「第4波」をどう封じ込めるのか

 引き続き福岡県知事選挙の話題です。

 新型コロナウイルス感染症拡大の第4波の兆候が出ていて、メディアでもそれにどう対応するか、持ちきりです。

 

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しんぶん赤旗日曜版2021年4月4日号

 私が気になるのは、メディアの関心が「どう病床を確保するか」みたいな話に移っているところです。

 例えば昨日の日経新聞1面は、「民間病院、4割がコロナ対応遅れ: 日本経済新聞 」でした。

 しかも、この記事は“病院に強制的にベッドを開けさせる権限がないことが問題だ”という点にフォーカスしています。民間病院がベッドを開けられないのは、経営上の不安があるからであって、まともな補償や支援もしないのに「とにかくベッドを開けて患者を受け入れてください」では通用しません。ましてや「開けないとひどいよ」と言って脅すのは、政治がやるべきことを果たしていないと言えるでしょう。

 何よりも、「感染が拡大してベッドが足りなくなるから強制的権限を」というのは“何も手を打たずに、感染が拡大してしまい、第4波が来てしまう”ことを前提にしている気がします。

 問題は「そうなる前に、感染封じ込めのためにどんな手を打つか」ということじゃないんでしょうか。感染が大爆発してしまえばベッドが一定数あっても足りなくなってしまいます。

 第4波への対策として、検査拡大について議論せずにいきなり病床問題に行ってしまうのは、「世論誘導」と言われても仕方がないですよね。

 今日の「しんぶん赤旗」では、コロナの感染再拡大にどう手を打つべきなのか大阪府の現場の医療関係者にインタビューをしています。

 大阪府保険医協会の理事長(高本英司)さんは、飲食店への時短要請や市民への自粛を繰り返すやり方の限界を指摘した上で、

私たちは感染を封じ込めるために検査を拡大するよう求めてきましたが、今回の再拡大でも知事は消極的です。大阪市内外で感染が拡大しており、広島県などの先進例に学んで地域に広く網をかけて陽性者を把握し、保護することが必要です。

としています。

 このインタビューでは、無策な大阪府と、何からの手立てをうとうとしている先進県との違いを述べています。そこに自治体としての姿勢の違いが出ていると言えます。

 

 福岡県はどちらなのかでしょうか

 今日の「しんぶん赤旗」で政府のモニタリング調査についての記事が載っています。

www.jcp.or.jp

 モニタリング調査は「政府が感染再拡大の予兆をつかみ感染源を把握するため」のものだとされています。

自治体への聞き取りでは、ほとんどの自治体が「国の事業」だとして、「依頼されたら協力するという立場」「検査結果などは直接把握していない」「陽性者の対応は国に任せている」と回答。

 つまり、国はやる気がない、自治体の多くは国まかせ、という状況なのです。

 そうした中で国以上の措置、独自の手立てを取っている県が5つあるといいます。

他方、新潟、愛媛、滋賀、広島、熊本の5県は、内閣府とは異なる独自の方法で、無症状者を対象とした検査を実施。県内の感染状況を把握し、感染の制御につなげる取り組みを行っています。

 福岡は……入ってない。福岡県は、「国まかせ」の一つということです。大阪府保険医協会の理事長が挙げた「広島県」はここに入っています。

 現在の県政、すなわち服部誠太郎さんが「継承」し、副知事を務めてきた県政は、こういう状況なわけです。コロナ対策では新聞で報道された公約を見ても「専用病床を増やす」くらいしかめぼしいものはありません。

 知事候補の星野みえ子さんは、公約で次のように述べています。

●感染を抑え込むためにモニタリング検査を今の10倍に増やします
そして、感染を抑え込む手立てをとります。
緊急事態宣言を解除して感染が少し収まってくると、国も県も、検査数がガタ減りになってしまいます。コロナは無症状の人がわからないまま広げてしまうのが特徴ですから、感染源が市中に残されてそれがまた感染を広げる大きな原因になっていると専門家もおっしゃっています。感染が収まってきたら逆に検査を増やして、どんどん感染した人を見つけて隔離・保護していく――これは衛生学の教科書に書いてある感染を抑え込むための初歩的なやり方ですが、菅政権も今の県政もそれを無視しています。現在無症状の人のモニタリング検査をやっていますが、私はこれを今の10倍くらいに増やします。

 

www.minnanokai2021.org

  ちなみに、二木芳人・昭和大学医学部客員教授感染症学)はモニタリング検査について、

1日650件では、政府が目標にしている1日1万件から見てもあまりにも少なすぎます。これでは「モニタリング」の意味を成しません。いまの100倍、200倍に検査を増やすべきです。(しんぶん赤旗日曜版4月4日号)

と述べました。

 星野さんの公約の「10倍」は「現状(650件)の10倍」なのか「政府目標(1万件)の10倍」なのかはわかりませんが、少なくとも服部候補よりもこの点でケタ違いに積極的なのは間違いないでしょう。

  • 検査の大幅拡大をしたい人は星野みえ子さん
  • 検査数は現状程度でいい思う人は服部さん

ですね。

 

農業政策の柱としての低所得者支援

 先日「福岡県知事候補の星野みえ子さんの政策を読むと、『あっ、こんな政策もあるのか』と思うものがいくつかあります」と書いたのですが、まだあります。「コメなどを買い上げ、困窮者に支援します」っていうのもその一つです。

●コメなどを買い上げ、困窮者に支援します
さらに、今コロナでひとり親家庭や学生が食べるものにも困っていて、民間で食糧支援などの動きが広がっています。コロナによって外食需要が減って米価が暴落する恐れがありますが、政府や行政が買い上げた備蓄米を活用し、コロナ禍で生活困難になった人たちへの支援を行う手立てなどが取れると思います。

www.minnanokai2021.org

 県内では、久留米市がすでに実施していますね。

www.sankei.com

 

 これは「困窮者対策」という角度からの政策の意味合いが強いのですが、同時に農業振興策でもあるということを鈴木宣弘・東大大学院教授が述べています。

www.agrinews.co.jp

 新型コロナウイルス禍で米需要が年間22万トンも減って、米余りがひどいから、米を大幅に減産しなくてはいけないというのは間違いである。米は余っているのではなく、コロナ禍による収入減で、「1日1食」に切り詰めるような、米や食料を食べたくても十分に食べられない人たちが増えているということだ。

 潜在需要はあるのに、米在庫が膨れ上がり、来年の稲作農家に支払われるJAの概算金は1俵1万円を切る水準が見えてきている。このままでは、中小の家族経営どころか、専業的な大規模稲作経営もつぶれかねない。

 米国などでは政府が農産物を買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子どもたちに配給して人道支援している。なぜ、日本政府は「政府は米を備蓄用以上買わないと決めたのだから断固できない」と意固地に拒否して、フードバンクや子ども食堂などを通じた人道支援のための政府買い入れさえしないのか。メンツのために、苦しむ国民と農家を放置し、国民の命を守る人道支援さえ拒否する政治・行政に存在意義があるのかが厳しく問われている。

 

 この趣旨をさらに詳しくした鈴木教授の発言が農民連の機関紙「農民」2021年3月29日(1450)号に載っていました。

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 私が驚いたのは次のくだりです。

 米国ではトランプ大統領(当時)が2020年4月17日、コロナ禍で打撃を受ける国内農家を支援するため、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」などに基づき、190億ドル規模の緊急支援策を発表した。このうち160億ドルを農家への直接給付に、30億ドルを食肉・乳製品・野菜などの買い上げに充てた。補助額は原則1農家当たり最大25万ドルとした。農務省は毎月、生鮮食品、乳製品、肉製品をそれぞれ約1億ドルずつ購入し、これらの調達、包装、配給では食品流通大手シスコなどと提携し、買い上げた大量の農畜産物をフードバンクや教会、支援団体に提供した。

 そもそも、米国の農業予算の柱の一つは消費者支援、低所得者層への食糧支援策なのである。米国の農業予算は年間1000億ドル近いが、驚くことに予算の8割近くは「栄養(Nutrition)」、その8割は「Supplemental Nutrition Assistance Program」(SNAP)と呼ばれる低所得者層への補助栄養支援プログラムに使われている。なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置付けになっているのか。この政策のポイントはそこにある。

 つまりこれは、米国における最大の農業支援政策でもあるのだ。消費者の食料品の購買力を高めることによって、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できるのである。経済学的にみれば、農産物価格を低くして農家に所得補てんするか、農産物価格を高く維持して消費者に購入できるよう支援するのか、基本的には同様の効果がある。米国は農家への所得補てんの仕組みも驚異的な充実ぶりだが、消費者サイドからの支援策も充実しているのである。まさに、両面からの「至れり尽くせり」である。

 私はまずアメリカの農業振興予算の構成がこうなっているとは知りませんでした。それが単純に驚いた事実です。

 そして、私は日本で家族農業をはじめ多様な農業経営が残っていくとしたら、所得保障(補償)制度しかないだろうなと思っています。つまり農業の公共的な役割を認め、公費で支えるということです。

 「公共的役割」ということで思い浮かぶのは「国土の保全」ですよね。

 貧弱ながら、現在の政権でさえもそれは認めて、交付金を支払っています。

www.maff.go.jp

 最近では「田んぼのダム機能」に着目して、県内では宗像市が調査を始めました。

www.yomiuri.co.jp

 こうしたことへ公費を投入していくのは一つの道だと思っていました。

 しかし、例えば私が参考にしている、日本共産党綱領では「食料自給率の向上、安全・安心な食料の確保、国土の保全など多面的機能を重視し…国の産業政策のなかで、農業を基幹的な生産部門として位置づける」としています。「国土の保全」は一つの役割でしかないのですよね。

 他にも農業には公共的な役割がたくさんあります。

 それをどのような形で「所得保障」などの政策にしていけばいいのか…と考えていました。

 そこにこの鈴木教授の話は新たな認識を与えてくれた、というわけです。困窮者支援として農業生産を行い、その買い上げに公費を投入する…という政策があり、実際にそれを途方もない規模でやっている国があるんだ! ということです。

 

 価格や所得を維持するというものですから、本来は国が、国内市場全体を相手にした大規模の対策をすべきことですが、まず県でやって国に迫ると言うのもアリなんじゃないでしょうか。鈴木教授はこう続けています。

 …日本は米を減産している場合ではない。しっかり生産できるように政府が支援し、日本国民と世界市民に日本の米や食料を届け、人々の命を守るのが日本と世界の安全保障に貢献する道であろう。

 某国から言いなりに何兆円もする武器を買い増しするだけが安全保障ではない。食料がなくてオスプレイをかじることはできない。農は国の本なり。食料こそが命を守る、真の安全保障の要である。国民みんなから集めたお金、税金は、国民みんなの命を守るために還元されなくてはならない。

 

 ここからはただの「感傷」にすぎませんが、私は「学校の帰り道がずっと田んぼ」という農村で育ったせいか、田んぼのある風景に郷愁があります。西日本新聞にエッセイで書いたことがありますが、今私の住んでいる地域に広大な田んぼがあり、そこにカブトエビ*1がいて、私は毎年ずっと興味を持って観察してきました。

 今私が住んでいる福岡市の地域は急速に開発が進み、田んぼがみるみる消えていっています。農業労働の苦労と後継者がいない現実を考えれば、軽々に何かは言えませんが、自然な感情として大変悲しい気持ちになります。田んぼがある風景が残ってほしいな、と強く思っています。

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*1:3億年前からその姿を変えていないとされています。明治以後に日本に入ってきた生物と言われていますが。

おーい磯野、公開討論会しようぜ

 福岡県知事選挙は一騎打ちです。

 いやー、私の時と同じですね。

kamiyatakayuki.hatenadiary.jp

 そこでぜひ、公開討論会をやって欲しいですね!

 1対1って、問題点をあぶり出す上で、すごくいいんですよね。

 しかも服部さんと星野さんって、どっちを支持するか全然別にして、政策対決点がガチンコなんですよ。NHKのサイト見てもらうとわかりますけど。

www.nhk.or.jp

 これが例えば5人も6人もいると、討論会を開いても時間がありませんから、単に一人一人の候補者が自分の政策を一方的に言うのとあまり変わりがなくなっちゃいます。

 だけど、一騎打ちはそうじゃありません。

 例えばコロナ対策ならコロナ対策をお互いに聴きあいっこができるんです。

 「PCR検査をどうしてもっと増やさないんですか?」とか「財源はどうするんですか?」とか、そういうことをお互いにやり取りできます。

 見ている有権者にとってはわかりやすいですよね。

 政策が一方的に書いてあるだけだと「ふーん……」で終わってしまう。

 こんなにすばらしい、好条件はありません!

 だから、何が何でも公開討論会をやるべきです。

 やらないのは、もうこれは「犯罪的」です。

 「民は由らしむべし知らしむべからず」ってマジで思っている政治家ですよ、そんなもん。

 で、星野みえ子さんがそれを提起したのは、これは待ってました! と思いました。

 

 

 ところが、なんと服部さんの陣営はこれを即日断ってきたというじゃありませんか!

 

www.nishinippon.co.jp

 

 これはダメです。(何も言わずに回答期限を迎え、その後も回答から逃げ回り続けた高島市長よりはマシかもしれませんが…。)

 「スケジュールが詰まっていて対応できない」っていうのが服部さんの言い分ですけど、今ならリモートでできます。公選法上もオンラインはほぼ規制がありません。

 民主主義は情報公開だと思っているなら、服部さんは受けて立つべきです。ぜひ、公開討論会、実現しようじゃありませんか。

 

 前回ちゃんとやってるんですよね……。*1

www.nikkei.com

 

 なんで一騎打ちになるとみんなやらないんですかね。怖いんですか?

 

 

*1:告示前ですが。

生理用品の無償配布

 福岡県知事候補の星野みえ子さんの政策を読むと、「あっ、こんな政策もあるのか」と思うものがいくつかあります。

www.minnanokai2021.org

 その一つは、生理用品の無償配布です。

●学生支援を拡充し、生理用品の無償配布も行います
コロナ禍のもとでアルバイトがなくなり、学生生活は困窮に追い込まれました。私も取り組んだボランティアの食糧支援に長蛇の列ができる光景はこれまでみたことがありませんでした。国は学生への支援金を給付し、福岡市も困窮した学生のために独自に支援金を給付しています。県としても独自の学生支援金の給付や食料・生活用品の現物支給を行います。
また、フランスでは政府がコロナ禍の都市封鎖にともない、学生に生理用品を無償提供しており、福岡県でも「生理の貧困」を無くすため実施します。

 星野さんの政策発表と同じ日に、日本政府は「生理用品の無料配布」にも使える交付金の拡充を決定しました。

www.okinawatimes.co.jp

 これも率直に言って、私が2018年に市長選挙に出た時は、全く視野になかった政策です。

 私は男性なので生理用品が必要になることはありませんが、つれあいや娘に頼まれてよく生理用品を買いに行ったりします。レジで黒い袋に包もうとするので「必要ありません」と答えるのがいつものやりとりなんですが…。(あれ、なんで黒い袋に入れようとするんですかね?)

 確かに女性独特の用品ではありますが、まさかその購入に事欠く、ということは考えませんでした。私が買いに行く生理用品(ナプキン)は500円くらいです。「500円が足りないというのは考えにくい」という認識になるんですね。

 しかし、例えばコメを私は5kg・1800円くらいで買いますが、家族3人でそれを1ヶ月で消費します。「コメが欲しいという人がいるけど、そんなに大変かな」と一瞬考えてしまいがちですが、「食料」というカテゴリーでまとまると、月の食費が数万円になったりします。そうなると、「食料を購入するためのお金が足りない」という認識は出るだろうなとは思います。

 同じように「生活必需品」というカテゴリーでまとまると、生理用品も節約したいと考えるんだろうなと思いました。

 こちらで紹介されていたデータでは「5人に1人の学生が『生理用品を買うのに苦労』」という結果が出ていました。

www.nhk.or.jp

 「学生が食料の無料配布に列をなす」 という話と同じで、私が学生だった頃(バブル期ですが…)には考えられない光景です。「必需品が買えない・足りないという事態がすでに広がっていて、コロナ禍で顕在化した」という視点・観点がないとそこへの手立てが出てこないですね。

 星野さんと選挙戦を争っている服部さんにそういう認識があるんでしょうかね。ぜひ聞いてみたいところです(だからこそ、星野さんと服部さんで、公開討論をやってほしいと思います)。

 

 共産党倉林明子参院議員が、3月31日に国会(参院厚生労働委員会)で質問していました。

倉林 国が買い上げて、ハローワークとか福祉事務所とか、学校とか、公共施設とか、広くちゃんと置いて自由に使えるようにと、直接支援の手も打つべきじゃないかと思うんです。これ、どうでしょうかね。

田村厚労相 今委員おっしゃられましたとおり、この生理の貧困という問題、今本当に社会的に問題になっておりますので〔…中略…〕どういうふうな、事実上どういうニーズがあるのか、つまりどういうような形でその生理の貧困という、生理で困っておられるという、貧困の下でなかなか生理用品を買えない女性の方々とどのような形でアクセスできていくのかということも含めて、これはちょっと、厚生労働省はこの中においていろんな形で連携等々のお手伝いをしてくることになろうと思いますので、ちょっと情報蒐集してみたいというふうに思います。同時に、学校に関しては、今もこれ保健室等々でお子さん方に対して生理用品を置いて、生理等々で生理用品がない場合には支給をしてるというようなこともやっておるというふうに我々としては認識いたしておりますので、そういうところもしっかり情報収集しながら、この生理の貧困問題、しっかり取り組んでまいりたいというふうに考えております。

倉林 ぜひ前向きに広げて欲しいと。学校、確かに保健室に置いていて、無料でくれるんだけれども、一枚借りたら二枚返してねというような実態もあるんですよ。だから、学校の中の予算でやっているので、そういうこと、本当に起こっているんです。ぜひそういう実態も踏まえて、ちゅうちょなく無料で使えるというところをつくって欲しいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 二枚返し! そういうのもあるのか。

 「星野知事」になって、学校や公共施設での配布が始まったらいいなと思いました。

意思決定への女性の参加が「15%以上」でいい人は服部さん、30%→男女同数を目指す人は星野さん

 福岡県知事選挙に出ている星野みえ子さんの公約は、コロナ対策が最大の柱ですが、もう一つの大きな柱がジェンダー平等です。

 NHKのサイトでは次のように記者が解説しています(強調は引用者)。

-争点は?
1つは、10年間続いた小川県政の評価です。
星野氏は小川県政を刷新して、新型コロナウイルス対策やジェンダー平等などに取り組むとしています。
一方、服部氏は小川県政を継承して、新型コロナウイルス対策や「人財」の育成などに取り組むとしています。

 

 正直、私が2018年に福岡市長選挙をたたかったときにはこの政策は「柱」にはなっていませんでした。これが首長選挙の政策の大きな柱になるところまで本当に短期間で時代が大きく変わったんだなと驚かされます。もちろん、これで星野さんが当選すればさらに大きな時代の変化を感じさせることになるわけですが。

 

 星野さんは森発言に触れて、公約で次のように言っています。

つい最近も森喜朗さんが「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「時間を制限しないといけない」といって大きな問題となり、辞任に追い込まれました。
 これは福岡県政にとっても人ごとではありません。女性公務員の管理職登用の状況は2020年でも13%しかありません。県は16%にするという本当に低い目標しか設定していなかったのですが、それすらも達成できていないのです。

 

 福岡県男女共同参画審議会が昨年12月に出した答申を読んでみましたが、確かに低い。

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「第5次福岡県男女共同参画計画の考え方について(答申)」より

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「第5次福岡県男女共同参画計画の考え方について(答申)」より

 こんなに低いんだ、と思います。

 県の審議会答申ですら、

現状では、管理職に占める女性の割合は 17.3%にとどまるなど、未だ低い状況にあります。依然として、家事や育児、介護の負担が女性に集中していることから、性別役割分担の解消に向け、更なる取組みが必要です。

としています。

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/571026_60677853_misc.pdf

 意思決定への女性の参加の低さ、端的に言って「締め出されてきた」状況ですが、それは何を生み出すのでしょうか。

 星野さんは次のように述べています。

ケア労働の中心を担ってきたのは女性たちです。私も多くの女性の皆さんの声を聞いてきました。しかし、その女性たちが意思決定の場から締め出されているのです。

 つまり、女性が県政の意思決定の場から締め出されてきたことによって、県政からケアを重視する視点がすっかり失われたのではないか、ということです。

 これは重要な観点だと思います。

 星野さんが指摘しているように、コロナであらわになった県政の社会保障・ケアの貧弱さの原因の一つがここにある可能性が高いと私も思います。

 自民党中心の県政が長く続いてかつて県内に21ヶ所あった保健所は今9ヶ所に減らされ、人員も801名から532名と大幅に減少しています。
 廃止・民営化・独法化で5つあった県立病院は無くなりました。
 また、県は国のガイドラインに基づき「地域医療構想」を策定しましたが、そこでは、2025年の必要病床数を2015年度に比べても3000床近く削減することになっています。

 ここでも、対決点は明瞭になります。

  • 服部さんはこれまでの県政のほぼ中枢にいたわけですから、意思決定への女性の参加はこの程度でいい、あるいは少改善するくらいでいい、という人は服部さんに投票しましょう。
  • 「県の指導的地位にしめる女性の割合を30%にし、男女同数を目指します」(公約より)という状況に変えたい人は星野みえ子さんに投票しましょう。

 そんなに難しい選択じゃないですね(笑)。

 いや、服部さんの「この程度でいい」とか「多少改善するくらいでいい」というのは恣意的なアレかもしれないんですが、そもそも副知事として県政を担ってこられたわけですから、結果に責任があります。そして、次の県の男女共同参画計画素案には標数値はそもそもありません(成果指標は今後設定される)。県庁の計画を規定した「福岡県特定事業主行動計画」では課長以上の管理職で女性が占める割合を「15%以上」としています(現在14%)。まあ、「この程度」「多少改善」というのは恣意的な表現じゃないことがわかってもらえると思います。

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/566535_60636945_misc.pdf

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「福岡県特定事業主行動計画の数値目標と実績(令和元年度)」より

 

 「半数とか無理に決まってるだろ」「15%くらいが現実的」「15%『以上』だから50%も含まれる!」と思う人はどうぞ服部さんへ投票してください。ホント。さあどうぞ。

 私は3月に福岡市議会で、星野みえ子さんの後継者である松尾りつ子市議の質問を聞きましたが、松尾市議によれば国連ではグテレス事務総長になり、幹部の男女同数、管理職の女性40%が実現したと言います。松尾市議は、中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表がそれを解説していた発言を引用していましたが、やはりトップの意思・決意は大きい。

 国連では、2017年にアントニオ・グテーレス氏が事務総長に就任し、「2028年までにすべての役職レベルで男女同数に引き上げる」数値目標が掲げられました。

 約2年で幹部レベルでは同数を達成し、中間管理職の部長・課長クラスでは40%弱です。

 日本人女性初の国連事務次長として軍縮担当上級代表を務める中満泉さんは、「トップの意思によって、かなり早いスピード感をもって達成することができた。非常に重要だったのは、数値目標をきちっと打ち出したことが上げられる。その目標に向かって、それぞれの部局で非常に詳細な行動計画を立てて、どのような進捗状況になるのかを常に監視されている。ありとあらゆるところに“ジェンダーレンズ”を組み入れて、きちんとやっていかないと。根が深い問題なので…なかなか差別をなくしていくことはできないと思っている」と述べています。

 グテーレス氏が事務総長になってから「国連の中での男女同数を達成することは、自分にとっても一番重要な優先事項のひとつである」と述べ、70年以上変わらなかったことが、一気に変わりました。男女同数を目指すのは世界の大きな流れであり、その実現にとってトップの姿勢こそ重要です。

(3月9日の福岡市議会での松尾市議の質問から引用)

 星野さんのような人に替わることは、ジェンダー平等やケアに手厚い県政をすすめるうえではかなり重要なことじゃなかろうかと私は考えます。

コロナ対策はこのままでいい人は服部さん、抜本的に変えたい人は星野さん

 小川知事の病気辞職にともなう福岡県知事選挙がスタートしました。

 小川県政を引き継ぐ服部さんと、それを変える星野みえ子さんの一騎打ちです。

 争点は何と言ってもコロナ対策でしょう。

 全国知事会は「GoToトラベル」事業の段階的な再開を国に求めるそうです。

www.nishinippon.co.jp

 この会合には、福岡県知事の代理として服部さんも参加しています

 県境を超えて全国から人を移動させることを奨励する「GoToトラベル」のような枠組みの事業を、感染の収束も見通せない中で行政がやるべきではないと思っています。専門家からも指摘があります。

www.tokyo-np.co.jp

 観光については、基本的には観光業の減収補填などに当てるべきだろうと思います。国の「GoToトラベル」予算は1兆3000億円余っているそうですから(3月17日衆院国土交通委員会答弁)、各都道府県にトラベル交付金として配分すべきです。コロナのもとで人の移動がままならず、じっと耐えなければならない観光業を支えるという使い方をしたほうがいい。ただ、感染が比較的小さい県の場合は、県内旅行に限って割引支援に使ってもいいでしょう。

 

 小川=服部県政は、少ない検査数のために感染の封じ込めができず、緊急事態宣言となり、ベッドやホテルの不足、自宅待機の不安、医療崩壊を生み出してきました。感染が少し落ち着いたら「GoTo」の枠組みに乗っかり、遠距離からの人の移動をあおってきました。そしてまた緊急事態宣言…この繰り返しです。

 

 星野みえ子さんは、公約で

 

  • 社会的検査を抜本的に拡充します

何よりも、重症化のリスクが高い高齢者の命を守ることです。そのために、私は高齢者施設への無料のPCR検査(社会的検査)を今のように月1回程度ではなく、もっと回数を増やし、入所者や医療機関にも広げます。これは政府の専門家の分科会の尾身茂会長もこの前の国会でぜひやるべきだとおっしゃっていたことで、どうして菅政権も今の県政もそれをやらないのか、私には全く理解できません。私が県知事になれば、まずこれに取り組みたい。

  • 感染を抑え込むためにモニタリング検査を今の10倍に増やします

そして、感染を抑え込む手立てをとります。
緊急事態宣言を解除して感染が少し収まってくると、国も県も、検査数がガタ減りになってしまいます。コロナは無症状の人がわからないまま広げてしまうのが特徴ですから、感染源が市中に残されてそれがまた感染を広げる大きな原因になっていると専門家もおっしゃっています。感染が収まってきたら逆に検査を増やして、どんどん感染した人を見つけて隔離・保護していく――これは衛生学の教科書に書いてある感染を抑え込むための初歩的なやり方ですが、菅政権も今の県政もそれを無視しています。現在無症状の人のモニタリング検査をやっていますが、私はこれを今の10倍くらいに増やします。

 

 と言っています。

www.minnanokai2021.org

 

となれば、

  • こういう県政を続けてもいいじゃないか、仕方ないよ、と思う人は服部さん。
  • 検査を抜本的に増やそうという人は星野みえ子さん。

に投票する、ということでいいじゃないでしょうか。前述の通り、服部さんに投票するともれなくGoToの枠組みもついてきます

 

 東京はすでにこんな状況です。悠長なことはしていられません。

news.yahoo.co.jp

 

結局調査しないのか

 12日に共産党福岡市議団の教育長申し入れが行われました。

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 中身は、新年度の少人数学級実施にあたり教員をふやして対応することなど3項目を緊急に提案したものでした。

 その中の一つが、下着検査などの人権侵害が、県弁護士会の調査でも明らかになったので、教育委員会としてすぐ調査をして是正せよというものでした。

kamiyatakayuki.hatenadiary.jp

 教育長はこのようなことがあれば人権侵害だと認めました。そのうえで、学校名や個人など具体的な情報を教えてほしい、対処するとしました。

 「そんな実態はない。対処しない」という回答よりははるかにマシなのですが、他方で議会で議員の独自調査でとりあげられて、これとまったく別に県の弁護士会から複数の告発情報が寄せられたのに、まだ教委としては動こうとしないのだといえます。「そんなあからさまな人権侵害があるわけないだろう」と高をくくっているようにも見えるのです。要するに「調査はしない」という回答じゃありませんか、これは。

 そして、議会答弁と矛盾する実態が横行していたという事実を認めて謝罪することはありませんでした。教育長ははっきり「そんな実態はない」と議会で言ったのに、別のところからゾロゾロと事実が出てきたんですよ? なぜ平気でいられるのか。「そんな実態があるなら具体的な情報をつけて、お前らがもってこい」と開き直っているふうにしか見えませんでした。

 弁護士会の調査を読むと、男性教師が女子生徒の検査をしているというケースが書かれています。たとえば男性教員があからさまなセクハラ・性暴力的な目的で「無垢な」女子生徒の下着を強制的に調べるというシチュエーションだと思ってしまうと、統計的にそれほど多くないと思ってしまうのかもしれません。(それ自体絶対にあってはなりませんし、調査で出てきたということは蔓延している可能性は否定できません。)

 しかし、それ以外のケースは考えなかったのでしょうか。

 教育委員会は、下着の色をたとえば白だと指定することは合理的な校則である旨の答弁をしています。

福岡市立中学校では、カッターシャツやブラウスの下に着用するものについては、華美な色はシャツやブラウスから透けて見えるためや経済的理由から色の指定をしていることはございます。

 いわば教育委員会自身が、下着の色の指定という規範の合理性を積極的に認めているのです。

 そうなると、たとえば薄い水色の下着をしていた女子生徒を、女性教諭が「あなた、それ、色がついてない?」ととがめ、「ついてません」と「反抗的」な態度を示した場合はどうでしょうか。

 いかにも「見せなさい!」という話に発展しそうですよね。

 私の娘の中学(福岡市立の中学)では髪の毛や服装が校則通りかチェックする「実地検査」があります。違反者は体育館にあつめられ「指導」されます。客観的に見てクソにもほどがある規範でも、教育的な必要性があるという建前で規範をつくったわけですから、現場はそれを守らせようとするわけです。

 とにかく決められたルールを順守させるのに必死になることが、ここでは「教育の熱心さ」として現れてしまいます。

 

 教育委員会が下着の色を指定するという校則に「合理性」を与えておいて、各学校でそのチェックや指導が日常的にあるならば、この種の検査が広範に同性の教師によって行われている可能性は容易に想像がつくはずです。同性による検査ならOK、「反抗的」な生徒なら何をしてもかまわない、とでもいうのでしょうか。

 また「下着検査」というのは、脱がせたり、中をのぞく必要は必ずしもありません。ブラジャーの色が透けて見えているかどうかをブラウスの上から「よく見る」のも「下着検査」なのです。教育委員会に聞きたいのですが、校則がまもられているかどうか、服の上から下着の色を「検査」するのは人権侵害なのでしょうか? それともそれは問題ないのでしょうか? そしてそれは男性教員が女子生徒にやってもいいのでしょうか?*1 

 教委みずからくだらないにもほどがある規範に合理性を与えておいて、その規範を守らせることを職務として押し付けられている現場の教師がいたら、「なんで人権侵害まがいのことをするんですかねえ」と言ってみせ、そんなブラック校則に疑問をもって「反抗」する生徒がいたら「どうしてトラブルをおこすような反抗の仕方をするんですかねえ」と不思議がってみせるというのは、ひどすぎるのではないでしょうか。

 

 制服のジェンダーをフリーにするようにデザインさせたものの、現場では「男子用」「女子用」といって販売・着用指導がされていることを、教育長は申し入れの場で嘆いていました。これは私も同感です。

 しかし、娘の中学では「女子は眉にかからない前髪に」「男子は耳にかからない髪に」というジェンダー的な強制が他方で平気で行われています。

 つまり、学校全体で人権侵害の校則を放置しておいて、下着検査だの制服だのといった特殊な一点だけについて人権を守らせるということはできないのです。教育委員会や教育長自身が発想をかえるしかありません。

 教育委員会は、学校側に通り一遍の照会をかけるのではなく、人権侵害であるという重大性を認識して、全生徒に聞きとるなど実態調査をすぐやって、状況を是正すべきなのです。そしてそもそも馬鹿げた校則に合理性を与えている発想をただちに根本から改めるべきなのです。

*1:弁護士会の調査報告記事では「廊下で1列に並ばされ、下着をチェックされる」という記述がありますが、これを女性教師でなく男性教師がしている可能性があります。なぜなら下着の色指定という校則はハラスメントではないか? という議会追及を、わざわざ否定する答弁を用意したほど「教育的意義」がある規範ですから、色がついているブラジャーをつけておるのではないかとの「健全な疑い」をもって廊下に女子生徒を一列にならべ、思春期女子のブラウスの上から胸まわりを、男子教員がじっくり・じろじろと検分することは「問題ない」というわけでしょう。