもたちに服はいい服着させる、医療環境もバッチリ、夏休みには海外旅行に行ってなんとかでって、塾もいっぱい習い事させて、で、お父さんお母さんには素晴らしいセカンドハウスかなんか買ってあげる、ってそりゃできんって(笑)。

 彼は私の「家賃補助」政策を意識しているんですが、切実な補助金を「海外旅行」や「セカンドハウス」を購入するのと同じ要求だと言ってバカにし、あざ笑い、実現など不可能だと煽っていることがわかると思います。*1

 高島市長は、市営住宅の新増設にかなり批判的で、さらに、上記のように補助を出すことにも慎重でした。「民間の力」で何とかする、という方針だったのです。高島市長は、私と選挙を争った2018年の選挙戦の直前(同年10月30日)にこう語っていました。

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―対立陣営からは公営住宅などセーフティーネットをもう少し強化していいんじゃないか、という指摘もある―
 高齢社会に向かってどのように高齢者の住宅を確保していくのか。入院から在宅へという流れの中で、地域で安心して暮らしていけるのかという課題は、日本全体にとって非常に大きな課題だと認識しています。人口が減っていく街であっても、増えていく街であっても、問題は変わらないと思うんです。
 そのうえで福岡市はどういう事に取り組んでいるかというと、一つは民間の賃貸住宅などを借りていく。福岡は新築志向が非常に強い土地ですので、意外と、築何年の住宅が空きがあったりという事もある訳です。
 こうした空き部屋を活用していくのは非常に大事で。こうしたアセット(資産)があるにもかかわらず、市が別の形で住宅を建築するのは、行政の最適化からしてもいかがなものか
 民間の皆さんにとって、どういう形であれば、例えば低所得者の方とか、高齢者の方を受け入れやすいのか。やはり保証の仕組みが大事になってくる訳です。ですから、福岡市社協と一緒になって、民間の皆さんと、高齢者が住み替えを促進できるような協定を結んだり。そういうかなり先進的な取り組みをしてきている。

 「保証の仕組み」——これは現在市が躍起になって進めている「セーフティネット住宅を登録する」というやり方です。「貧乏人だから」「年寄りだから」「障害者だから」といって入居を拒まない民間アパートなどを登録によって増やそうとしました。そして、これは一定増えたわけです(2020年1月31日で186戸)。

 しかし、高島市政は、このように言いながら結局世論に押されて、家賃補助制度を始めました。このセーフティネット住宅に登録した住宅の中で家賃補助を大家に渡す制度をやろうとしました。

 これ自体は、私が掲げてきた公約へ向けての一歩前進です。逆に言えば、高島市長の「敗北」であり、彼の先見性の無さが浮き彫りになったわけです。反対していた私の公約の方向を取り入れざるを得なくなったわけですから。ロープウエー中止や、少人数学級と同じですね。

 

 しかし、実績はゼロです。

 家賃が安くなるというのに実績がない。通常では考えられません。政策がうまくマッチしていないかも…、つまり高齢者はみんな裕福になって家賃補助など、制度があっても使わない——とは考えにくいですよね。

 明らかに制度がおかしいのです。

 まさに「行政として住宅施策に取り組む意欲も能力もないもの」です。

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 実は、この問題は全国的に起きています。

 なぜなら「セーフティネット住宅」という枠組みは国の枠組みであり、その専用住宅に限って家賃補助を行うというのも国の枠組みだからです。

 高島市政は、国が金を出すならとしぶしぶ始めたものの、国のダメダメな枠組みに従うだけで、高齢者や若年単身者の実態に寄り添う気も能力もないので、こんな結果になっているのです。

 その辺りを詳しく、共産党の理論誌「前衛」11月号の寺下真論文「『住まいの貧困』を打開するために——コロナ禍から見えてきたもの」が書いています。

 二〇二一年九月時点で、「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない「セーフティネット住宅」の登録は、約六〇万戸まで増えました。制度自体、表向きは前進があるようにも見えます。ところが、そのうち家賃低廉化(家賃補助)の対象となるのは、そのうち約六〇万戸ではなく、「住宅確保要配慮者」のみが入居する「専用住宅」であり、その登録戸数は全国でわずか四〇〇〇戸程度国交省は説明しています。現状では、どんなに家賃低廉化を進めたくても、四〇〇〇戸以上には増やしようがないのです。

 これでは、もっとも住宅困窮者対策として期待が高かった家賃低廉化(家賃補助)の施策は重大な機能不全に陥っていると評価せざるを得ません。(前掲誌p.214)

家賃低廉化(家賃補助)を受けている世帯は、全国でわずか一七自治体の二〇八戸、使われた国費は三三八三万円にすぎません。(同前)

 寺下論文では改善の方向として、

コロナ禍を経てまず求められる住宅困窮者対策は、入居者自身に給付する国の家賃補助制度の創設です。(同前)

と結論づけています。

 私は、高齢者、とくに単身高齢者についてはもし入居拒否があるなら、民間住宅の借り上げを進めて準公営住宅にするとともに、公営住宅そのものの増設を進めるべきだと考え、2018年市長選挙でもそう訴えてきました

 そして単身の若年者にはこういう民間アパートへの家賃補助がいいだろうと思って、訴えてきました

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 日本政府、というか自民党(・公明党)政権の長年の政策は「持ち家偏重」政策であり、資産としての家を持つようにローンを優遇するなどしてきました。賃貸の人たちには公営住宅は増やさない、家賃補助はやらないなど徹底した冷遇政策をとり続けてきたのです。

 私は、2018年の市長選の時の記事でも平山洋介教授の著作を紹介する形でこの「持ち家主義」(持ち家偏重主義)との決別を呼びかけてきました。

 神戸大学平山洋介教授の『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)では、ケメニーという学者の分類モデルを紹介し、日本の住宅政策は「持ち家主義」であり、「デュアリズム」と言って国民に持ち家を持たせることに政策資源を集中させ、社会的賃貸住宅は「残余」つまり余り物としておざなりにしかやってこなかったものだとしています。

 これに対して、ユニタリズムというのは、特定の住宅をひいきせず、持ち家でも賃貸でもどういう家を持っても「中立」的な政策をやっています。

 日本は持ち家主義から変わらなければいけません。

 特に、若者と高齢者の単身者が増え、それら単身世帯が市の半分を占め、さらに低所得世帯がやはり市の世帯の半分を占めるようになった現代では、「ローンを組んで持ち家を持つ」という世帯だけが優遇され、社会的に「賃貸から持ち家へ」ハシゴを登るように誘導される政策は、もう限界にきています。

 

 前述の寺下論文が指摘するように、自公政権にとっては「住まいは人権」なのではなく、あくまで経済対策の一環なのです。

政府の住宅政策の主眼は、ハウスメーカーなど住宅産業の支援にあります。居住者支援は後景に追いやられています。住宅政策は、住宅市場を活性化し、住宅産業を支援する「経済対策」なのです。(寺下前掲p.207)

 

 寺下論文では諸外国と日本の動向を次のように総括しています。

これに対して、賃貸住宅向けの住宅政策としては、多くの国では(1)公的な家賃補助制度と、(2)公営住宅など公共住宅の制度による支援があります。(1)と(2)のいずれかに力を入れるとか、双方やるとか、国ごとに支援の方法には違いがあります。しかし、日本は、(1)国が責任を持つ家賃補助制度はありませんし、(2)公的賃貸住宅は、公営住宅UR賃貸住宅を合計しても全国で約二九〇万戸、住宅ストック全体の五%程度しかありません。公営住宅UR賃貸住宅も戸数が減る一方です。(寺下前掲p.208-209)

 日本も賃貸住宅については「住まいは人権」の立場から、公営住宅を増やし、家賃補助を進める政策に切り替えるべきでしょう。「持ち家」の皆さんとの公平を保つ上でも、ベーシックな「住宅手当」を全世帯に行うよう政策を発展させていくべきです。

 それが私が2018年の市長選挙で訴えた、家賃補助からベーシックインカム(ベーシックサービス)へという考えです。

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 そして、野党共通政策に次の一文が入りました。

誰もが人間らしい生活を送れるよう、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援を拡充し、子育て世代や若者への社会的投資の充実を図る。

 そして、これは野党が政権を取った場合に実行される政策となり、共産党立憲民主党と政権協力で合意し、この野党共通政策の範囲に限定して閣外から協力することになりました。つまり、共産党この政策を政権に実行させる責任を持つポジション、コントロールの権利を協定によって入手したのです。

 ふん、こんなものキレイゴトじゃないか、とお嘆きの貴兄に。

 それはそうかもしれません。放っておけば、あまり具体化されない恐れがあります。

 しかし逆に考えれば、「住宅…について公的支援を拡充」することを定めているわけですから、この条項を入り口にして具体的な支援策の実行を求めることができるのです。

 寺下論文では、この野党共通政策に触れてこう述べています。

今後、各地域でこの共通政策をもとに運動を進める際に、この内容が地域の実情に合わせて豊かに発展できればすばらしいことです。特に、家賃補助制度の創設は、各党で一致できないでしょうか。公営住宅の供給増はどうでしょうか。子育て世代や若者への「社会投資」に限定せず、高齢者なども含めて「住まいは人権」という立場から合意できないでしょうか。草の根から「共通政策」がより豊かになれば、野党共闘もますます意義深い取り組みとなるでしょう。(寺下前掲p.215)

 ここには、野党共闘、野党連合政権、そして総選挙を考える非常に重要なヒントがあります。

 一つは、「野党共通政策」の実行は「立憲民主党おまかせ」ではないこと。

 「政権をとって実行するなら立憲民主党だけでいいだろ?」ということではなく、野党がそれぞれの立場からその具体化をすることが必要だということですし、特に、政権協力合意をして閣外からの政策実行へのコントロールを約束したことは、そうした政策に熱心な政党(ここでは共産党)がどれだけ伸びるかが大事になってきます。

www.jcp.or.jp

 

 もちろん、立憲民主党立憲民主党で、「うちの方が熱心」というアプローチをして競ってもらえばいいと思います。

cdp-japan.jp

 二つ目は、抽象的な方向性をうたっている項目は、今後の市民と野党の共闘でこそ具体化されていくものだということ。

 これ以外にも、野党共通政策はやや抽象的な政策条項が少なくありません。

 これらを「抽象的にとどまった」とみずに、むしろより具体化して豊かにして実行する、奥行きのある条項が入ったものとして、運動や共闘のテコにしていくことができます。

 野党共通政策には、「消費税減税を行い」とか「日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命する」などの相当具体的な文言が入っていますが、逆に考えれば、それはそこで終わりの条項です。

 それよりは、大きな方向を戦略的に共有して具体化をしていく方が、むしろ自民・公明政治の柱を大きく変えることができます。

 

*1:余談ですが、2018年市長選挙終盤で高島氏が唯一の対立候補であった私に対して、急に、異常なまでにアグレッシブになりました。こういう屋内演説だけでなく、最終日は私の打ち上げ演説の横を妨害するかのように絶叫して通り過ぎて行きました(後日、議会で問題にすらなったほどのひどさ)。また、急遽自民党にも推薦を頼んだりしました。突然「横綱相撲」を捨てて、目に見えて焦り始める——私にはたいへん奇妙な光景に映ったものです。私に負けそうだった…というよりも、ロープウエー問題をはじめとする私の「健闘」ぶりが世論調査で伝わり(これは西日本新聞がその年の12月に特集を組んで報じています)、彼自身の「史上最高得票」の更新ができないどころか、逆に得票を後退させる危険があったこと、そして代わりに「共産単独推薦候補として過去最高」の「名誉」を私に与えかねないということを危惧したのでしょう。もしそうなれば「高島氏得票後退 共産推薦候補が過去最高得票」という「イ〜ヤな」見出しが翌日の紙面を飾りかねないと思ったのかもしれません。ま、あくまで邪推ですけど。

超党派で「核兵器禁止条約締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を求める意見書」が採択!

 福岡市議会が10月8日に閉会しました。

 そこで、「核兵器禁止条約締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を求める意見書」について、共産党が立案し、賛成多数で採択されるという画期的な前進がありました。

 賛成会派は共産党、市民クラブ(立憲や社民などの議員合同会派)、緑・ネット、福岡令和会、そして公明党です。

 反対会派は自民党自民党新福岡です。

 

 前回の記事で以下のように書きましたが、そこで書いた通り、基本的に党派を超えて賛成が得られました。

ただ、「オブザーバー参加」という点では、自民党公明党を含めて足並みが揃う可能性が出てきました。

 大変嬉しい結果です。

kamiyatakayuki.hatenadiary.jp

 

 以下は採択された意見書の全文です。

核兵器禁止条約締約国会議への日本政府のオブザーバー参加を求める意見書

 史上初めて核兵器を違法化した核兵器禁止条約が成立し、批准国・署名国が増え続ける中、今年1月、同条約は発効しました。核兵器のない世界の実現へ向け、世界中の人々の期待が高まりつつあります。

 同条約の第8条では、核軍縮や期限を定めた核兵器の廃止などの措置を協議する「締約国会議」の開催について定められ、同条第2項で規定された第1回締約国会議が来年3月にオーストリアのウィーンで開かれます。締約国会議には同条約の締約国でない国に対してもオブザーバーとして出席するよう招請することが同条第5項に定められており、既に国連事務総長は日本政府にも出席を招請しました。

 第1回締約国会議で議長を務めるオーストリア外務省の軍縮局長は、「第1回締約国会議で、核兵器の人道的結末とリスクへの認識を再び高めるような強力な政治的メッセージを発信したい」と表明しており、同条約にいまだ締約していない国も出席した上で、同会議が核兵器の人道的結末とリスクへの認識を高めるという点で成功することは、核軍縮核廃絶の進展にとって大きな意義があります。

 日本は同条約の未締約国であり、同会議へ参加する場合にはオブザーバーとして参加することになりますが、同条約では核兵器の使用などにより被害を受けた者への援助及び汚染された地域の環境の修復について定められており、この点において、唯一の戦争被爆国である日本政府が同会議に参加して積極的な役割を果たし、「核兵器の人道的結末とリスクへの認識を再び高める」よう貢献することが期待されています。

 よって、福岡市議会は、政府が、核兵器禁止条約の第1回締約国会議にオブザーバーとして参加されるよう強く要請します。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出します。

令和 年 月 日

内閣総理大臣外務大臣内閣官房長官 宛て

議長名 

 

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 自民党もギリギリまで迷ったようでしたが……。

 核兵器の廃絶は本来党派を超えて一致できる問題です。私も市長選挙に出た時「核兵器禁止条約への参加を日本政府に直接求めます。」と公約しましたが、そこへ向けた福岡市での前進と言えます。

 核兵器禁止条約への参加はまだ距離があっても、オブザーバーでの参加は現状でもできることです。

 国政の野党は共通政策で、

核兵器禁止条約の批准をめざし、まずは締約国会議へのオブザーバー参加に向け努力する。

を掲げています。

 これを実現する野党連合政権をつくりましょう。

原水爆禁止2021世界大会と「第1回締約国会議への全ての国の参加」問題

 原水爆禁止2021年世界大会のヒロシマデー集会にオンラインで参加しました。

 以前はわりと頻繁に参加していたのですが、子育てをするようになってからはほとんど参加できず、オンラインということで今年は10年以上ぶりの参加でした。

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 この問題についての参加した私の問題意識は、「福岡市として核兵器禁止条約にどう取り組むか」ということです。「福岡市として」という以上、それは一党一派の立場からではなく、たとえ今の市長であってもその立場でどう取り組めるのか、ということです。

 

どこに関心を持って世界大会に参加したか――クメント墺大使の発言

 この点で、私は、原水爆禁止日本協議会原水協)の安井正和事務局長の「しんぶん赤旗」7月17日付インタビューでの次の発言に注目していました。

大会には来年1月の禁止条約第1回締約国会議を担う国連・政府代表、第10回NPT(核不拡散条約)再検討会議の政府代表が参加します。締約国会議議長を務めるオーストリアのアレクサンダー・クメント大使は、核兵器廃絶の期限を「10年」とする見通しを明らかにしており、〔世界大会での〕発言が注目されます。

 これですね。

www.nishinippon.co.jp

 

 実は私は17日付「赤旗」を読んだ時には安井さんのインタビューに気づいておらず、英語の勉強のために読んでいた「Japan Press Weekly」で初めて知りました。英語で情報を取る、という初めての体験になったわけですね(笑) で、「Japan Press Weekly」の方がもう少し気持ちを引きつける書き方をしているので、あえて引用します。

Yasui said that as Kmentt expects that the meeting will set a 10-year deadline for the destruction of nuclear weapons, his remarks at the World Conference will draw much international attention.

 「much international attention」、「相当な国際的注目」ですから、「これは!」と思ったわけですね。日本語記事ではこの重大さのニュアンスがありませんでした。安井さんは「2021年世界大会の特徴と魅力」を語るインタビューで、真っ先にこのクメント大使の発言について言及しており、いわばこの大会の最大の目玉といっても過言ではないだろうなと思いました。

 もしこの安井インタビューの英文記事を読んでいなければ、漫然と発言を聞くだけになっただろうと冷や汗が出ます。

 

締約国会議とは何か

 なお、「第1回締約国会議(the first meeting of States Parties to the TPNW slated for January 2022)」とは何かをと言いますと、核兵器禁止条約第8条2に定められた会議です。

2、第1回締約国会議は、この条約が効力を生じた後、1年以内に国連事務総長によって招集される。

 同条で、この会議の任務は

締約国は、関連条項に従って、次の事項を含む、この条約の適用または履行に関するあらゆる問題、および核軍縮のためのさらなる措置について検討し、および必要な場合には決定を行うために、定期的に会合する。

  • (a)この条約の履行と現状
  • (b)この条約への追加議定書を含め、核兵器計画の検証され、時限を切った、不可逆な廃棄のための措置
  • (c)この条約の条項に準拠および整合する他のあらゆる問題

というものです。

 そしてこの同条5には次のような定めがあります。

5、この条約の締約国ではない国、ならびに国連の関連組織、その他の関連国際組織または機関、地域的組織、赤十字国際委員会国際赤十字・赤新月社連盟および関連の非政府組織は、締約国会議と検討会議にオブザーバーとして参加するよう招請される

 

クメント大使が求めたのは「全ての国の参加による非人道性の議論」

 この会議で、クメント大使は「10年」という廃絶期限を切るのではないか、などの注目が集まっているわけです。その議長予定候補としてのクメント大使が、世界大会でどんな発言をするのか? と思って注目しました。

 すると、彼は「10年期限」などおくびにも出しませんでした。

 代わりに、彼が強調したのは次の点でした。

私たちは第1回締約国会議で、核兵器の人道的結末とリスクへの認識を再び高めるような強力な政治的メッセージを発信したいと思っています。この会議は、各国政府と市民社会が禁止条約の人道的な理論的根拠の重要性を強調する機会となるでしょう。すべての政府と市民社会の参加が必要です。それが条約に対する支持の広がりと危険で間違った核兵器依存からの離脱に対する圧力の大きさを示すことになるからです。

 なんと第1回締約国会議の中心点は「核兵器の人道的結末とリスクへの認識」だというのです。「人道的結末とリスクへの認識」、つまり核兵器の非人道性を合意にし、それを「高める」ような会議にしようということです。

 核兵器の非人道性は、核保有国や核の傘依存国を含め全ての国が共通認識を持ちうる、重要なポイントです。「核兵器を持つかどうか、どんな政策を取るかどうかは、いろいろ意見があるけども、核兵器を使うとが非人道的な結果をまねくことは間違いないよね?」という議論が成り立つからです。

 昔は“核兵器を使ってもそれほど大したことはない”、“だから米国が原爆を落としたこともそれほどの罪ではない”とされてきたのですが、被爆者の訴えを始め被爆の実相が明らかになるにつれて国際的に「核兵器を使うことは非人道的である」という共通認識が作られてきたのです。

 核兵器を使えば非人道的結果をもたらすことは合意するが、使うこと自体や保有自体はそれとは区別されていますから、核保有政策を続けることは理論上は可能です。しかし、使えば非人道的だと認めてしまえば、使用や保有は相当厳しくなります。つまり非人道性の議論は、核の使用・保有を覆す重要な入り口になるのです。

 クメント大使は、この点を第1回締約国会議の焦点にしようとしているのです。彼はこう続けました。

国連事務総長すべての国家の参加を招請しました。禁止条約締約国は、現在この条約を支持していない国の参加を歓迎しています。私たちは、未だに禁止条約に懐疑的で、核抑止力にしがみついている国々の関与を必要としています。もちろん各国は、少なくとも短期的には、禁止条約に加盟したくないと主張することもできます。しかし、禁止条約の基礎である人道性の深い議論に加わらないという理由や言い訳はありえません。

 まさに「人道性」の議論を入り口にして、核保有国をはじめとする非加盟国の参加を広げようとしているのです。ここがクメント大使の戦略の非常に重要な点だと思いました。

 そうです。

 本当は、日本をはじめ現在加盟していない国が加盟して参加するのが一番いいのです。

 しかし、クメント大使は、来年1月に会議が開催されるという時間を考慮して、条約8条5を活用し、オブザーバーであっても全ての国が参加することを最も重視したのです。

私は、禁止条約を支持していない国の多くが、ウィーンの第1回締約国会議にオブザーバーとして参加することを期待しています。中でも日本のオブザーバー参加に期待します。

 

自民党公明党を含めて超党派でできる可能性がある

 私は、8月6日付の「赤旗」で政党討論の報道を読んだ時、共産・社民・れいわが条約加盟を訴えたのに対して、立憲民主党・国民民主党が条約参加に背を向けている*1ことにがっかりしたものです。

 ただ、「オブザーバー参加」という点では、自民党公明党を含めて足並みが揃う可能性が出てきました。

www.jiji.com

 加盟して参加することを引き続き求めるべきですが、オブザーバーであってもいいので、とにかく超党派で第1回締約国会議への参加をして、人道性の議論を深める――ここに今の問題の焦点があると思いました。

 クメント大使は、世界大会でわざわざこう発言しました。

禁止条約のとても重要な要素の一つである、被害者への支援と環境の回復という積極的な義務は、第一回締約国会議の焦点の一つとなります。被爆者はこの問題を禁止条約の重要な要素にするうえで決定的な役割を果たしました。

 「これが日本がオブザーバー参加して発揮してほしい役どころ」というガイドまでしてくれているのです。

 と言いますか、菅首相は、近頃「黒い雨訴訟」で上告を断念し、そのことを「成果」として誇っています。だから8月6日の広島市の原爆死没者慰霊式・平和祈念式あいさつで彼はこのことを誇ったわけでしょう。つまりクメント大使は暗に、“菅首相が締約国会議に来て、大いに黒い雨訴訟での英断を訴えてほしい”と誘い出しているわけです。

 ただし、菅首相は「あいさつ」で肝心の「非人道性」についての言及は1か所すっ飛ばしてしまったわけですが……(リンクしてある官邸ホームページのテキストは菅首相が読み飛ばしてしまった部分が「復元」されていますけど)。

 

 だとすれば、福岡市議会は国に対して、締約国会議への参加を促すようにすべきですし、もちろん髙島宗一郎・福岡市長も、平和首長会議の一員として国に求めるべきでしょう。ここに今自治体で党派を超えて取り組むべき焦点があると思いました。

 

韓国の運動の発言を聞いて

 ところで、安井事務局長が今年の世界大会での注目ポイントとしてあげていた点で、核保有国および核の傘依存国における反核運動でした。

 その中で、韓国の「SPARK」という運動団体のパク・ハヨンさんの発言に注目しました。韓国は日本と同じく核の傘依存国であり、条約に参加していない国です。そこでの運動や世論がどうなっているのか。

 パクさんは次のように表現しました。

日本と韓国はこの地球上で、最も多くの被爆者を出した国です。

 私は原爆について描いたこうの史代さんのマンガ『夕凪の街、桜の国』が韓国で出版されるにあたり「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だったが、これはあのとき、犠牲になった人々の苦痛と悲しみについての物語である」という「まえがき」がつくという話を聞いたことがあります。

原爆で被爆した女性の戦後を描いた漫画「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」が今秋、韓国で翻訳出版される。韓国語版には「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だった」との、日本語版にはない文章が盛り込まれる。……

 同社は初版3500部の出版を決定。韓国国内の読者に配慮し、「原爆投下は戦争を終わらせるためのやむを得ない決定だったが、これはあのとき、犠牲になった人々の苦痛と悲しみについての物語である」との前書きを付けることにした。

 原爆被害に関する書籍が、韓国で翻訳出版された例は少ない。韓国出版研究所(ソウル)の白源根(ペクウォングン)研究部長は「加害者である日本人が原爆被害を言うこと自体に違和感が強く、出版社は日本人の考えを代弁しているように受け止められることを警戒しているからだ」と話し、今回の出版後の反応を注視する。(朝日新聞2005年10月14日付夕刊)

 

 仮に、2005年にこのような世論状況だったとすれば、2021年のいま、「日本と韓国はこの地球上で、最も多くの被爆者を出した国」という認識をもって、そこの国の市民運動

韓国の原爆被害者と私たちSPARKは、2019年にソウルで開かれた非核・平和のための日韓国際フォーラムを契機に、アメリカの原爆投下の責任を問う市民法廷を準備しています。

という運動を展開しているのは、感無量です。

 日本軍「慰安婦」問題も、「反日」という文脈ではなく、「人間の尊厳の蹂躙の告発」としてとらえ、どこの国の軍隊のやったことであろうと戦時の性暴力を告発できる力を市民運動が持つべきだろうと思います。

*1:ウェブ版ではこの部分の報道はなく、紙面では報道されている。